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第二部 現在の私(Ⅰ)  第一章 想起  第四節 信条・信念

 もし、彼らが正しかったとしたらどうなのであろうか? もし、あの目的・意志の世界の列車が、天に、色界に、無色界に向かったとしたら?

 彼らは欲することを為すために生きている。もしくは生きていた。故に、渇愛を捨てた分だけ進むことの出来る、色界や無色界には向かうことは出来ないのだ。そして、六処の行為による、貪欲と取著の行きつく先は、餓鬼・畜生・地獄以外はあり得ないのである。

 もし巨大な頭部の世界が正しかったとしたら? もし、あの世界で異星人や怪獣、もしくは天使や悪魔、神などが現れ、街や建物が破壊され、大混乱に陥るとしたら?

 彼らは、非道理であることを望んでいる。何故なら、もしこの世界が非道理を基に成立しているのなら、自らの存在や業や因縁、そして善意もまた非道理であるからだ。

 彼らは自らの行いも反省しないし、自らの行為の報いが必ず有ることも理解しない。そして行為の中で一番重いのが、心の、意志の行為であることも知らないのである。その罪の重さを彼らは見ることが許されず、認識できないのである。

 そして、今現在の彼らの、身の行為、言葉の行為、そして心の行為が、未来の彼らの存在を作り上げていることも彼らはやはり知らない。それらは同時進行で為されているのである。

 もし私の人生に関する奇妙な映画を上映するあの劇場が正しかったなら? もし、私が存在することで、世界が二つに割れて対立し、滅亡に向かうとしたら?

 彼らは、自らの行いの悪を認めず、自ら以外の者の所為にする。そして、その人物は、決して逃げることの出来ない、そして責任を感じているであろう人物でなければならない。つまり、この世界から、決して逃げることをしない人物こそ、全ての責任はある、と彼らは考える。

 故に、彼らにとってのこの世界における対立や滅亡の原因は、逃げることをしない神であり、逃げることをしない人物(聖人、預言者等)であることになる。

 この作品での私は、アートマンと一致した私であるので、彼らからすれば、絶対に逃げることの出来ない人物に該当する。故に、彼らはその私を殺すことで、自らの為した悪行が消滅すると考えているのだ。滅亡の原因を排除した彼らは、さしずめ世界を救った英雄の如き者なのであろう。

 彼らにとっては、世界を正しく認識する存在に罪を擦り付け、殺す事は、まるで生贄を捧げている感覚なのであろう。そしてそれは自らの無知・無明に対してであり、無意味な歪んだ認識の歓喜を深める為である。

 故に、本質的な無知と邪見が存在する限り、その様な人間の行きつく先は、餓鬼・畜生・地獄以外に在り得ないのである。

 もし富を祀った黄金の神殿が正しかったなら? もし彼らの信仰こそ本当の信仰であるとしたら?

 彼らはこの現世の富に固執する。彼らはその量を増やそうとする。彼らは他者に勝ろうとする。彼らは他者を排除しようとする。

 きっと彼らは最後の一人になるまで争うであろう。そして、その様な人物像を心の中で求め続けるなら、当然の如く、次の存在として、誰にも助けられない苦しみの中で一人存在することになる。そこで彼らは富の幻を見るが、決して手に入れることは出来ないであろう。ただ、自らが破壊され、また一人の存在として再生を繰り返すのである。

 全ての彼らの正しさとは、認識の歓喜による牢獄に繋がれることである。彼らは、そこに至って初めて安心する。彼らはそこに至って初めて自己を得る。そして、ようやく繰り返し与えられる罰を享受する。無意味な偽善に与えられる、意味の無い、主体の無い罰を。


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