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25 領土探索

 


 三つのエンジンの駆動音が山の中を進む。こんな土地が一つの学校の中にあるというのだから恐ろしいものだと春之は考えながら、舗装されていない山道を進む。


「この道は公道なのか?」


「そうみたいでありますね。この先に分岐があって、その先が我々の領土のようであります」


 春之の後ろに乗った彩月が地図を片手に周囲を見回している。彼女の言ったことは正しく、少し進めばY字の分岐点が現れた。


「ここから先の一帯が我々の領土のようであります。面積は約三六ヘクタール、他のチームは二五ヘクタールのようでありますから、少し色をつけてくれているでありますね」


「その分、かなり奥地にあるけどな」


「校舎からどれくらい時間がかかったかしら」


「山道で速度も出せなかったからなぁ」


「三十分ほどだろうな」


 春之達は領土に足を踏み込み、周囲をグルリと見回す。周囲は高い木々が鬱蒼と生い茂り、人の住めるような土地ではない。

 だが、自給自足の生活をするには好都合なのかもしれないと考えながら、春之は地図を眺める。

 春之達の領土には川も流れており、見てみなければわからないが、魚が生息している可能性があるし、綺麗な水であればそのまま使えるかもしれない。

 また、猪などの野生動物などを狩ることができれば食費の削減にも繋がるだろう。


「まあ、取り敢えず家建てるのに良さげな場所を探索してみるか?」


 サブが巨木の幹を手のひらで叩きながらそう提案した。


「そうだな。地図を見るかぎりでは公道と川という二つの重要地点に近い場所がある。取り敢えずそこに向かってみるか」


「なぜ貴様がしきっているんだ。私はまだ貴様がリーダーであると認めたわけでは━━━」


「よし、地登勢はここに置いていきましょう」


「待て待て待て。私が悪かったから置いていくのは━━━」


「チームに入ったからには春之の言うことは聞いてもらうわ。それでもいいかしら」


 山道に置いていかれる可能性に慌てた丹紫姫に弥弥妃が凄む。低い声で瞳を覗きこむ美弥妃に、さすがの丹紫姫もコクコクと首を縦に振った。

 相変わらず怖い女である。春之は背中に嫌な汗をかきながら、居住予定地に向かうために再びバイクに股がった。





 ◇◆◇◆◇◆



 春之が目星を付けていた地点は想像通りの場所であった。公道に面しており、すぐ側には川も流れている。

 春之は川原の大きな石の上にしゃがみこんで周囲を見渡した。


 川は上流であるため澄みきっており、生い茂る杉の森を割るように流れる川は木々のトンネルを形成していた。

 川の中を覗けば、小魚を始め、イワナやヤマメなども泳いでいる。


「こいつはいいや」


 春之は少量の魔髄を使って魔術を構築する。無駄が出ないようにゆっくりと印を結びながら、指先で狙いを定める。

 春之の指の先には丸々と太ったヤマメが泳いでいて━━━


『気刈』


 春之の指先が鈍く光ると同時に水飛沫が上がった。水面が波打ち、魚達が散り散りになっていく中、その波紋の中心に狙いを定めたヤマメが浮かびあがってきて、小判型の模様とうっすらとオレンジがかった線が浮かぶ美しい横腹を空気に晒している。

 春之は長い枝を使ってそのヤマメを手繰り寄せると、小刀を使ってその場で手早く(はらわた)を取り除いていく。


 その後、ヤマメを丁度いい長さの枝に突き刺し、枝を握ったまま川原を後にした。


「誰か火をつけてくれ」


「そこの川で捕れたのか?」


「ああ」


「こっちに持ってくるでありますよ」


「すまんな」


 春之が差し出したヤマメを彩月が魔術を使って焼いてくれた。魚の焦げる香ばしい香りが春之の鼻腔を擽り、思わず腹の虫が鳴ってしまった。


 こんがり焼き目がついたヤマメを受け取って囓りつく。塩などの調味料は一切つけていないが、捕れたてのヤマメは油がノっていて非常に美味であった。


「あら、いいもの食べてるじゃない。川で捕れたの?」


「なかなか大きなヤマメではないか」


 匂いに釣られて探索から戻ってきた丹紫姫と美弥妃が春之のヤマメを物欲しそうな顔で見つめる。

 春之は欲しいなら自分で捕ってこいと二人を突き放すと、早々とヤマメを食べ終わり、木の下に残骸を埋めた。


「山菜も豊富みたいだし、かなり良い領土を貰ったわね」


「動物の足跡もあった。間違いなくいるだろうな」


 山菜を山のように抱えてホクホク顔の美弥妃と、狩人の顔になった丹紫姫。二人とも、野生に目覚めたのか、そこはかとなく興奮しているように見えるのは気のせいだろうか。


「猪と鹿を視たぞ。美味そうだった」


「お前は川で釣りをしていたのではないのか?」


 訝しげな顔で春之を見る丹紫姫の不躾な態度に少しイラついたが、特に声を荒げることはしなかった。

 いい加減なことを、と丹紫姫が鼻息を荒くしているが、春之の言葉に反応したのは丹紫姫だけではなかった。


「なあ、春之」


「何だ」


 声をかけてきたのは意外にもサブであった。春之はまさかサブが突っかかってくるとは思っていなかったため、自分が何かしただろうかと少し不安を感じながら、サブに顔を向ける。


 サブは言うか言わないか迷うような挙動を取った後、意を決して春之に問いかけた。


「前から気になってたんだが、その『視えた』ってのは何なんだ? 春之の魔術か? 言いたくないなら言わなくてもいいんだが、教えてくれないか?」


 サブの全く予想していなかった問いに春之が眼を見開く。そして、自分がまだ詳しい説明をしていなかったことに思い当たり、どうでもいいことで気を使っている筋肉だるまの滑稽さと相まってクククと肩を震わせた。


「まあ、どうでもいいことだし、丁度いい機会だから教えてやるよ」


「おお!! 本当か!?」


 何故か今までで一番の興奮を見せるサブに声をあげて笑いながら、春之は能力の正体を教える。







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