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全裸英雄

作者: くろねこ

 今は昔、異様な勇者有りけり。


 その出で立ちはまさに異形。

 裸体にロープを亀甲で纏い、右手には幾多の玩具、そして尻には火の着いた蝋燭を刺しけり。

 異形の姿で幾多の悪を成敗するものなり。


 その名を後の人々は言う。


 ――全裸ヒーローと。



 「きゃぁぁ~!!」

 「か、金を出せ。 死にたいのか!」


 深夜のコンビニで女の悲鳴と男の罵声が響き渡る。

 其処で行われていたのは、コンビニ強盗。


 店の中に居るのは、店員の少女とひ弱そうな男そして強盗の3人。

 外では未だに店の変化に気が付く様子はない。

 強盗は包丁を店員の娘に突き付ける。

 

 「は、早くしろ!」


 強盗の顔は目出し帽で見えないが、でっぷりした体型から恐らく中年男性だろう。

 店員の少女は高校生と思われる小柄の女性だ。

 余りの恐怖から細身の体を震わせ、涙ながらに命乞いをする。


 「助けて下さい!!」


 少女は刃物を突き付けられ、恐怖のあまり金縛りにあったように体が動かないようだ。

 レジから金を出そうにも体中が震え出す事が出来ない。

 店員の男に至っては恐怖のあまり座り込み、足下には湯気が立っている。


 「な、何ちんたらやってるんだ? 死にたいのか?」


 目出し帽の男はいらだちを露わにし、震える手で女性の首元へ刃物を押し当てた。

 鋭い痛みに女性の顔が恐怖に歪む。


 「お願い! 命だけは助けて……」

 「は、早く金をだせ!!」


 この強盗は素人のようだ。

 震える手で店員に刃を突きつけている。 

 店員もバイト、強盗も素人。

 素人てんこ盛りである。


 「其処までだ!」


 店内に男の声が響き渡った。

 地の底から響くようなバリトンボイスに全員の視線がそちらに集中する。

 其れに続く嬌声。


 「いやぁぁぁぁ~~~~~変態!!」

  

 女性の黄色い悲鳴と強盗の訝しげな視線の先に有った物は……。


 全裸の男。

 ――頭には覆面の様にブラジャーを被り、手にはバイブ、体は亀甲縛りのロープ、そして尻の間からは火の付いた蝋燭を生やしていた。

 まるで蜂の様に。


 「暴力は悲しみしか生み出さない。 まずは凶器を下ろしなさい」


 変態は堂々と語りだした。

 何も隠すことなく。

 彼の出現に辺りは異様な空気に包まれる。


 まるで時間が凍ったような静寂だ。


 深海のような静謐の中、変態は強盗に堂々と歩み寄ってゆく。


 「な、なんだおまえは? お前から死にたいのか?」


 予想もしない事態に冷や汗を流す強盗。

 刃を変態に突きだした。

 しかし、彼は恫喝にも怯むことなく歩み寄る。


 「お前は何者だ?」

 「私は全裸マン」

 「全裸マン……――だと?」

 「そうだ全裸マンだ。 此方は丸腰お前に危害は加えない。まずは女性を放しなさい」


 強盗は変態の言葉が信じられないようだ。

 刃を下ろす気配は無い。

 震える手で凶器を変態に向け続ける。

 

 「変態の言う事なんぞ信じられるかよ!!」


 ――当然である。


 だが変態は気にする事無く歩を進める。

 そして王者の風格を漂わせ堂々と言葉を紡ぎ出した。


 「お前は、何のためにそんな事をする?」

 「お、オレは…」


 言葉に詰まる強盗。


 「暴力は悲しみしか生まない……――如何なる事情が有ろうともだ。 外を見るが良い」

 

 変態はコンビニの外を指さした。

 ソコにいたのは幼女。

 年の頃10~12歳のかわいい娘だ。

 

 そして変態はバイブを男の体に押し当て、液体を男の顔に垂らした。

 ――どこからともなく……。


 「何をする!」

 「おまえには、あの子が見えないのか?」


 強盗は外の幼女に目を向ける。

 娘は強盗の姿を見て震えながら涙を流していた。

 幼女は強盗の事が誰だが判って居る様だ。


 「何故…くららが!?」

 「そうだ、居るのはお前の娘くららだ。 この震えは幼女の震え、そして液体はあの娘の涙だ」


 変態は言い放った。

 胸を張りなにも隠さず堂々と。

 

 「……どんな理由があっても。こんな事は許される訳は無いよな……」

 

 変態の説得に力無く崩れ落ちてゆく強盗。

 手から「から~ん」と音を立てて刃が床に転がる。

 そして、力無く座り込む。


 「判って頂けて何よりだ」


 崩れ落ちた強盗の口から意外な言葉だった。

 

 「……くらら……。 この期に及んでダメな父親でごめんな……」

 「何だと?」


 強盗の言葉に変態は視線を外に向ける。

 良く見ると店外の人混みからコチラを伺う視線があった。

 うら若い女性1人と男数人。

 おそらく派手な服装の女性がボスだろう。


 「…ちっ、使えない禿」

 「ボス、この娘どうします?」

 「金が無いならAV女優出演。約束通りよ」


 ボスの言葉に手下は凍り付く。


 「この子まだ小学生ですぜ…」

 「だから価値があるのよ、価値のある一本になるわね」


 彼女の言葉を聞きクララは青ざめる。

 そして脱兎のごとく走り出した。


 「そんなのイヤァ~~」

 「恨むなら、借金したアンタのオヤジを恨むんだね。変態のお客がお待ちだよ」


 男たちは捕まえると彼女の腕をひねりあげ、慣れた手つきで抵抗を封じる。

 どうやら、このまま撮影会場へ連行するつもりだろう。


 「娘を助けてくれぇ~~~!!」

 

 店内に男の絶叫が響く。

 魂の底から絞り出される渾身の叫び。


 「……判った」


 変態は頷くと具風が店内を駆け抜ける。

 

 ぐほっ!! ぐぇ!!


 刹那、手下の奇妙な声が響き始めた。

 そして、バタンと音を立てて倒れ込む男たち。


 一同は何が起こったか理解する事はできなかった。

 ただ閃光が駆け抜けていくのを目で追うだけのがやっとのようだ。

 判るのはただ変態の動きが人知を超えて居る事だけ。


 ただ一人を除いて。

 

「……裏死海文書使いか」


 ボスは表情一つ変えず、冷徹に言葉をこぼす。


 「後はお前一人。 その娘を解放してスグに失せろ!」

 「くくく……」


 ボスは小さく微笑む。

 そして、まるで勝ち誇ったような余裕を浮かべた。


 「何がおかしい?」

 「これであたしに勝ったつもりか? 裏死海文書使いの変態さん」


 裏死海文書の言葉に変態の動きが止まる。


 「お前が何故その名前を?」

 「簡単な事さ」


 ――閃光一閃。

 閃光が変態の蝋燭を両断する。


 「……なに、だと!?」


 変態は仰向けに倒れはじめた。


 「簡単な事さ、あたしもアンタと同類ということだ」


 スカートを捲りあげる彼女。

 彼女の下腹部には2本の蝋燭がゆらめていた。

 

 「…もはや、何も聞こえては居ないだろうがな」


 白目をむきながら床に横たわる変態。

 彼を見下げながら、汚物をみる表情で言葉をはき捨てる。


 「そんな…。 起きてよ! 裏死海文書使いさん!」


 クララは座り込み変態の頭をゆする。

 彼は白目を剥いたままぴくりともしない。


 「無駄さ、蝋燭を折られたんだ当分は目覚めないさ」

 「そんな…」


 クララは体育座りのまま変態に寄り添い必死で彼の頭をゆする。

 ――しかし、彼は身動き一つしない。

 

 「……お願い お願いだから起きてよ……」

 「無駄って判らないのかい? それよりアンタはこれから女優デビューだよ」

 「立ってよ、変態さん!!」


 ボスはクララの腕を掴むと車に向かい強引に歩き出した。

 

 「誰か助けて!!」


 だが、だれも彼女を助ける物は居ない。

 涙でぐしゃぐしゃのクララをボスは引きずるように歩いてゆく。


 「幾ら泣いても無駄だよ。観念しな」

 「……立ってよ、変態さん!!」


 クララは魂からの叫びを上げた。

 刹那、強風が巻き起こり彼女のスカートを舞い上げた。

 そして、彼女の涙に答えるように雨が降り注ぐ。

 ゲリラ豪雨のような猛烈な雨だ。

 なまぐさくなま暖かい暖かい涙のような雨だった。


 「その娘を放すんだ!」


 まるで雨をかき消すような野太い怒声が響き渡る。

 獅子の咆哮である。


 「だれだ?」

 

 声にボスは振り返る。

 其処に居たのは先程の変態。

 彼は何も隠すこと無く仁王立ちしていた。

 ボスは彼が何故立ち上げれたのか理解できないようだ。

 

 「どうやって立ち上がったのだ?」

 「……クララで勃った!!」


 彼は前の蝋燭をいきり立たせ、炎如く液体をほとばしらせながら口を開く。

 ボスは事態を理解する。

 前のろうそくによって復活したと。


 「ほう、そう言うことかい。 だが一本のお前が2段強化のあたしに叶うとでも?」

 「……試してみるか?」


 変態は静かに言い放つ。

 かれの言葉は絶対の自信に満ちていた。


 二人の間の空気が張りつめる。


 そして沈黙を破るようにサイレンが鳴り響いた。

 音を合図にぐれんの閃光と乳白色の閃光が交差する。


 「なぜだ…、一本しかないお前の方が何故強い…」


 強化を失い崩れ落ちる女性。

 変態は床に転がる二本の蝋燭に目を落とし、語り出した。


 「2段強化のお前は確かに強い。だが、しかし一つ間違いを犯していた」

 「間違い……だと?」


 ボスは声を詰まらせる。


 「そうだ、お前が悪だったということだ」

 「……悪か」

 「どんなに技術が優れていても、悪が栄えた試しはない!」


 変態は女性を自分の蝋燭で指しながら言い放った。

 いつのまにやら集まっていたギャラリーから歓声があがる。


 「もし、あたしとガチで戦っていたらどうなった?」

 「そのときは、横たわっていたのはオレだっただろうな」


 背中をむけ語り出す変態。

 そしてゆっくりとその場を去り始めた。


 「勝負をしたければ何時でも相手になってやる」

 「…断る。お前には勝てる気がしない」


 女性は苦笑いを浮かべる。

 猥褻物を出す時点で犯罪者だがな…と思いつつ。


 ”


 こうして、町にまた一つ英雄が生まれた。

 全裸で戦う変態えいゆう

 人々は彼をこう呼ぶ。 


 ――「全裸マン…と」


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― 新着の感想 ―
[一言] 亀甲縛りの、下半身ネイキッド(むきだし)マン・・・。 女戦闘員は二本差し・・・。 涙が出ました( ;∀;)
2018/10/28 23:10 退会済み
管理
[一言] 初めまして。 クララでたった。 名言ですねー。 ハイジのクララとかけてらっしゃるところが素晴らしいな、と思いました。 全裸ヒーローですが、やはり正義は勝つのですね。 裏死海文書、がす…
[良い点] 書きだしが竹取物語っぽくて、内容はアレだがかっこいい。 [気になる点] なかなかギリギリな気がする。 [一言] 悪ではない全裸の変態とは、これ如何に?
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