22話 ケンカ
第2部隊突入です。
『田口鉄』視点になります。
よろしくお願いします。
「それじゃあ、行ってくる」
そう言って俺たちのリーダーは、地面を力強く蹴って空を飛んでいった。
――数十分前、ショッピングモールにて――
「はっ⁉︎ 俺が眷属⁉︎」
正面の駐車場に行く前に、仮面の奴に呼び出されて「眷属になれ」と言われた。
「断る」
俺はそう言って振り返り、その場を去ろうとした。
【眷属化】の効果は知っている。
便利だと思うが、俺は他人に頼るのがあまり好きじゃない。
「次の魔物行進。春野弥生に、何かが起こるとしてもか?」
「あ゛ぁ?」
どういうことだ? 弥生に?
さっきの放送でも、弥生は救出メンバーに入っていなかった。
「何かある者は部屋まで来い」と言われたから三人で行ったんだ。
そのあとは、弥生だけ部屋に入って……
部屋から出てきたら、弥生は第三部隊に入ったと言っていた。
特におかしなところはなかった。
むしろ、やる気に満ちていた。
こっちが心配になるくらいに……
「何を話した……」
そう言って詰め寄り、会話の内容を聞いた。
(俺は…………)
◇
ダンジョンから魔物が溢れてからというもの、俺は助けられてばかりだ。
金を取ろうとして失敗して、弥生や空気の奴に助けられ、魔物行進が終わったあとも、どうすればいいかわからなくて仮面の奴に助けられ……。
情けな――「第二部隊。それぞれ、武器やスキルの確認をしてくれ。といっても、そんなに確認することはないが……」
考え事をしていたが、部隊長である半田さんの発言で我に返った。
この部隊は、40人中30人が【冒険者】だ。
武器はショッピングモールを占拠していたゴブリンの集団からもらったらしい。
【魔法使い】も含め全員が剣、槍、棍棒や金属バットを装備している。
……ん?
「うわっ……何だあれ?」
誰かが声を上げた。
それもそうだ。
急に視界に、炎のような赤い球状の膜が現れたんだ。
驚かない奴はいないんじゃないか?
「……はい。わかりました」
半田さんは、あれが何かわかったようだ。
そして、第一部隊の隊長『中村樹也』さんが発言した。
「あれは僕らのリーダーが使った魔法だそうだ。職業【魔法戦士】のスキルらしい。だから心配は……」
《レベルが上がりました。レベルが上がりました。レベルが上がりました。レベルが………………第2職業が解放されました》
「……なっ!」
今いくつ上がった?
急なのも重なって数えてなかったぞ。
半田さんも話を途中で止めていたということは、【眷属化】されているのか?
「どうかしましたか? 鉄さん」
「いや、なんでもない」
【眷属化】ことって言ってもいいのか?
特に何も言われなかったよな?
「田口鉄だな。ちょっとこっちに来い」
「はい」
半田さんに呼ばれたのでついていく。
「あいつから伝言がある。『無理をするな。とは言わない。絶対に聞かないだろうから』」
バカにされているようで、なんだかもの凄くイラッとした。
この作戦が終わったら、一発ぶん殴ってやろう。
「それと、『情けないと思っているなら、それは間違いだ。やるべきことを、全力でやれ』だそうだ。……何があったか知らないが、この部隊の隊長は俺だ。戦闘中は俺の指示に従ってもらうぞ」
……やるべき、こと……
「はい」
――弥生を守るために……強くなりたい――
「あ〜それと、俺と樹也さん、玲奈さん、部隊長は、第2職業が解放されたら【使役者】を取るようにしているんだが……特に決まってないなら使役者を取ってもらっていいか?」
あ〜、使役者のメリットは【眷属化】での経験値共有や互いの生存確認、【眷属強化】や【眷属伝心】など。
デメリットは、ホストにステータスがわかってしまうことだが、何かやましいことがない限り拒否するひとは、なかなかいないだろう。
「わかりました。特に考えてなかったので使役者をとります」
ステータス画面を開いて第2職業を使役者にする。
スキル習得のアナウンスが頭の中に響く。
CPを使って使役者のレベルを2上げる。
「おい」
「なんすか? 鉄さん」
「使役者を取った。【眷属化】するぞ」
「おぉ! はいっす!」
あと二枠をどうしようかと考えていると、半田さんが俺のところに来たので二人紹介してもらった。
「もうすぐ3分経つ。そうしたら、あの赤い球状の魔法が消えるので、消えしだい突入する」
第2部隊の人たちに聞こえるように、半田さんはスピーカーで声を大きくして言った。
ふぅー
俺は大きく息を吐いた。
緊張は……してるな。
タイマンも集団のケンカもしたことある。
仲間を泣かせた奴らのところに乗り込んだこともある。
けど、ここまで緊張はしてなかったな。
(……強くなるぞ)
「さぁ、ケンカしようぜ……」
誰に、どこに向かって言ったのかわからないが、なんとなく、そんな言葉が、自然と口からこぼれ出た。
――数十秒後――
『【魔法フィールドの消滅を確認。第2部隊は作戦通り突入』
「第2部隊。これより戦闘フィールドに突入する」
戦闘フィールドに突入した俺たちは、寂れた町を進んでいた。
微かに漂う血の臭い。
40人が一斉に走っている足音が、バラバラのリズムを刻んでいるが、それが順調なように思える。
――スッ――ピタ――
半田さんが右手を挙げたので、全員その場に止まる。
「ここを曲がったところに魔物がいる。ウルフ型の魔物だから奇襲は難しい。だが、俺たちを見かけたら仲間を呼ぶだろう。俺たちは元々暴れるための部隊だ。準備はいいか?」
半田さんの言葉に頷き、【魔法使い】の10名は少し離れる。
冒険者の俺たちは武器を構える。
ちなみに、俺は金属バットを持っている。
「行くぞ。こちら第2部隊。戦闘を開始する」
半田さんの合図と共に、俺は先頭に出る。
「「「ウォォォン!」」」
魔物たちは吠えて、「獲物を見つけた」と仲間に合図を送った。
そして、一匹が飛びかかってくる。
「しゃぁぁオラァァ!」
俺も勢いよく前進し、右手に握ったバットを右上から左下に、頭めがけて全力で振り下ろす。
――バキッ!「ギャン!」――
頭の骨を砕く音、そして悲鳴をあげて地面に激突した。
「ヴァォン」
そして、あまり時間をあけずに、二匹目が俺の首をめがけて噛み付いてこようとする。
すぐに膝を曲げ、バットごと右手を地面につけ、体を低くし下に潜り込む。
「ふっ!」――ドゴ――「ガフ……」
左拳で下から腹を殴り、一瞬、宙で止まる。
「ラァァァ!」
膝を伸ばしながら、今度は右下から左上にバットを勢いよく振り上げる。
――ボバキ!「ギャフゥ」――
宙を舞った魔物は、数秒後に地面に落ち、三匹目が左後ろから近づいてきていた。
今度は爪で攻撃しようと俺の左脚を狙ってきた。
「あめぇ……」――キュッ――ドゴ――
左脚を軸にして、右のつま先で、回し蹴りを顔の左側にいれる。
「ギャゥン……ガルル「ハァッ!」――バキッ!――「……ァ」――バタン
蹴りでのダメージは少なかったらしく、攻撃をやめさせただけだが、すぐにバットを頭に振り下ろし、息の根を止める。
――ドクン、ドクン、ドクン――
(おいおい……命がけの闘いだぞ……なに楽しくなってんだよ……)
心臓の鼓動が速い。
体があついのに鳥肌が立ってる。
まだまだいけるぞ……
「「ファイアボール」」
「「アクアボール」」
「「ウィンドボール」」
魔法使いたちが魔法を使用する声が聞こえる。
射程内にいる魔物に魔法を放ったようだ。
俺たちに向かってくる魔物の数はあまり多くない。
それぞれレベルも少し上がるだろうから、これなら対処することができる。
そして、そろそろ1分が経つ。
第1、第3部隊が突入する頃だ。
無事に目的地まで行ってくれよ弥生……
読んでくださりありがとうございます。
すみません。次回の更新は18日の火曜日になります。土日で書き溜めができなかったです。
そして新作を書いてみました。
ジャンルはハイファンタジーです。
『テーマダンジョンへようこそ!〜平和で安心で楽しく学べるダンジョン生活始めてみませんか?〜』というタイトルです。
まだ2話しか投稿してませんし、更新も不定期で遅いと思いますが、興味を持った方は読んでみてください。
内容としては、少年がダンジョンで生活する的なことをゆっくりと書いています。
一つも完結してないのに新作を出す……こんな作者ですが、よろしくお願いします。m(_ _)m




