第二話 三人との対談
会議が終わってオレは部屋に戻り、ベットで横になっていた。
会議はとても会議と呼べないぐらいグダグダしていて、まともな話が出来なかった。それは来ない奴らや混乱して何も話さない奴らがいたからだ。奏也が頑張って最低限の話は出来たものの、あんな会議はもう二度と出たくない。
ただ、シュリガン王国の話を、受けると決めたやつの方が多かったのは意外だった。勿論オレは受けない側だが受けると決めたやつは正解だろう。何故なら、元々この選択肢しかなかったからだ。
あくまで受けないという選択肢は奏也が無理やり作ったもので、この世界の生き方で生きない限り、必ずどこかでつまずく。つまりこの世界では、常に死と隣り合わせで生きていかないとだめなのだ。
そう、横になっていると部屋のドアがノックされる。
「心矢様、奏也様がいらっしゃいました。どうされますか?」
もう来たようだ。
会議から二分ぐらいしか経っていないのにずいぶん早い。
相当暇だったのか。
「入れてください」
「かしこまりました」
そう言い外に待機しているメイドさんがドアを開ける。
やっぱりメイドさんなんていなかったから違和感をすごく感じる。
「遅くなかったかい心矢くん」
そして、奏也が中にはいってきた。
「時間なんて決めてなかったから遅いとか無いだろう」
すぐに奏也はソファに座り、オレの方に視線を向ける。
「でも順番はあるよ」
「まぁそうだけどな」
確かに奏也、熊里、七色と順番は決めた。
「それでさっきの会議はゴメンね。うまくまとめれなくて」
「なんでお前が謝るんだ?お前はできるだけのことをして頑張ったじゃないか」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
無理に笑顔を作っている。こいつは絶対会議のことを自分が悪いと思っているな。
なんでお前は自分が悪くないのに全部自分のせいにするんだ。
本当に昔からわからない。
「お前。一人で抱え込むなよ、またあの時みたいになるぞ」
オレがそういうとなぜか奏也が笑顔を見せた。
「うん。一人では抱え込まないよ。・・・・・・心矢くん、僕は君に会えて嬉しいよ」
「何だ、いきなり」
「ううん、なんでもないよ。ただ心矢くんとあったときのことを思い出してね」
奏也の目からは涙が出そうだった。悲しいと嬉しいが混ざった感情だろうか。
「・・・・・・それで何のようだ?」
オレは質問と同時に奏也を見るがもういつもと同じ顔に戻っていた。
「その前に雑談でもしないかい」
もしかして本題とつながることだろうか。だが奏也がこの状況で、意味もないことを言うとは思えない。
「ああ、別にいいが手短に終わらせてくれよ」
「そのつもりさ」
奏也はそう言い、少し間を開け、オレに問う。
「心矢くんはこの国についてどう思う?」
「もしかしてお前も疑問に思っているのか。この国のこと」
「そうだよ。どうやら心矢くんも同じようだね」
やはり奏也も同じ様な事を考えていたようだ。
「それなら話が早く進むと思うよ」
「ここからが本題ってことか」
「流石、心矢くん。話が早いね。そうここからが本題だよ」
奏也が本題と言ったので、オレは横になっている体を起こす。
大体、奏也が何ていうか検討はついているが、真面目に聞こうと思う。
「心矢くんもこの国のことを疑問に思っているのなら僕と協力しないかい」
奏也もオレと思っていることは同じようなので良い提案だ。ただ奏也の思っている協力がどんなものなのかは知っとかなければならない。
「なるほど、だが返答を言う前に、協力とは具体的にどんなことをすればいいのか、教えてくれるか」
奏也はやっぱり早く進むねと言って笑い、オレの疑問に答える。
「協力と言っても僕と心矢くんの情報を共有するだけだよ」
「それは頻繁に会いながらお互いの情報を交換するってことでいいのか」
「そうだよ。もしかして嫌かい」
なるほど、やはり奏也はそういう考えだったか。
「嫌なわけではないが協力する代わり一つ条件をつけてもいいか」
「お互いの利害は一致していると思うんだけど」
「確かに利害は一致している。ただオレとお前では少し方法が違う」
そう、オレとお前とでは方法、それに結果が違う。お前はちゃんと先のことまで考えれていない。
「なるほど、心矢くんは僕の方法と自分の方法では最終的に結果が違うって言いたいんだね」
「ああ」
「わかった。じゃあ取り敢えず心矢くんの方法を聞くよ」
流石としか言えない頭の回転率。まだ天才の頭脳は衰えてないようだ。
「オレの方法はお前とオレが違う形で情報を探すというものだ」
「違う形?」
どうやら奏也はこの方法を考えてなかったらしい。というかあいつはオレを受ける側にしたいのだろう。だからこの方法を考えないようにしていた。
「ああ、お前がシュリガンの話を受け、オレが受けない。これで情報を集める」
「つまり、別々の環境で情報を集めるってことかでいいかな」
「まぁそんな感じだ」
あまりいい表情をしていないところを見ると奏也はあまりこの方法をやりたくないようだ。
「確かにそれなら効率は良いけど心矢くんが疲れるんじゃないの」
オレが疲れるとかそう問題にならないことを言うってことはそれだけオレに話を受けてほしいようだ。
だが奏也も知っているはずだ。
オレが絶対受けないことを。
「どうしてだ」
「だって僕は簡単に情報は集まるけど心矢くんの受けない側だと動き回らなきゃ集められないじゃん」
「そんなこともないと思うぞ」
オレはすでに情報収集ができそうな場所を見つけている。それにそこなら、ある程度の情報が集まると確信している。
「それならいいんだけど」
いつもより声のトーンが下がった気がした。
「とにかくこれで契約成立ってことでいいのか」
「いいよ僕に不満はないよ」
その発言に絶対不満があるだろと思いながらもオレは話を続ける。
「じゃあ今度は集まる日時だな」
「そうだねそれは決めないといけないね」
自分で気づいて直したかは知らないがもう声など違和感がなくなっている。
多分、こいつが嘘をついても誰も気づかないんじゃないだろうか。そう思わせるほどに奏也の会話術はすごかった。
ただオレにはわかるがな。
「オレは八日ごとの今の時間でいいと思うが、お前はどうだ」
そんな頻繁にあっても岡田などに目をつけられたら面倒くさい事になりかねない。なのでこのくらいがいいだろう。
「僕もそれでいいよ」
奏也が悩むこと無く、同意したところを見ると同じことを考えてたようだ。
「じゃあ決まりだな」
こうしてオレと奏也は協力し、この国を調べることになった。
これはオレの予想通りだ。そして契約が成立したところで奏也に追加である特定の人物情報を要求した。そうすると奏也は少し悩んだが調べると言ってくれた。
「話もしたし僕はこのへんで帰るよ」
「じゃあな」
奏也が帰ると言い、立ち上がるとボソリと一言。
「あ、それとさっきの件、貸し一つでいいよね」
「お前ずるいぞ」
オレがそう言うと奏也はニカッと笑う。
「お互い様だよ」
そう言い帰っていった。
「全く貸し一つなんて聞いてないぞ」
変な貸しを作ってしまったと後悔しながら再びベッドで横になり、寝る体制に入った。
それでしばらくするとドアのノックがなる。オレは先ほどと同じ対応をメイドさんにして、奏也と同じように熊里を部屋に入れた。
「どうしよう山中、弟が心配だ。なんか無いのか。帰る方法とか帰る方法とか!!」
「ちょ、近い」
入ってきて早々にオレに近づき、帰る方法を聞く熊里。相変わらず顔だけは怖いんだけどな。
「オレが帰る方法なんか知るわけ無いだろう。ちょっと落ち着け」
オレは無理やり熊里を落ち着かせソファに座らせる。
「どうだ、落ち着いたか」
「ああ」
そうは言っているも熊里は拳を強く握っている。
落ち着いてない証拠だ。
だが話は聞いてくれそうなので、まず熊里を完全に落ち着かせる。
「それで弟のことなんだろう」
「ああ。こんなとこに俺が来たから弟たちを守れなくなってしまったんだ」
熊里は悔しそうな顔をしていた。
「またあいつらに襲われたらと思うと悔しくて」
「気持ちはわからんでもない。だが熊里がいつまでも後ろ向きだと、守れるもんも守れねぇんじゃねぇか」
「守れるもん?」
流石にこれだけだとこいつにはわからないか。
「熊里が諦めなければ、この世界から帰る方法を探して弟を守れると言ってんだよ」
「そうか、なるほど」
ここまでの話をわかってくれたのならあともうひと押しだ。
「だから、お前はここで、帰れるまで生き残れ。人の心配よりも自分の心配をしろ!!」
久しぶりにこんな事を言った。ただこうしないとこいつはいじけてばっかだ。
オレがそう言うと熊里は少し何かを考えていた。
そして結論が出たのか、オレに晴れやかな笑顔で言う。
「わかった。山中ありがとな。お前がいなかったら俺は前向きになれなかった」
何かスッキリしたような感じだ。
おっと、それはいいのだが熊里に話したいことがあるのに、オレは完全にこいつにつられてしまった。
「別にいいさ。大したことはしていない」
ここから熊里に話そう。
ちょうどそう思った時だった。
「お前は最高のダチだよ。」
素でいったのだろう。だからこそオレの頭からダチという言葉が離れない。
「じゃあ俺は帰るわ」
オレがダチという言葉に気を取られていると熊里はすぐに立って、帰ってしまった。
おかげで大事なことが話せなかった。
そう、オレは後悔しながらまた寝る体制に入る。
しばらくするとまたドアがノックされた。
そしてメイドさんとの三回目の同じ会話をして三人目の客を中に入れる。
「お邪魔しまーす」
何故か普通に元気がいい。異世界に来て、もっと不安とかあるのに、こいつも奏也と同じか。嫌、こいつは違うな。まだオレに話してない秘密が関係しているのだろう。それに自分を偽る癖があるからな。まぁオレに知られてないと思っているようだが最初の秘密を話した時点でアウトだ。
「そこ適当に座ってくれ」
「わかった」
ソファに座る七色。なんか髪が湿っているような気がする。
そういえばこの世界にもお風呂があるってメイドさんが言っていたな。
まぁどこの世界でも汚いと嫌だというやつが多いのだろう。特に女はうるさいからな。
「七色、お風呂入ったのか?」
「そうだけど、何?」
「髪が濡れてたから気になってな」
オレの言葉のせいかわからないが七色が髪を触り出す。
そしてしばらく沈黙が続いた。
「そ、そろそろ要件を話してくれ」
もう七色が部屋に入ってから五分ぐらいは経っている。
こういう気まずい空気は一番苦手なんだよな。
「どうせ、あんたも話があるんでしょ。先にそっちから話してよ」
流石、七色。オレのことをわかっている。
ではこちらから話そう。
「わかった。お前に頼みたいことがある」
オレがそう言うと考えることもなく返事が返ってきた。
「できるものなら引き受けてあげるわよ」
それなら遠慮なく頼もう。
そしてオレは七色に頼みたいことを話した。
だが途中で何を考えてたのか知らないが、赤くなっておどおどした時があった。風邪でもあるのだろうか。
「いいわよ受けてあげても。でも条件がある」
「条件とはなんだ?出来ないものならお前に頼まないが」
「そ、それは」
みるみると頬が真っ赤になっていく。
「それは?」
そしてなんか知らんがもじもじしている。
「わ、私の」
「何だ、どうした?」
まるでりんごみたいだ。
「あ、あともうちょっとだから黙ってなさい」
「わかった」
なんか急に怒り出した。ホント訳わからん。
「わ、私の事を名前で呼びなさい」
そう言うと七色は言い切ったみたいな顔をしていた。
「そんなことでいいのか」
オレはあまりに簡単すぎなので確認する。
「そんなことって何よ!!」
何が癇に障ったのかまたまた怒り出してしまう。
そしてオレは一つの結論を出した。
めんどくさいからとっとと彩って言って先に進もう。
「彩、でいいのか」
「へ?」
そんな間の抜けた声が耳に聞こえる。
「ひ、人前では名字だからね。じゃあねぇ」
何が恥ずかしいのか顔を抑えてそのまま走り去っていく。
それよりもあいつ、話があったんじゃないのか。
まぁまた聞けばいいか。
疲れたし余分なこと考えずに寝よう。
そう思いオレは目を閉じた。