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13 喧騒

 


「五人目が見つからないわね」


「「「‥‥‥‥」」」


 その日はファミレスで夕食を食べながらチームについての話し合いをしていた。春之は面倒で欠席しようと思ったが、腕を捕まれて連行されている。


 仕方がないのでスパゲッティを食べながら五人目についての相談を聞いていた。


「この時期になると皆もう既に決まってるのよね」


「これは本格的にまずいかもな」


「で、ありますね」


「どうする?」


「打つ手は探す以外にないでありますよ」


「だな」


 話し合うと言っても名案は浮かばない。そもそもこうなったのは美弥妃が余計なことを言ってしまったからに他ならない。

 スパゲッティを食べ終わった春之は、腕を組み、静かに目を閉じた。




 ◇◆◇◆◇◆



 春之は喧騒で覚醒した。異様な空気が漂う店内。


「何の騒ぎだ」


 俺は向かいの席でストローを吸っていた美弥妃に声をかける。


 店内のざわめきは怒りというよりも怯えの色が濃い。外から聞こえる声は、悲鳴にも近く、人の流れも一方的であるため、何かから逃げているのではと推測される。


「わからないわ」


「ここでボーッとしててもしょうがないだろ。何かが起きたなら向かうべきだ」


 窓ガラスから外の様子をうかがっていた美弥妃にサブが詰め寄る。美弥妃はどうするべきか行動に悩んでいるようだ。


 この場合どちらが正しいか断言しずらい。余計なことをはせずに傍観、もしくは避難誘導などの援護に撤するのも間違いではない。しかし、場合によっては早急に現場ヘ向かい、遅延戦闘などをするべきである可能性もある。


「声を拾ったであります。どうやら駅前のビルで発生した立て籠り事件のようであります。犯人は‥‥‥反魔術組織」


「傍観は得策じゃなさそうね。今すぐに向かうわ」


 美弥妃が立ち上がると、サブが先行してファミレスの入り口へと向かった。それに美弥妃と彩月が続き、少し遅れて春之が続く。


 春之の考えとしてはこの場では傍観が正しいと思っていた。だが、関東を治める藤ヶ崎家の娘としては傍観はあまり体裁が良くないのだろうと納得する。


 春之は閉じそうになる眼を頬を叩くことで解決すると、事件現場へと視線を向かわせた。



 


 ◇◆◇◆◇◆



「兵部様。どうなさいますか」


 春之達が事件現場へ向かう約一時間前。偶然にもその地域で食事をしていた丹紫姫達も事件の匂いを嗅ぎ付けていた。


「どうもこうもあるか。向かうぞ」


「「「「御意に」」」」


 ここには模擬戦の時にはいなかった小町の姿もある。昔から組んでいる五人一組(ファイブマンセル)だ。こと実戦においては春之に負ける気は全くしなかった。


 五人は人の波を遡りながら騒ぎの中心へと向かう。道中、警官に話を聞き、ビルの情報や犯人の数などの情報を手に入れた。


「敵は反魔術組織の構成員で少なくとも五十人。人質多数。迅速な行動と隠密機動が必要となる。全員しかと留意しておけ」


「「「「御意」」」」


 反魔術組織は魔術を廃し、科学によってのみ人類は発展するという思想のもと、暴力を使ってその思想を完成させようとする組織であり、反魔術を掲げるにも関わらず、実力行使に魔術をしようするというテロリスト集団でもあった。


 彼らによる被害は各地で確認されており、残虐性のある事件が多いため、人質がいる今、迅速な対処が急務だった。


 ビルの前にたどり着くとまだ警官隊は集まっていなかった。対応の遅さに内心毒づきながら丹紫姫達は地下駐車場へと向かった。


「その角の先に敵二人です」


 地下駐車場の中を進み、ビルへの入り口を目指す。小町の言葉を受け、丹紫姫が炎の腕を振るった。


 超高温の炎に焼かれ、断末魔をあげることなく敵が焼死する。肉の焦げた不快な臭いが鼻孔を突いた。


「扉は北西三十メートル先。開けたところに敵が三名」


 小町の的確な情報を元に扉の前に立つ。丹紫姫の視線に智大が一つ頷くと、腰に差した太刀の塚に手をかけた。

 勢いよく丹紫姫が扉を開いたと同時に智大が太刀を一閃する。


 敵二人の首に一筋の線が浮かび、二つの首が地面に転がった。


 音を立てないように胴体を寝かせてからビルの中に侵入する。


 一連の動作には一分も経っていない。賀須井家の【探知眼】と松野家の【居合】。二つの強力な氏個性の連携の前に、敵の隠密機動による撃破は難題ではない。


 敵を撃破しながら最短距離で人質を目指して廊下を駆ける。


「曲がり角に三名」


 丹紫姫が角を曲がると三人と目があった。防魔チョッキを着た若い男だった。

 敵が声を上げる前に首の骨をへし折って撃破した。


 顔に飛び散った血をハンカチでぬぐう。


「敵が多いな」


「依然として適性反応は百以上」

 

「人質が無事だと良いのですが‥‥‥」


「敵の目的がわからぬ故、兎に角今は敵を斬るしかあるまいて」



「無駄口を叩くな。行くぞ」


 丹紫姫が死体を囲んで嘆息した四人を睨む。注意された四人は小さく頷くと、走り出した丹紫姫の後に続いた。


 ここで敵を排除すれば間違いなく功績になる。人質を救出したことも評価されるため、少しでも父に認められるかもしれない、そんな打算が丹紫姫にはあった。

 

 家督相続で揉めている現在。功績はあればあるほど良い。父に認められたい。弟を見返してやりたい。


 そんな感情を糧に丹紫姫は敵を屠る。



(私は強いのだ。誰よりも強いのだ。それは当然、父よりも、弟よりも、そして根原よりもだ)









 

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