マチとクー「だぜ」
マチとクー「だぜ」
ピヨピヨ、とひよこの鳴き声がうるさくなってきた。僕は薄目を開けて外の強い光と音から逃げる様に藁を頭に搔き集める。いい感じで眠れそうな位置を探して何度か頭を動かす。少し藁が背中の方へ行ってしまったから針を逆立てて頭の方に持ってくる。ああ、寝れそうだ、気持ちよく、
「おい、クー遊ぼうぜ!」
ばっさぁといい感じになっていた藁が頭から離れていく。……ふしゅっと来た。針を逆立ててその藁をどかした奴にどつく。
「いってぇ! 何すんだよ、だぜ」ひっくり返って針が刺さったであろうお腹辺りをさする。
「……マチ、昨日誰かさんに朝まで連れまわされて、挙句人間に見つかりそうになって、三歩で全てを忘れる鶏の親分が朝の朝礼をする際に交渉して居させてもらえるようにして、やっとこさ寝れると思ったら誰かさんはすでに寝ていて、コケコケピヨピヨとうるさい中、朝日を拝んだ僕の気持ちが分かるかい?」
ジャギジャギ針の音を立ててマチに迫る。ひっくり返ったままのマチはサッと体を丸めた。
「……マーチー?」
「わ、悪かったって、ごめんよ、だぜクー。ふしゅふしゅすんなよ、な」
マチは顔だけを出してこちらを窺う。
「はぁ、もういいよ。僕も目が覚めてしまった」大体こんな所で寝れるわけがない、そうつぶやいて辺りを見る。地面をどたどたと走り回りコッケーッと元気よく叫ぶ親分がいた。追従するようにひよこがピヨピヨとついてく。後で聞けば朝の運動らしい。
「で、さっきからのなに」僕はマチに聞く。
「な、何がだぜ」マチは言葉をのどに詰まらせながらしゃべる。
「それだよ、だぜって何だい」
「はっ、かっこいいだぜ?」
何に影響されたんだか、僕はマチのどやっている顔を無視して鶏たちの朝の運動を眺める。親分は翼を広げて飛び上がり両足を開いて叫ぶ。
「コッケーッ! 今日も最高だぜ!」
「ピヨピヨッ、だぜだぜ!」
「……」
「どうしたんだぜ?」
「マチ、帰ろうか」
「どうしてだぜ、これから俺らも加わるんだぜ!」
置いて行こう、僕はそう思ってそそくさと荷物をまとめて来た道を戻る。後ろではおいおい、クー! 帰るのか! おーい、なんて声が聞こえてくるが無視だ無視。