プロローグ 絶望のぼっち
初めて投稿しました。
初めてなので変な表現があるかもしれませんが、
これからよろしくお願いします。
絶望。
そんな感情を味わったことはないだろうか。
オレはある。いや、正確にはあるだろう、だ。
あの時は幼く、パニックになっていたから感情などわからなかったが、なんとなく絶望したのだとわかった。
だからオレは父親を恨んでいる。
オレたち、家族を絶望に突き落とした父親を。
だが、オレはあの頃とはだいぶ変わったと思う。
何故なら色んな人間に会ったからだ。
そして、当然オレみたいな人間にもあった。
確か、あれは十年ぐらい前だっただろうか。
オレはある日、とある優しい少年に出会った。
その少年はオレと同じで絶望を味わっていた。だからお互いが辛いことを気軽に話すことができたんだと思う。ただ、その少年はオレには持っていないものを持っていた。
それはおもちゃなどそんなお金で買える物ではなく、お金では買えない、精神力。そう、心の強さだ。
まっすぐな折れない心の強さに、あの主人公みたいな輝き。通る人みんながオレじゃなく横にいる少年を見る。町ではちょっとした人気者だった。
だから、だったのだろう、オレが羨ましく思ったのは。
・・・そしてオレはあいつを嫌った。
※
夏休みの直前、高校二年生のオレは学校で授業を受けていた。
「ふぅやっと終わった。だがあと一時間あるのか」
限界まで手を上に伸し、座りっぱなしで硬くなっている体をほぐす。
休み時間。その時だけオレは孤独感に押しつぶされそうになる。何故なら、周りの男女殆どが友達と楽しく話しているからだ。
そう、オレ、山中心矢はぼっちなのである。
だが、オレの場合、友達を作るのが苦手とかそういうのではなく、周囲に名前や顔を見られただけで、避けられ、からかわれるので永遠のぼっちみたいなものだ。
それは何故か、その理由は父親にある。が、この話は長いのでひとまずおいておこう。
「まぁ話しかけてくるやつがいないわけでもないんだが・・・・・・果たして、あいつらを友達と言えるかは疑問だな」
そう言いオレは話しかけてくる奴らの顔を思い浮かべる。
確かにあいつらを友達と言えなくもないが、なんというか全員、少し変わっているんだよな。
はぁー、とため息をつきながら机に倒れ込む。だがこの暑さじゃ寝ようとしても寝れない。
暑いしつまらないし最悪だ。
それに、
「なんでこんなときにクーラーが壊れてるんだ?」
クーラーが壊れているせいで、汗がたらたら出てきて服がベタつく。
夏はこれだから嫌いだ。
しかも、窓の外からうるさいセミの鳴き声が聞こえる。夏はこれからだ、とかニュースでは言っていたが、正直、早く終わってほしい。
海に行っても楽しくないし、そもそも友達がいないからみんなで遊べない。
だから、オレは夏と言われても楽しくないのだ。
それにしてもよく、他の奴らはケラケラ笑えるな。
「暑すぎるのに」
そう、最悪の環境に文句をたれていると。
キラキラと善人オーラを出しながら、茶髪の男子生徒が声をかけてきた。
「心矢くん。授業、おつかれ」
こいつの名前は伊田奏也といい、誰にでも優しく正義感の強い人間だ。
そして、イケメンでもある。
ちなみに告白された回数は三十回で、しかもすべて振っているらしい。
運命の人がいたかも知れないのに、勿体無い。
あと情報を付け足すなら常に誰かと一緒にいる人気者で、まさにオレと正反対の生徒だ。
「今日は暑いね」
毎日話しかけてくるので、だんだん返事をするのが面倒くさくなってくる。
しかも、どうでもいい話ばっかでオレに得がない。
「ああ」
「なんでこんなときにクーラーが壊れてるんだろうね。暑すぎるよ」
「そうだな」
オレが面倒くさいので適当に返事をすると、奏也は困った顔をして、少し怒り気味に言った。
「心矢くん、適当に会話をしないでよ!!」
怒ってはないんだろうが、これを見ると本気で怒っても怖くないんじゃないか、と思う。
ここで無視をしてもいいんだが、それをすると、さっきからこちらをチラリと見ている奏也ファンたちに何をされるかわからないので、おとなしく話を聞くことにする。
「わかった、わかった。それで何のようだ?」
机から体を起こしながら、だらりとした姿勢で聞く。
こっちの方が暑くないかもしれないな。
「今日、一緒に帰らないかい」
またこれか。毎日このぐらいの時間になると必ず聞いてくる。
勿論、毎回適当な理由をつけて、断っているがな。
まぁどうせ、からかわれているオレを見てほっとけない、とでも思ったのだろうが。
生憎、オレは誰かと帰るつもりはない。
ましてや奏也となんて、ありえない。
だから今日も断らさせてもらう。
「一人で帰りたいから無理だ。誰かと帰りたいならオレ以外の奴らを誘ってくれ」
そう言って席を立ち、奏也から逃げようとする。いつものことだがオレに殺意の視線を送ってくる奴らがたくさんいる。その視線にいちいち答えるわけにもいかないので、目を合わせない。
「僕たちはもう、昔みたいに戻れないのかい」
オレが歩き出した時。奏也がそんなことを口にした。
「昔は昔、今は今だ。昔に仲良しだって、人はいつまでも、昔みたいにいられないんだよ」
人気者とぼっち。この二人がわかり合うことはない。
だって、立場と考え方が違うのだから、お互いの気持ちがわかるわけがないのだ。
そしてぼっちは人気者を嫌う。
「・・・・・・」
奏也は何も答えようとしない。
言い返したくても言い返せないのだろう。
「また今度な」
そう、捨て台詞を吐き、歩き出す。
後ろを振り向くと、そこには悲しそうな奏也の姿があった。
教室をでたあと、オレは人通りの少ない廊下の隅っこで時間を潰していた。
ここは教室より静かで一人になるのにおすすめの場所だ。
「静かなところは最高だな」
そう近くの窓を開けて風を送る。
涼しい。
ただ同時にセミの声も聞こえてくる。
しかし、この場所も人が来ないわけではない。
オレが静かな空間で落ち着いていると生徒達の声が近づいてきた。
「でさぁその子の顔がすげぇ面白くてー―」
「まじで!?」
「やっぱ、和志は最高だわ!!」
楽しく会話している三人。
ん?
一つ気になったことがあったが今は深く考えるのはやめよう。
そう思ったが小さく言葉が出る。
「偽りの笑顔か」
思わず声が出てしまったが聞こえてないようだ。
あいつに聞こえてしまうとまずいので、このことは一旦忘れよう。
どうやら会話の中心は和志と呼ばれた生徒らしい。
それにしても和志という生徒はコミュニケーション能力が高いなぁ。上手に他二人を自分の話題に引き込み、盛り上げている。オレにはできないことだ。
和志かぁ、なんか聞いたことがある気がする。
そう思い、少し記憶を探る。
そうするとすぐに名前を思い出した。
確か同じクラスだった覚えがある。あと名前は金森和志とか言ってたな。
それ以外も自己紹介で言っていたはずだが、思い出せない。
「まぁいっかぁ、思い出さなくて」
そう、諦めると、
同時に金森たちは通り過ぎていった。
※
とある廊下で男子生徒が話を振った。
「さっきのあいつ、山中心矢だよな。あの人殺しのぉ」
「ああ、人殺しは父親だけどなっ」
男子生徒二人は何がおかしいのか笑う。
「なぁ和志は知ってるかぁ、山中心矢のこと」
「うーん、あんまり知らないねぇ」
「じゃあ教えてやろう。まず、あいつの父親が連続殺人を犯した。それで、なんでかしらねぇが母親は自殺した。それでめでたく、ぼっちになり、人殺しの子って世間にさらされたわけだ」
ニヤニヤしながら大まかに説明する男子生徒。
だがその時、一瞬だけ金森の顔から笑顔が消えた事に男子生徒は気が付かない。
「でもよく耐えたもんだよなぁ。おれだったら自殺もんだぞぉ」
「そうだなぁあの人殺しすげぇわー」
再び二人は笑い出す。
でも金森だけは違った。
「へーそうなんだ~、でも、そういう、人の過去を馬鹿にするのは、やめてくれるぅ」
金森の目は怖く、いつもの笑顔はなかった。そこにあったのは怒りの笑顔?みたいな、なんとも表現しづらい怒ってるような笑っているような表情だった。
二人はその笑顔に恐怖をし、すぐに笑うのを辞めた。
「お、おう」
「あ、ああ」
気の弱い返事が返ってくる。
そして金森が笑いながら呟いた。
「山中心矢かぁ、話してみたいなぁ~」