第三話 特別な出会い
異世界に来てはじめての朝。
まだ異世界に来たのを自覚してないのか一瞬でも学校に行かないと、と思ってしまう。
それにメイドさんがいる生活にもなれない。
だるい朝にため息を吐きながらベッドから起き、呟く。
「今日も忙しくなりそうだ」
今日は昼に大広間に集まれと言われている。
昨日言っていた能力のことだろう。行かないという選択肢もあるが情報が必要なのでオレは行こうと思っている。
「うわ、こんなに着づらいのか」
そう言い用意された異世界の服に着替える。異世界の服は何ていうかとにかく派手だった。ゲームとかにあるような貴族の服みたいな感じだ。それに違和感ばっかだ。まぁ慣れてないというのもあるだろう。
着替え終わるとやることが多すぎて何をしようか悩む。
だがまずは情報収集だ。
オレは情報収集をするべく外に出た。
外はのどかで静かだ。そしてとても広い。こんな、草原みたいな自然あふれる場所に来たことがなかったので、なんかワクワクする。
それにしてもこの世界は不思議だ。異世界小説なんて何冊も読んだがこんな自由なんてなかった。もしかしてこの国が不思議なだけか。だがそれでもいくつか疑問が残る。やはり王様に会う必要がありそうだ。
そう思いながらオレは気になった場所へと近づいていく。
その場所とは昨日見たバラの庭園だ。
メイドさんにどういうところだと聞くと、すみません、お答えできません。と言っていたので何かはあると思う。それに手入れはしているように見えるので少なくとも誰かはいる。
「あれだ」
しばらく緑を歩いているとバラのアーチが見えてきた。ここが入り口のようだ。
通ろうとするとアーチの近くに看板があることに気づく。字は読めないが、なんか・・・ガーデンとか書いてあるのだろう。オレは好奇心だけで・・・ガーデン?に入っていく。
そこはまさにバラの楽園。あっちにもバラ、こっちにもバラ。確かに美しいが飽きてくる。
オレはガーデニングには向いてないかもしれない。そんな感想をいだきながらひたすらバラの道を歩いていく。
しばらく歩くと広場みたいな円型のところに出てきた。ここが中央なのだろう。
周りにはバラがいっぱいあり、真ん中には噴水がある。大抵、噴水などは中とかが汚いのだが、遠目から見る限り汚れがない。まさに完璧な噴水だ。
取り敢えず噴水から視線を外し、周りを見渡す。すると、一人の少女がちょこんと座って、バラを眺めているのが見えた。ちょっとピンク寄りの赤髪で八歳ぐらいの少女だ。
その少女にオレが声を掛ける訳がない。
だって少女だぞ。良い情報が得られるわけがない。
そう思い、そのまま通り過ごそうとした直後。
なにか小さな力に服を引っ張られた。
「な、なんだ?」
そして、振り向くとそこには少女がいた。
「私はローズ・シュリガン。お兄ちゃん、遊んで」
純粋な赤い瞳がこちらを見る。
てか、急に何言ってんだ。
「えー、今忙しいから無理」
取り敢えず適当に断る。
ていうかシュリガンって王族だろ。
誰も見てない内に出てった方が良いかもしれない。
そうしないと首とかはねられる。ただこれでメイドさんが言わなかった理由がわかった。
オレの読みは外れてはなかったようだ。
「やだ。遊んで」
「だから忙しいんだよ」
こうなったら意地でも遊ばない。
「遊んで」
「やだ」
子供相手にムキになるオレ。断っても誘ってくる少女。お互いが譲らないため、話に決着がつかない。
そんなやり取りをしているとガサガサと近くの茂みから音がし、声がする。
「おや、子供相手にムキになるとは、勇者様といえどお仕置きが必要ですね」
なんか、笑っているのか怒っているのかわからないメイドが、突然出てきた。
「お前、どこから」
思わず声が漏れる。
だが、変なメイドはオレを通り越し、少女の元に駆けつけた。
「さーや。一人にしてって言ったのに」
少女はご不満のようだ。
「ですが姫様、お一人ではこんな不届き者が現れるかもしれません」
さーやと言われたメイドはオレに指を指し、言う。
だが何故かわからないが少女は、オレを悪い人じゃないと言い張る。
「悪い人じゃないもん」
「なんでそこまで言えるのですか」
ほんとにだ。
今あったばかりの奴を、信用などできるはずがない。
なのに何故だ。
「さーやだってわかっているでしょ」
この発言もオレにはさっぱりわからない。
「確かにわかりますがそれでもーー」
よくわからないが、この場にいても情報は集めれそうではないので、オレは喧嘩を利用し、逃げようとする。
だが、
「ちょ、離してくれよ」
変なメイドによって捕まってしまう。
「どこ行こうとしてるんですか。今はここにいてください。でないと死刑にされるかも知れませんよ」
不気味な笑顔で、逃げれば死刑とか言われたら普通に脅しだろ。
オレはそんな脅しに負け、この場に残る。
そして、また言い合いが始まった。
「この逃げようとしたバカが悪い人じゃないと言えますか?」
もう一度オレに指を指す。
「た、多分違うもん」
泣きそうな少女は、必死に、オレを悪い人じゃないと言い張る。
そこまで言われると、オレも逃げるわけがない。
「もうそのへんにしとけさーや」
オレが話に割って入ることで多少は落ち着くだろう。
「き、貴様に言われる筋合いはない」
よっぽど恥ずかしかったのかオレに刀を向けるさーや。
だが、ここで引き下がるわけにはいかない。
「いいじゃんか、それ以外に呼び名が見つからなかったんだし」
「よくないです」
肌近くまで刀の刃が近づく。
うわ、こわ。
「フフッ」
その時、急に笑い声が聞こえてきた。
「ほらやっぱりいい人でしょ」
気がつくと少女は先程の泣き顔が、嘘だったかのように笑っていた。
その微笑みは天使に思えるほど可愛く、素敵だった。
「どこがいい人なのです」
さーやは負けじと否定に入る。
少女にオレを近づけたくないらしい。
「面白いし何より喧嘩を止めてくれた」
「まぁそうですが」
さーやも笑顔にやられたのか同意してしまう。
幼い奴は手強いものだ。
やはりその一瞬を見逃さない。
「じゃあ決まり、お兄ちゃん、私と遊んでよ」
最高の笑顔と言っていい、少女の笑顔。真っ直ぐな少女だからできることだろう。こんな純粋な笑顔をオレは見たことなかった。
「一時間だけな」
ついつい遊ぶことを許可してしまう。
まぁ昼までならいいか。
「さーやは見ていていいよ。私と遊ぶ姿を見て、お兄ちゃんがいい人か見極めてよ」
「はぁ、仕方ないですね。姫様のわがままに付き合いますよ」
さーやはため息を吐き、刀を下ろす。やっとオレの肌から刀の感触がなくなった。
「やったー」
喜んだと思ったらこちらに近づいてくる少女。
「私はローズシュリガン。ローズって言ってね」
そう、改めて名乗りだす。
名前を言えって言うことなのだろう。
「オレは心矢だ。好きに呼んでくれ」
「じゃあ心矢お兄ちゃんだね」
元気よく笑顔を見せるローズ。
まさか異世界でこんな出会いをするとは思わなかった。
そして、ローズと遊んでから二時間が経過した。
一時間のはずだったのに遊びすぎた。
だがバラのことを教えてもらったり、地球のことを教えたり、話しているだけだがすごく楽しかった。それにちょっとだけこの国の情報も知れた。
ただ、もう大広間に行かないといけないのでここまでだ。
「オレはそろそろ帰るわ」
オレがそう言うとローズは不満そうな表情でオレを見つめる。
「え!もう帰っちゃうの?」
おい、まだ遊ぶ気だったのかよ。もしかしたら一日中遊ぶ気だったのか?
「ああ」
「やだやだもっと話していたい」
またオレの服を引っ張るローズ。
その時、さーやがゴホンと咳払いをして言う。
「では、また遊ぶってことでどうでしょう」
「どういうこと?」
あまりにも遠回しな言い方だったのでローズには伝わってないようだ。
「ですから、私がいい人だと思ったので、遊んでもいいということです」
すごく恥ずかしがっている。こいつは、ローズ以外の人に話したり褒めたりしたことが少ないのだろうか。もしかしたらぼっちなのかもしれない。いやローズがいるからぼっちではないか。
そう考えているとローズが元気よく叫ぶ。
「本当に!!」
嬉しいのだろう。ローズの顔がキラキラしている。
「ええ」
「じゃあ、心矢お兄ちゃんは暇な時間に来てね。私はほとんどここにいるから」
ローズはそう言い、元気よく手を振る。
「ああ、また明日な」
「うん、じゃあね」
「さーやもじゃあな」
オレも手を振り、行きとは反対側の、王宮に出る道に向かう。
「は、はい。また姫様のお相手よろしくおねがいします」
遊ぶ約束なんてしたのは何年ぶりだろうか。
心の何処かに明日を楽しみにしている自分がいる。この感覚も久しぶりだ。
ローズたちと別れ、大広間に向かうと、すでに大勢の生徒が集まっていた。
だが、全員集まらないのか話が始まる気配はない。
オレは隅っこの壁にもたれ、いつものようにぼっちオーラを出す。
奏也はシュリガン王国の方からも生徒の方からも頼られ、忙しそうだ。時々こちらをちら見している様子を見ると、オレと話したいのだろう。
七色はそこらの女子と話している。こいつも時々オレの様子を見ている。そういえば頼んだことはやってくれるだろうか。ちょっと不安だが大丈夫だろう。
熊里はまだ来てないようだ。来ていたらそれなりにうるさいだろう。
熊里以外にも来てない生徒は多い。オレがわかるだけでも十人以上は来てない。
これは話すまでにそうとうの時間がかかるぞ。
そう思っていると予想外の人物が声をかけてきた。
「君が山中心矢くんかい」
不可解な笑みを浮かべ、オレに近づいてくるのは金森仁だった。
「ああ、そうだ」
予想外だったが顔には出さず、あくまでも冷静に会話する。
「俺は金森仁。今更だが仲良くしてくれると嬉しい」
こんな遅れて仲良くなりたいとか怪しすぎる。
多分、何か裏があるのだろう。
ていうかそうとしか思えない。
「本当の目的は?」
「そんなもんはないよ。ただ君と友達になりたいだけさ」
金森はただただ笑う。ローズの笑顔とは全然違い、その笑顔には怖さが有った。
「心矢って呼んでいいか」
突然、そんなことを言い出す。全くこいつの目的がわからない。
「別に好きにしろ」
オレにとってこいつは敵というべき存在なのだろうか。それとも味方なのか。本当によくわからない。
「心矢はどう思う?異世界」
だが一つはっきりしていることは、
「オレは、お前が作り笑顔をやめない限り、お前の質問には答えない」
ということだ。
「作り笑顔って何のことかな?」
隠しているようだが少し笑顔が乱れている。金森は動揺しているようだ。
「お前は隠しているようだが殆ど演技なんだろ」
「ハッ、ハハハ」
何がおかしいのか笑う。
「やっぱり心矢、君は面白いよ。でも、今度また話をしようか。ゆっくりとね」
結局、作り笑顔をやめず、よくわからないまま、金森は友達の方に向かっていった。
用事があったのか、それとも、ただ挨拶するだけの予定だったかはわからないが、まだ色々と金森には秘密がありそうだ。