第四話 能力と従者
金森は何故オレに話しかけてきたのだろうか。
あいつが話しかけてくる理由が見当たらない。
だが、向こうから話しかけてきたのは都合がいい。
そんなことを考えていると全員集まったのか、奏也が静かにして、と声を掛ける。
奏也の声で場が静まると王女様が現れた。
「勇者様、こんにちは。早速ですが私達の話を受ける人と受けない人に別れてください」
急に言ってきたが、
王女様の声で奏也がいる受ける側とオレがいる受けない側に別れた。
奏也の方には彩、金森、岡田、福宮などがいて、オレの方には熊里、品川などがいる。少し、オレたちのほうが少ないが、数で競ってるわけでもないので関係ない。
分けたら受ける側には特訓の日時などを説明していた。
やはり王国はオレたちの強化に入るようだ。
多分、このまま受けない側は無視だろう。
だが何故受けない側を作ったのかがわからない。
奏也の質問に答えず、強制参加にさせたほうが得があったのに、これじゃあ王国側には得がない。
嫌、もしかしたら、オレが見落としている王国側の得があるのか。
一様、調べといたほうが良さそうだな。
オレはそう改めて思うと、その場に腰を下ろした。
そしてしばらく経つと奏也達の説明が終わり、全体で能力という力について神官から説明される。
能力とは神様がくれたその人だけの力で、魔法系と技系と特殊系があるらしい。
オレたちを喚んだのは魔法系の能力、勇者召喚と言っていた。
そして、オレたちには神様とやらが、その能力というやつを与えてくれたんだそうだ。
この世界の住人なら、五十人に一人の可能性で能力が与えられるのに、全員能力持ちはチートすぎる。と、説明していた神官のハゲ頭さんが言っていた。
確かにオレもチートだとは思った。
でもこの世界にはスキルとかレベルとかゲームっぽいのはないようで、剣術も魔法もほぼ努力で習得するそうだ。
なので地球人には当然の配慮とも言える。
これを聞いて現実は甘くないのか、と、ため息を吐いたラノベファンがいっぱいいた。異世界小説とかでほとんど主人公は一瞬で魔法が使えるからだろう。
みんな一度は魔法を使ってみたい、と夢を見るものだ。
「能力についてはわかりましたか?それでは受ける側の皆さんは能力を確認するために奥の部屋へ来てください」
一通り能力の説明が終わると王女様は暗い部屋を指す。
そう指定した部屋は魔女の部屋みたいで不気味だった。
お化けとかが出てもおかしくない。
それでも奏也たちは指定した部屋に向かう。多少、女子たちは怯えているが、奏也の後ろに隠れ、恐る恐る入っていく。
その直後、部屋の外ではオレたちに指示が出された。
「受けない側の皆さんは帰ってもらっていいです。あ!後、受ける側になりたくなったら何時でもメイドに言ってください」
王女様ではなく王様の側近であろうメイドからの指示だった。
感じが悪そうで嫌な雰囲気を身にまとうメイドだ。
だが、あまりにこの国がいい人の集まりだったからだろう。
少し悪そうな奴がいて安心した。
そして気のせいか知らないが王女様がそのメイドを嫌っている用に見えた。
「さて、そろそろ退場か」
そう言いながらオレはチラリと奥にいるであろう少女を見ながら大広間から出ていった。
ここに来て三日目の朝を迎えた。まだ地球の習慣は残っているが、本当に異世界に来たのか、とだんだん体が異世界にきたのを自覚してきている。
昨日、ローズに会ったり、金森に話しかけられたり、能力の話を聞いたり、と色々な事があった。
その中の能力の話を詳しくメイドさんに聞いたところ、系統について教えてくれた。
まず、魔法系とは魔法に近く、魔力を使う能力だ。
魔法のことはオレにはわからないが、とにかく炎を操ったりする能力とかはこの系統にはいるらしい。
次に技系。これはアニメとかである、かっこいい技だ。これも魔法系と同じで魔力を使う。だがこの能力は他のみたいに応用が効かない。
例えば、さっきの炎を操る能力だと炎を大きくしたり小さくしたり操れるのだが、技系は操ることが出来ない。
技系の場合、威力、範囲、効果、すべてが固定されている。つまり一つの技しか打てないということだ。けれど、その技が強力という利点もある。
最後は特殊系。この能力は名前どおり特殊だ。色々な個性あふれる能力があり、能力にまとまりがない。だから髪を自由に操れたり能力をコピーしたりと、どうでもいい能力から反則な能力まである。
オレはこの話を聞くと、少し能力を使ってみたくなった。
ただオレが能力を使えるのはまだ先だろう。何故なら受ける側には絶対にならないので、町に出て魔道具を買わない限り、知る方法がないからだ。
「まぁ今のところはだけどな」
重い体をベッドから起こし、まだ何が起こるかわからないのでオレが能力を知れる可能性に期待を込めて言う。
だが、やはりこの王宮を出ない限りない。
そう結論をつけた。
「それにしてもあいつらは頑張るよな」
今日から奏也たちは一年後の戦いに向けて備えるため、自分の能力を鍛えるらしい。
疲れるのによくやると思う。
オレたちはというと、今日も自由だ。
でも自由と言ってもやることはだいたい限られている。部屋でごろごろするか外に行くかぐらいしか無い。
下に街があるらしいが街に行くことは禁じられている。
なので、すでに三人が受ける側にいってしまった。オレとしては同士がいなくなるのは少し寂しい。
だが、明日、明後日とどんどん移動するやつが増えるだろう。なぜなら流石にここまでだらけると、みんなは戦っているのに自分だけ、とか罪悪感が強くなるからだ。
「まぁオレはそんな気持ちは出ないがな」
そう服を着て、朝食を食べ、外に出かける。
昼になり、一通り情報を集めたのでローズのもとへ向かった。
バラのアーチをくぐり、昨日と変わらないバラたちを見ながらローズガーデンの中央を目指す。
昨日知ったことなのだがここはローズガーデンというらしい。オレには読めないが看板にもそう書いてあるんだそうだ。
らしいというのはローズに教えてもらったからである。
ローズは、私が名付けたんだよ、と得意げに話していた。
そうこうしているうちに中央に着く。
着くとローズとさーやともう一人見たこともない騎士っぽい少女がいた。
「よぉ、遊びに来たぞ」
オレがそう言いローズに近づくとオレに剣が向けられる。
剣を向けられるのは二回目だな。
そう、心の中で微笑し、視線でローズ達に助けを求める。
ローズ達はその視線に気づき、頷いた。
「ぶ、無礼者、ロ、ローズ様にち、近づかないでください」
弱々しい声が金髪の少女から放たれる。
歳はオレの一個したぐらいだろうか。
だがその割には小さい。
「シャル。心矢お兄ちゃんは敵じゃないよ」
「やめてください、シャル。姫様が泣いてしまいます」
二人の言葉に少女の剣が下ろされる。
でも納得がいってないようだ。
「なんで、ですか。この人はローズ様にタメ口を使いました。首をはねるべきじゃないんですか!?」
おそらく人馴れしていない性格なんだろうが、それでもその少女は食い下がらない。
それだけローズを大切に思っているんだろう。
「私が許可をしたんだよ。私が良ければいいんでしょう」
こちらも引き下がろうとはしない。
やはりローズは凄い。
ていうかオレは許可なんてもらってなかったがな。
「で、ですが」
「もういいの、それよりシャル。心矢お兄ちゃんに自己紹介をしてみんなで遊ぼうよ」
こんなに敵意出されてるのにオレに自己紹介をしろと。
ホントにこのお姫様は無茶なことを言ってくる。
「オレは心矢だ。無礼者ですまないな。こういう接し方しか出来ないもんでな」
「え、えっと、私は、シャル・レイルトスで、す。見習い騎士を、していま、す」
シャルはおどおどしながらも頭を下げる。首をはねるとかいっていた割にはちゃんとした自己紹介だ。
これは仲良くなれるれるかもしれない。なのでもうひと押ししてみよう。
「シャルって呼んでいいか?」
「は、はい」
緊張しているのかシャルは何回も頭を下げる。
「オレのことは心矢って普通に呼んでくれ」
「わ、わかりました」
人見知りなのか途切れ途切れに喋るシャル。思ったよりも普通に話せるようになるのは難しそうだ。
「自己紹介も終わったし、今日はみんなで遊ぼうよ」
シャルのことはまだわからないが取り敢えず、ローズをからかっておこう。
「ほとんど喋るだけだろ」
「違いありませんね」
オレのツッコミにさーやも乗ってきた。
「ぷぅーー」
そんなにツッコまれたのが嫌だったのか、ローズは顔を脹らませる。
それを見てさーやとオレがまたローズをからかっていると、シャルがおどおどしながら一言。
「お、お手柔らかに、よ、よろしくおねがい、します」
固まりすぎてなんか変なことをいっている。
シャル。また変なのがローズガーデンに増えたな。
そう、心の中で嬉しいような面倒くさいような感情が渦巻いた。
※
「シャル。見習い騎士なのにこんなところで遊んでていいのか」
話し始めて数分がたった。オレはみんなと長いベンチに座り、喋っている。
まだおどおどしている部分があるがシャルとはまともに話せる様になった。
「私は、ローズ様の見習い騎士、なので」
「どういうことだ?」
オレが疑問を抱くとシャルの代わりにさーやが疑問に答えた。
「私が説明しましょう。見習い騎士というのは、騎士になる資格はありますが、騎士の試験に合格出来ずに騎士になれない人です、がシャルは特別で姫様に選ばれ、従者になった見習い騎士です。なので見習い騎士ではなく、姫様の見習い騎士ということになります。だから一緒に遊ぶのが仕事なのです。ちなみに私も姫様のメイドですよ」
学校の試験を受け、予選は通ったもの一次試験に合格できなかったが偉い人に気に入られ、特別に合格した、みたいなもんか。
「なるほど。だいたいはわかったが選ばれるっていうのはローズが直接選ぶのか?」
「そうだよ。私が選ぶんだよ」
元気いっぱいにローズが答える。こいつは見た目とかで選びそうだな。
「なら、そのローズの選んだ人は何人いるんだ?」
「三人だよ」
「ずいぶん少ないな」
従者ってもっと多いイメージがあるが、そんなに少ないのか。
「従者は死ぬまで、主のそばを離れない、仕事なので慎重に選ばないと、いけないん、です」
確かにそれは慎重に選ばないと、裏切られて刺されたりしたら大変だからな。
「その従者は誰でも何人でもなれるのか?」
「はい。選ばれればですがね」
じゃあ誰でも出世できる可能性があるのか。宝くじみたいな感じだな。
「従者が気になったんだったら、今度、もう一人の従者も紹介するね」
「ああ、よろしくな」
ローズとそんな約束をする。
それにしても、ローズはさーややシャル、オレもどうやって遊ぶ相手に決めたのだろうか。
もしかして本当に見た目なのだろうか。それとも適当なのか、気になるな。