3 HR②
自由時間は自己紹介が終わるとすぐに始まった。
人気ランキングは丹紫姫が圧倒的に一位。
その他にも、三人決まった者達が残り二人を勧誘していたりなどの場面も見られる。
「なあ春之」
「ん?」
「お前、地登勢さんにあんな態度取って良かったのかよ。御三家の次期当主だぜ?」
「まあ、なんとかなると思うけど‥‥‥」
「なんとかって‥‥‥、いやそれよりも藤ヶ崎さんだよ。お前どうやって捕まえたんだ教えろよ」
「ハルとは幼馴染なのよ」
鬼気迫る顔で春之の肩を揺さぶっていたサブに声がかけられる。
「はじめまして。藤ヶ崎美耶妃よ。美耶妃でいいわ」
「こ、こちらこそ初めまして。丸ノ内小三郎っす。自分のことはサブって呼んでください」
サブが緊張してカチコチな挨拶をする。筋肉達磨が緊張で固まっている姿が滑稽に見えた春之が声をあげて笑った。
「そういえば、うちのチームっていつ決まったんだ?」
一通り笑いが治まったところで、春之がずっと気になっていたことを質問した。
美耶妃のチームは彼のチームであるため、既に決まっていることに驚くと同時にどんなやつが来るのかと身構えていたのだ。
「決まってないわよ」
「お前‥‥‥‥」
「あ、サブはチーム決まってる? なんならうちに入りなよ」
美耶妃の衝撃発言に固まり、反応に遅れた二人。
決まっていないのに決まっていると言ったことにも驚きだったが、そもそも見当すらつけていないことがさらに驚愕を増させる。
その直後に突然のサブの勧誘だ。一連の行動から、美耶妃の適当さ加減が滲み出ているなぁとしみじみ思ってしまう。
「サブって前衛でしょ? 今決まってるのって、同じくの私と、中衛のハル。あとは狙撃魔銃使う後衛の娘の三人なのよ。だから今は前衛と中衛を募集中ってこと」
「後衛の狙撃魔銃使いって誰?」
「サっちんよサっちん」
「ああ、あの犬っころみたいな」
サっちんという名前を聞いて共通の顔が思い付く二人だが、サブにはそのサっちんなる人物が分からずに質問が出る。
ごめんごめんと美耶妃が笑いながら、
「サっちんってのは本郷彩月っていう、藤ヶ崎の分家の娘のことよ。うちに入るなら紹介するけどどうする?」
「チームの勧誘っていうよりも女の子の紹介みたいに聞こえるんだけど」
「勿論可愛いわよ。胸も大きいし。ねえ、ハル」
「‥‥‥確かに大きいな。『巨』ではなく『爆』って感じだ」
春之の言葉に大声で興奮した声を出すサブ。鼻息を荒くしながら春之に詳細を問い詰め始める。
サブの無数の質問の回答に無駄な労力を使った春之だったが、その甲斐もあったのかサブのチーム入りが決定した。
よって、現時点で、惰眠、ギャル、筋肉、犬の四人チームが誕生したことになる。
五人一組を組むには一人足りないが、初日で四人決まれば上々だと一人納得する春之だったが、
「いやいやいや、お前がチーム決まってるって言わなければ今頃は五人決まってたんだが」
「あんたが教室で浮くようなことしたからでしょう? まあ、お陰で地登勢の勧誘を受けなくて済んだからいいんだけど」
「おいおい地登勢さんは御三家だぜ‥‥‥‥って、美耶妃も藤ヶ崎家の出身か」
「こう見えてもな」
「誰がこう見えてもよ。どう見たって御三家の令嬢に見えるでしょう?」
春之の言葉に反論する美耶妃だが、ここで藤ヶ崎美耶妃の容姿をおさらいしよう。
肌は薄小麦色。
髪は明るい茶髪を結ばずに垂らしている。
制服は着崩し、臍や谷間が常に制服から覗き、スカートも極限まで短くされている。
どこからどう見てもTHEお嬢様とは言い難い。
「チョリーッスとか言ってそうだよな」
サブが溢したのを春之が聞き取り、おもわず吹き出した。
それがツボに入った春之は咳き込んで噎せながらヒイヒイ笑う。腹を抱えて爆笑する姿につられてサブも笑い始める。
「さしずめ藤ヶ崎チョリ子か? やべぇ、腹痛━━━━」
春之にそこから前後の記憶がない。
◇◆◇◆◇◆
目を開けるとそこは喫茶店だった。
レトロな内装が趣深いその店の一角に春之は座らされていた。
「あら、お目覚め?」
何故か痛む頭頂部を擦りながら状況を改めて確認すると、席を同じくして座っている者が三人。
向かいに座っているのは先ほどの声の主である美耶妃。そして、俺の右隣に座る筋肉達磨サブ。そして、
「あ、春之殿。お目覚めになられたのですね。急にお倒れになったとお嬢様よりお聞きしましたが」
美耶妃と隣に座っている小柄な少女。
彼女こそ、うちのチームの狙撃担当となるサっちんこと本郷彩月である。淡い栗色のショートボブのてっぺんにはアホ毛がピコピコと揺れている。
愛嬌のある相貌と一五〇センチほどしかない小柄な体に戦闘力五十三万の爆弾を二つ装備しており、昔から美耶妃の後ろを子犬のように付いて回っていた━━━━後者は現在も変わっていないが。
揺れるアホ毛が嬉しさを表現しているのだが、春之にはそれよりも気になった点があった。
「急に倒れた?」
「そうよ。突然倒れたから心配したのよ。ねえ、サブ」
「そ、そうだな。俺が運んできたんだぞ」
美耶妃の言葉を肯定するサブ。
美耶妃がサブを射殺すように睨んだのと、サブの顔に冷や汗が流れているのが不思議だ。あと、頭頂部が痛い理由も。
━━━気になるところだが忘れることにした春之だった。
「話は変わるが彩月の紹介は済んだのか?」
「ええ、勿論」
「私も小三郎殿のことを紹介していただいたでありますよ」
ウンウンと頷く彩月。
頼もしい前衛でありますね、とサブを褒め称えているからか、サブも恥ずかしそうにしているが口元はだらしなく歪んでいる。
春之は机の下でサブの足をつついて小声で語りかける。
「どうだ? 気に入ったか?」
「ああ。ドストライクだ」
満面の笑みで答えるサブ。
「自分が紹介したのになんだが、お前ロリコンだったり‥‥‥」
年齢的にはロリコンではないのだろう。だが、見た目は間違いなく幼い。そもそも一九〇センチの厳つい顔のサブが一五〇センチの童顔な彩月と並ぶと、見る人によっては父と娘だと見えなくもない。
そういうこともあり、若干犯罪臭が漂っていることに変な汗をかく春之だったのだが、鬼気とした顔でサブが迫ってきたことに更に変な汗を吹き出した。
「いいか春之。諸説あるが、少なくとも俺はロリ巨乳というはロリには該当しないと考えている。ロリとは小さく愛らしい存在であり、人々はそこに救いを求めるのだ。あの愛らしき笑顔。一つ一つの言葉や動き。その全てが罪深くも我々を魅了し、虜にさせる。しかし、触ってはいけない。あの尊き一輪の華を、遠くから守り、愛で、慈しむことこそ至高にして絶対。それが俺の愛。そして、そこに下品な脂肪の塊があってはならない」
荒い鼻息で春之にはよく理解できない話を熱弁するサブ。
「いや、でもさっきドストライクって言ってなかったっけ?」
「勿論ドストライクだ」
なんでもサブが主張するには、そもそも彼はロリコンではない。彩月はロリ巨乳であり、ロリっ娘には該当しない。そして、彼はロリ巨乳が好き。よって、彩月を好きになってもロリコンではない、という理屈らしい。
さて、春之の率直な感想は「よくわからない」というものだ。そもそもロリ巨乳がロリっ娘に該当しないということが理解できなかった。
彼の中では、幼いもしくは小さい=ロリっ娘だったからだ。
サブの主張が世間が理解するレベルで筋が通っているのかはわからなかったが、少なくとも蛇が出てこないようにあまりつつくのは止めようと決意した春之だった。
「ま、まあよくわからんが頑張れよ」
「おう」
「なぁに? 何の話してるの?」
「五人目はどうしようかと話していただけだ」
ニヤニヤとしながら首を突っ込んできた美耶妃に適当な嘘をつく。
適当な嘘とは言え、決してそれは無視していい議題ではない。
「どうしましょうかね〜」
「欲しいのは中衛だよな」
「そうでありますね。前衛に二人、中衛にデバッファーが一人、後衛に一人でありますので攻撃魔法専門の術師が欲しいところでありますよ」
五人一組において、最も安定すると言われているのが、前二、中ニ、後一という編成だ。それに当てはめた場合、春之のチームには中衛が一人足りなかった。
一般的に中衛と呼ばれる戦闘スタイルには主に二種類が存在する。
魔銃と呼ばれる武器を触媒を使うことで、体内の魔髄を弾として撃つ銃撃手と、術式を自ら構築し、様々な攻撃魔術を駆使して戦う術師の二種類だ。
術師の場合、春之のデバッファーをはじめとして様々なスタイルがあるが、この二種類が一般的であり最も人口が多い。
さて、何故春之達が術師を必要としているかというと、それは術師の応用力にある。
豊富な魔髄さえあればある程度の戦闘力が保証される銃撃手と違い、強い術師には才能が必要とされるものの、彼らの有用性は高い。
銃撃は使う魔銃によってスタイルが変わる。マシンガンタイプなら連射、ショットガンタイプなら散弾や威力などだ。
魔銃をいくつも装備することは可能だが、魔銃も重量があるため、どれか一つ、もしくは二つとするのが定石であり、安定性があることと引き換えに応用力が低い。
しかし、術師は違う。構築する術式次第で威力や範囲を変えることも可能だ。散弾タイプの魔弾を使うこともできるし、広範囲を爆撃することもできる。また、属性にもよるが土を操って壕を作ることなどもできる。
後者は才能が必要とはいえども、この朱雀院にいる限りは基準値以上のラインは超えているということであり、能力は保証されていると言って間違いないため安心できることもあった。
春之のデバッファーとは、デバフを専門とする術師の俗称であり戦闘能力は低い。中衛からの攻撃支援の有無は大きく戦局を左右するため、攻撃専門の術師、最低でも銃撃手が欲しいのである。
「まあ、見つけ次第ってところだな」
「銃撃手でもいいわよ。中衛からの攻撃支援がないとこっちが辛いわ」
「私めも頑張って援護する所存ではありますが‥‥‥」
中衛の攻撃支援のことを議論する三人の話を聞いていると何故か自分がディスられているように感じてしまう春之。
「デバフ担当で悪かったな」
「何言ってんだよ春之」
「春之殿は指揮官であります。正直に申し上げて、優秀な指揮官は他のチームは喉から手が出るほど欲しがる人材でありますので術師よりも重要でありますよ」
ふてくされて悪態をつく春之の肩に腕を回して頭をかき回すサブと、笑いながら春之を持ち上げる彩月。
そんな優しい仲間達に不覚にもジーンときてしまうが━━━━━
「ま、ハルが優秀かはさておきだけど」
「お前の今の一言のせいで全てが台無しだよ!?」
サブの主張=作者の主張という方程式は成り立っていません。




