24話 誰かのために……
メリークリスマス
本編には全く関係ありませんが……
この話だけ人称を変えてみました。というより、この書き方しかできなかったのですが、読みづらいと感じてしまっていたら、すみません。
最初は月野明梨です。
○〜○このマークの間だけ人称が変わります。
最後に一宮蓮です。
よろしくお願いします。
新キャラ登場します。
「第ニ部隊は、今のところ順調のようだ。この間に、僕ら第一部隊も、できるだけ奥に進むよ」
隊長である中村樹也さんの言葉に、第一部隊の人たちは、準備体操をしながら頷いた。
「明梨、緊張してる?」
「かなり緊張してる……のかな? ちょっと言葉にしづらい不思議な感覚。彩ちゃんは?」
「私も同じ。緊張してるのに変な安心感がある感じ。まぁ、レベルが急に上がったからかもしれないけど……」
私たち二人は、しにがみさんに【眷属化】されており、レベルが上がっている。そして第2職業には【使役者】を選択した。役に立ちそうなスキルも習得している。
そして、部隊長である中村樹也さんが口を開く。
「『時間だ。第一部隊、突入する』」
スピーカーを使って声を大きくしていた。きっと名倉さんとしにがみさんに連絡もいれているのだろう。
隊列を組んで走って移動する。5分間走りながら進んだが、魔物は一匹も見なかった。
(順調だ……)
そう思っていたが、中村樹也さんから『止まれ』の合図が出た。
(私の【気配察知】にもかかってる。何の魔物だろう?)
角から少しだけ顔を出して確認している隊長。
ゴブリン、ウルフ、オーク……もう一度、連携を頭の中でイメージする。
闘争心を高ぶらせている中、隊長が言った言葉は……
「……アンデッドだ」
――バクンッ!――
心臓が強くはねたのがわかった。
嫌だなぁ……そう思ってしまった。
隊長である中村樹也さんは、隊員の顔を見渡している。
(できれば迂回して、別の道から行きたい)
○
月野明梨だけでなく、他の隊員もそう思っていた。
しかし、一人だけ違った。
「迂回しよう。別の道から病「あの!」院」
中村樹也の言葉を遮って、一人の少女が声を上げる。
「本当に、いいんですか?」
――彩ちゃん……?
「いいんですか? しにがみに任せきりで、私は嫌です。これから先、アンデッドと戦う時に、攻撃できない人は必ずいます。その時は、今度は第一部隊が助けたいです!」
静まった空気の中、一人の少女が意志を訴える。
――この時、中村樹也は考えていた。隊長として、何が最善の選択か……。自分にも恋人がいたが、会うことはなかった。しにがみのおかげで、自分たちの地域では、アンデッドはいない。……ここで無理に戦う必要はない。次がまだある……でも、次は闘えるのか? 目の前の少女は、何を訴えている?
しにがみと同じ……誰かの力に……。
島田彩香の言葉で、ふたたび、奮い立つ第一部隊。
「(そうだよ。私は……)あの! 私は、闘うために、ここにいます! 生きるために、助けたくて、この作戦に参加しました。だから、逃げたくないです!」
一人の少女が、また意志を伝える。
この救出作戦は、一宮蓮が寄った『謎の服飾店』に、偶然にも、『依頼ボード』に書き込まれたものであり、中村樹也も『謎の店』でその書き込みを見て、やると決めた。
その理由は、蓮が、一人の女性の『おもい』を叶えたいという、個人的な理由だ。
この理由を知るものは当人たちだけだが……。
そして、選ばれたメンバーは、誰一人として辞退しなかった。
それは、簡単なことだったから――『救出に向かうぞ!』――ただ『助けたい』という、実直なあの言葉……生き延びたから、できることを……。
第一部隊、全員の心に、再び決意が灯る――ここにいる理由は何だと……
「姉ちゃんたちがやるなら、俺もやります!」
10歳の少年が……
「俺も」「僕も」「私も」「これはやらなきゃダメ」
次々と……そして……
『こちら中村樹也。これより、第一部隊は、アンデッドの殲滅を開始する』
中村樹也が戦闘ではなく、殲滅と言ったのは、ただの直感だった。
そして、ショッピングモールにいる名倉武は、報告を聞いて、補給部隊を、第一部隊のルートから多めに向かわせることにした。
上空にいる式神カラスから送られてくる、リアルタイムでみる映像から、魔物が少ないのと隊員たちの精神疲労を考えての判断だった。
そして、第一部隊は、特に危ないことはなくアンデッドを殲滅。
【火魔法】を使い、痕跡も残らないようにし、後続の補給部隊が気にしないように配慮もした。
――殲滅後――
「彩ちゃん。ありがとう」
「ありがとう」「助かったよ」
一人の少女の言葉で、広がっていく感謝の言葉……この部隊の人たちの決意は、もう消えることはないだろう。
「えっ、そ、そんな、私はただ、自分がやりたかっただけだよ。あー違う。これじゃ私が、アンデッドをすすんで倒したい人みたいになっちゃう〜」
島田彩香の反応に、周りの人たちは小さく笑ってしまった。
島田彩香は、先日の魔物行進で、親を亡くしている。
死ぬところを見たわけじゃないが、魔物の群れに向かっていった、嫌いだった父親と、途中で走れなくなり娘を第一に逃がした、口煩いお節介な母親を……。
(もう少し、優しく接すればよかったなぁ)
反抗期だったため、親の前では、利口とはいえない態度をとっていたことを後悔していた。
だから、逃げたくなかったのだ。
今度は、助けられる力をもつことができたから……。
「病院まであと少しだ。気を引き締めて行こう!」
第一部隊は、隊長の言葉に頷き、歩を進めた。
――内藤病院にて――
「薫さん。病院内にいた魔物が消えています。あと、亡くなってアンデッドになった患者さんたちもです。何か起きています」
「わかった。ありがとう。とりあえず、警備の強化をするわ。あと、私はあの子の診察にいくわね」
「はい」
電気での明かりが一つもない、太陽の光だけの、少し薄暗い部屋の中で、二人の人物が現状の話をしていた。
ここ内藤病院は、半分を閉鎖して、残りの半分を80人で使っていた。
月曜日の昼に停電し、非常用の電気を使おうとしたが、なぜか使えなかった。
そして、呼吸器などをつけていた患者は、徐々に死亡していった。
遺族に連絡を取ろうとしても無理。
結局、取れた行動は、清潔にして一つの部屋に置くことであった。
そして、その日の夜に、ダンジョンから魔物が溢れ出し、自宅にいた内藤薫は、命からがら病院に逃げてきた。
夜勤の者や体を動かせる患者など、すぐに動ける者たちでバリケードを作って、夜が明けるのを待った。
夜が明けて見た光景は、ひどいものだった。
町中にはびこる魔物たち。
ここにきた魔物は、最初は人数でなんとか撃退していたものの、突如死体が動き回るようになったのだ。
苦肉の策に、病院を半分捨てることにして、何とか生き延びることはできたが、それなりに被害は多かった。
肉体的な疲労、精神的な疲労、そして情報が得られなく、いつ死ぬかわからない状況……。
「あの【書き込み】というスキルが本当に使えていればいいけど……」
内藤薫はそう呟いて、一つの病室に入った。
「調子はどう? 陽奈ちゃん」
「薫さん。今は大丈夫だよ。『チャチャ』とね、お話ししてたの」
弱々しい声だが、なるべく明るく答えた、『陽奈』と呼ばれた少女の腕には、茶色いクマのぬいぐるみが抱えられていた。
「そう。よかったわね」
そう答えたあと、一人の女性が部屋に入ってきた。
「陽奈。あ、薫さん。ありがとうございます」
「ママ、チャチャとね、お話ししてたの」
少女は、なるべく元気そうに、母親に言う。
「そう。何を話したの?」
「今日は――ゴホンッ! ゴホンッ!――「陽奈ちゃん。とりあえず、横になろうか……また後で聞かせてね」
「うん」
そう言って【回復魔法】をかけたあと、内藤薫は部屋を出た。
「後でママにも聞かせてね〜」
少女の母親は、そう言って、娘の頭を優しく撫でる。
(昨日と違って、今日は静か、大きな声が聞こえない)
――ずっと……静かなままがいい
少女は、気づいていた……。
内藤薫や自分の母親が、昨日から急激に元気がなくなっていることに、自分の知らないところで、何かが起こっていることに……。
薄暗い病室で、自分だけベッドに寝ていることが、嫌だった。
だから願った――『ママたちを助けて』――と……。
少女は、母親の手の感触を感じながら、一番の友達を抱きしめて、眠りについた……。
○
――病院屋上にて――
「もう大丈夫だよ。でも、もう少しだけ寝ていてね」
スキル【聴覚強化】のおかげで、少女と、そのぬいぐるみの会話を、俺は偶然耳にした。
それは、とても優しい『おもい』のこもった会話。
ひとり、病弱で、薄暗い病室に寝込む少女……何もできなくても、大好きな母親と看護師のために……
「(頑張らないとな……)それにしても……」
そう言って、俺はここから2キロほど離れたところの地面をみつめる。
「随分と、余裕な行進ボスだな……」
人類殲滅は、子分どもにやらせておけばいい、ってか……。
【気配察知】に引っかかったとき、まさかとは思ったが、【神眼】で確認して確信に変わった。
あんなところに居られると、攻撃するのは難しいな。
攻撃方法がないわけじゃないが、不用意な刺激は控えたい。
「まぁ、今は寝ていられる方が、こっちとしても都合が良いな。その間に……」
――迎撃の準備を整える!
「眠りながら後悔しろよ」
王様に近づいているのは、無情な死の音だぞ……
眠ったままの行進ボスに向かって、可愛いうさぎのような仮面の下で、しにがみは微笑んだ。
読んでくださりありがとうございます。
各部隊の活躍?を書きましたが、書いた理由は基盤作りです。これで戦士たちの完成です。
そして最後に登場しました新キャラですが、どこかで活躍させたいです。
次の更新は28日です。




