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14 予感

 


「座長。侵入者のようです」


 占拠されたビルの最上階の一室。そこは今、犯人達の拠点となっている。窓がないこの部屋は、窓からによる侵入を防せげるという意味では格好の部屋だったのだ。


 部屋の最奥部には人質を縛って転がしており、数人の男達が人質をいたぶって遊んでいる。


 そんな光景を見ながら高級そうな椅子に深く座って葉巻を蒸かしていた座長と呼ばれた事件の首謀者は、男からの報告を受けて眉をひそめた。


「警官隊か?」


「分かりませんが、警官隊に特別な動きはありません。少数の侵入のようですので」


「それならば問題あるまい。そうでありましょう?」


 座長が灰皿で葉巻の火を消して、部屋の片隅に顔を向けた。視線の先には一人の青年が壁に寄りかかって立っている。


「ああ。問題ない」


 青年の言葉には何の信憑性もない。だが、青年の言葉に座長は疑わない。

 その瞳には狂気が宿っている気がして、報告をした男が身震いした。


「全ては太平の世のために」


「全ては太平の世のために」




 ◇◆◇◆◇◆



 春之一行がビルに着いた時には既に警官隊が周囲を囲み始めた頃だった。

 内部を視ていると、四階の廊下を駆ける者らを発見する。敵を確実に撃破しながら進む姿は正規軍さながらであり、かなりの練度がうかがえた。


「四階に兵部大輔がいる。取り巻き四人と共に廊下を走ってるな」


「嘘でしょ!?」


 春之の呟くような言葉を聞いていた美弥妃が眼を見開いて詰め寄ってくる。怖い顔で肩を掴んで揺さぶる美弥妃から逃れながら春之はビルを見上げる。


「うちの領内の事件を、よりにもよって地登勢に解決されたんじゃ面目が丸潰れよ。突入するしかないわ」


「俺は準備万端だぜ」


「先に人質を救出するでありますよ」


 意気込む三人を冷たい眼で見ながら春之は大きなため息を漏らした。春之が何を言おうが突入は決定事項なのだろう。だが、春之の経験が突入は止めておけと囁くような、嫌な予感も感じられた。


 せめて犠牲無しで突入するために作戦を立てておくかと更に上階へと視線をやっていく。

 これは実戦であり朱雀院での先日の模擬戦とは違う。殺されればそこで終了なのだ。


 敵の位置を確認するためビル内を探索していく。春之の能力的には草原などの自然環境でないビルの内部という環境を探索するのは困難だったが、それでもやるしないと警戒しながら索敵していく。


 ある一室に視線を向かわせた時、遂に自分の中の予感が的中したことを悟った。


「あ、これはマズイ」


 春之が見たのは犯行団体の拠点となっていた部屋。


 既に警官隊に任せるという選択肢は無くなっていたのかもしれない。このまま丹紫姫達が拠点に突入すれば、()()()()()()()()()


 殺られないとしても深刻な怪我を負うことになるだろう。


 丹紫姫が死んでも春之には関係ない。むしろ喜ぶかもしれない。

 だが、藤ヶ崎領で地登勢家の者が殺害されて、あの弾正が何も行動しないはずがない。『娘が殺したのは藤ヶ崎による犯行』だとして宣戦布告されることになる。


 それは大義名分ではなく、ほぼ言いがかりの行動。だが、地登勢家に文句を言える家は藤ヶ崎を除けば天宮家しかなく、その天宮家は間違いなく傍観を決めるだろう。


 藤ヶ崎家と地登勢家の戦争に首を突っ込んでも良いことは何一つない。むしろ地登勢家の西侵が止まるという利益さえもある。

 戦争が引くに引けないところに達したときに仲介者として働きかければその二家どころか政府にも恩が売れる。


 天宮家が出なければ戦争は必須。当然この周辺も戦争地域になる。それは春之の平穏が脅かされることに繋がる。


 既に突入は決定事項なのだ。春之が事実をそのまま述べても、美弥妃は間違いなく突入する道を選ぶ。

 丹紫姫の死、または怪我=戦争なのだから。


 言い訳じみた言い分を頭に浮かべて自分を説得しながら春之は突入を決意する。


「何がマズイんだ?」


 サブの問いに春之は━━━━━





 ◇◆◇◆◇◆



「この先を右。階段を上がって右手に敵三名」


 小町の情報を頼りに丹紫姫達は敵拠点を目指す。階段を登って敵を撃破し、さらに進んでいく。


「小町。敵拠点の位置はわかっているの?」


「最上階の一室。人質もそこに」


 櫻花の問いに小町が答える。彼女の【探知眼】は透視や遠くの景色を見るという能力ではない。

 一定のエリアに存在する存在全てを把握するという能力だ。小町の眼には周辺地域全ての地図が見え、敵対勢力は赤、中立勢力は緑、有効勢力は青という三色で表される。


 そうして彼女はこのビルの改装の敵を探知していたのだ。


「あと二階上か。よし、急いで向かうぞ」


 丹紫姫が走り出すと四人もそれに続く。


 隠密行動はあまり得意とする分野では無い。丹紫姫は乱戦などの激しい戦闘を得意としていた。

 彼女の魔術は激しい音を伴うと同時に範囲も広い。痕跡もひどく残ってしまう。


 必然的に活躍の場は減る。だが、自分が弱いのではなく、相性が偶然悪かっただけだと自分に言い聞かせながら廊下を進んだ。


 藤ヶ崎領内で地登勢家の人間たる丹紫姫が立て籠り事件を解決すれば、藤ヶ崎家は立場を悪くすることになるだろう。それは彼らにとっては恥ずべき失態であるからだ。

 小さなことだが、冷戦中の二家にとっては大きな問題でもある。


 藤ヶ崎家の部隊が到着する前に解決するのだと気合いを入れ直し、速度を上げた。



 そしてら遂に丹紫姫達一行は、着実に敵を撃破しながら最上階へと到達する。


「その先の廊下の突き当たりが拠点です」


「よし、一気に突入するぞ」


 廊下を進んで拠点の扉の前に構える。五人は視線で会話し、丹紫姫がドアノブに手をかける。同時に智大が柄を握った。


 丹紫姫は指で突入のカウントをすると、勢いよく扉を開けて中に押し入った。


「手を上げて膝をつけ━━━━━おい、これは一体どういうことだ?」


 拠点と聞いて入った部屋は薄暗いただの会議室。あるのは円になったテーブルとそれに備えられた椅子のみ。


 間違いない。小町の失態だ。場合によっては先ほどの扉を開けた音で犯人に気づかれたかもしれない。


 見つかれば人質に危害を与える恐れがある。それだけは避けなければならない。


 小町を叱責しようとも考えたがそれよりもすぐに拠点に向かうべきだと判断した丹紫姫が、小町に正しい情報を問いただそうと振り返ろうとし━━━━直後、脇腹に鈍くも鋭い痛みを覚えた。


 椅子やテーブルを薙ぎ倒しながら地面を転がり、壁で頭を強打する。


 自分は置いて解決に向かえ、と四人に伝えようとした丹紫姫。


 しかし、口から声が出る前に意識を失った。













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