21話戦闘開始
俺たち第一陣、魔物討伐隊102名は、建物が崩れた瓦礫の山の上にいる。
ここは風下で、これから突入する地域からは、何かが焦げた臭いや、鉄が錆びたような臭い。
これからもあるであろうこの不快な臭いは、慣れたくないが、慣れなければならない。
見える景色も崩れかけた建物が多く、道が瓦礫で塞がれているところも見える。
若干だが、魔物の吠える声も聞こえる。
名倉さんの報告――式神カラスに持たせたフォン2号からリアルタイムで送られてくる映像――では敵の数は魔物だけで700以上、アンデッドを含めて千以上もしくは1,300以上いるという。
それでも病院に生き残っている人たちは凄いと思う。
可能性がゼロではないというのが、初めて実感できた気がする。
この地域の人口はどのくらいか知らないが、アンデッドがあまりいないというのは気分が少し楽になる。
体の損傷が酷ければアンデッドにはならない。
魔物よりもアンデッドの方が多いところもあるだろう。
話が逸れたが、問題は……
「千以上の敵に百で挑む。いったい、どこのどいつだ? こんな無謀とも言える作戦を考えた奴は?」
悪態を吐くように……は少し違うが、ちょいワルで少し強めに、吐き出す感じで言う。
言い終わったあと、やれやれと感じで、首を横に振るのも忘れない。
「「「「「「「あんただろ!!!!!」」」」」」」
ほぼ全員にツッコミをされた。
しかし、暗い表情をしている者は一人もいないようだ。
「ふふふっ」
なぜか可笑しくて笑ってしまった。
こうして俺がふざけても、誰も怒って帰らずにツッコミを入れてくるということは、それだけ余裕が出てきているのか、ヤル気に満ちているのか……どちらにしても頼もしいな……。
「名倉さん。目標と作戦の確認を」
『了解した。今回の作戦。成功条件は、病院に籠城している者たちの救出。敵の数は1000以上。『しにがみ』が戦闘を開始した3分後に、『半田良弥』率いる第二部隊を投入。その2分後に『中村樹也』『朝倉玲奈』率いる第一、第三部隊を左右から投入。三方向から魔物を殲滅しながら病院を目指す。以上だ』
「今回の作戦は、経験を積むためでもある。ピンチになったら即撤退すること。これだけは守ってくれ」
俺の言葉に皆頷く。
なんて言葉をかけようか……「勝つぞ」
いや、違う……勝つのは当たり前なのだ。
『負け=死』なのだから。
ここにいる全員が……絶対に生き残りたいと思えるような言葉を……
「この戦いが終わったら、リーダー権限で全員、強制参加のパーティーをやる。美味い物をたらふく食べよう。食べたい者は、死ぬんじゃないぞ。それじゃあ、行ってくる」
そう言ったあと、地面を力強く蹴り、空を飛んで戦闘フィールドに入る。
「こちら『しにがみ』。ただいまより、戦闘を開始する!」
『こちら名倉。了解した。戦況の解説は任せてくれ。何かあればすぐに報告する』
名倉さんは総司令だ。
式神カラスの持っているフォン2号から、リアルタイムで送られてくる映像をみて戦況の解説をしてもらうことにした。
スキル【気配察知】を使い、魔物とアンデッドをみつける。
目標はこの3分で敵の数をできる限り減らすこと。
それと、残りの枠で【眷属化】した者たちのレベルをなるべく多く上げることだ。
「【付与魔法・火】」
人間に付与魔法を使うと、髪の色が変わる。
今回は『火』なので赤い色になった。
「【魔法フィールド・火】」
俺を中心に、赤い球状の膜が張られる。
職業【魔法戦士】の職業スキル【付与魔法】と【魔法フィールド】を使った。
【付与魔法】
自身や他のモノに属性を付与することができる。
習得している属性の魔法のみ使用可能。
【魔法フィールド】
使用者を中心に、空間を指定された属性にする。
習得している属性の魔法のみ使用可能。
指定された属性を持っているモノは、全ステータスがアップする。
指定された属性を持っていないモノは、全ステータスがダウンし、属性ペナルティーが発生する。
今回は、『火』の属性を使ったので『火属性』になっていないモノは、ステータスダウンと一定時間ごとに体力が減っていく効果を与える。
※種族・装備品によっては効果なし。
ちなみに、【眷属装備】された眷属たちにはステータス上昇の効果はないが、属性がつく。
そして、目の前には魔物とアンデッドが混ざった軍団がいる。
ここには、『火属性』を持った敵はいない。
【神眼】で確認すると全ての敵の体力が徐々に減っているのがわかる。
魔法で赤く染まった景色の中、俺は魔物の群れの先頭集団の前に静かに降り立ち、大鎌の刃に魔力を溜め……
「飛斬!」――シュイン――
大きな弧を描くように、全力で振る。
バタン、バタンと、次々と倒れていく魔物とアンデッドたち。
近くにある死体から【異空間倉庫】に数を数えて回収しながら奥に進む。
【並列思考】【高速思考】のスキルがあるので、あまりペースを落とさずに進むことができる。
「こちら『しにがみ』。討伐数100を達成」
『さすがだ』
狼の魔物が5体、それが10組いる。
【気配隠蔽】の効果もあり、向こうは俺に気づかない。
「ふっ」――シャリン――
なるべく魔力は温存したいので、今度は近づき大鎌を振って攻撃する。
――スパッ、スパスパスパスパ――
複数の敵に一人で挑み倒していく。
なんだか無双ゲームの中にいるみたいだ。
覚悟しておけ魔物ども。
おまえたちは、『しにがみ』の……
いや、『しにがみ軍団』の執行対象だ。
「討伐数200を達成!」
『一分を経過した』
第二部隊が突入するまであと2分。
「はぁぁぁあああ!」――シャリン! シャリン!――
少しテンションが上がってきた。
視界に入った魔物を次々と、一瞬で狩っていく、気づいた時には……いや、気づかせることなく魔物を屠る。
残り90秒……
「討伐数300!」
もっとだ……もっと……
「【覚醒】!」
LV10の【覚醒】は100秒間ステータスを3倍にする。
俺の場合は、200秒間6倍だ。
攻撃力は487、敏捷性は503。
その6倍――2,922と3,018――
「【神速】!」
100以上いるであろう魔物の群れに砂埃を上げて突っ込む。
動いて、斬って、回収する。
それを何度も繰り返す。
そして……
「討伐数500達成」
同時に、3分が経った。
『了解した。これより第二部隊を投入する』
『半田良弥』率いる第二部隊。
40人のうち30人が【冒険者】の職業を持ち、血の気の多い者たちがいる部隊。
「中央では暴れてもらうぞ」
あと110秒で【覚醒】がきれる。
それまでどのくらい倒せるだろうか?
ペナルティーがなくなったら、一足先に病院の近くに行って、その周辺の魔物を狩っていよう。
読んでくださりありがとうございます。
次の更新は11日の火曜日です。




