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フォール通り露店祭(4)

「たぶんこの辺だと思うんですけど……」


エリスをつれたミラは、何かを探すようにフォール通りの端の方まで来ていた。


「あ、いたいた。こっちだよミラ!」


きょろきょろと辺りを見回していたミラははっと声の方を振り向いて大きく手を振った。


「リーン! なかなか見つからないから探したよ」


リーンと呼ばれた少女の方へ、ミラは人混みをかき分けながら近づいていく。


「ごめんごめん、ちょっと気になる露店があってそこの列ににならんじゃってた」

「まったくもう。紹介しますねエリスさん。この子はリーン、私の初めての冒険仲間です」


短い青みがかった髪と勝気な瞳の少女は、大人し目のミラとは対照的に、活発的な雰囲気をまとっている。

少女はエリスの方へと向き直ると礼儀正しくぺこりと頭を下げた。


「はじめまして、エリスさんの話はよくミラから聞いています」

「リーンさんですね、どうもはじめまして」


挨拶を返すエリスをまじまじと観察するリーン。

両手に持ていいる露店で買ったばかりの食べ物、口元についたソースと順に目線を移動させた後リーンはぼそりと呟く。


「ミラが言ってた通り腹ペコキャラ、って感じだね」

「ちょっとリーン!?」


慌ててリーンに詰め寄るミラの後ろで、エリスがピシリと音を立てて固まった。


「あの、つかぬ事をお伺いしますが普段ミラさんは私のことをどういった風に……」

「んーと、ミラがお店に行くたびに同僚の人にご飯をねだっている人とか」

「ち、違うんです! それだけじゃなくて他にもちゃんと色々話してますから!」

「ご飯ねだってる話をしたのは事実なんですね……。いえ、いいんです、本当の事ですから……」


顔を真っ赤にして焦るミラを横目に、エリスは落ち込みながら手に持っていた肉をやけ食いする。


「まぁあとは、ミラの杖を見繕ってくれた人って聞いてます。この子、随分あの杖がお気に入りらしくっていっつも自慢してくるんですよ」


それを聞いてエリスは良かったと柔らかい笑みを浮かべた。


「そういっていただけると、魔道具店冥利に尽きますね」

「だって本当にすごいんですもんこの杖。おかげで私、駆け出し冒険者の中でもちょっとした実力者として知られてるんですよ」


自慢げに胸をはるミラの頭を、後ろから呆れたようにリーンがぺしりと叩く。


「調子に乗らない。そうやってこないだも痛い目にあったんだから。……でも、確かにすごいですよねこの杖。火蜥蜴の杖は私も知ってるけどこんなに良い質のものは見た事ないよ」


その言葉にエリスはぎくりと表情を強張らせた。


「ま、まぁ私もお客様に良いものをお渡しできるよう品質の管理には気を使ってますからね」


高品質の道具ばかり詰め込まれた魔王城の宝庫からかっぱらってきた物とは言えないため、リーンとは目線を合わせずそう答える。


「とはいえ道具はあくまで道具です。ちゃんとそれを使いこなせるミラさんが凄いんですよ」


そう言われてミラは照れたようにうつむく。

事実、高品質の火蜥蜴の杖は消費する魔力も大きくなるため、本来駆け出しの冒険者が簡単に扱えるような物ではない。


「あ、だめですよエリスさん。ミラは褒められ慣れてないからそういう事いうとすぐ調子のっちゃうから」

「やめて! 私そんなにちょろくないからね!」

「ミラがちょろいかはさておき、エリスさんはまだ露店巡りはするんですか?」


掴みかかってくるミラをどうどうと宥めながらリーンはエリスに尋ねる。


「そうですね、せっかくですからもうちょっと周ろうかと」

「それなら私もご一緒したいんですけど良いですか?」

「もちろん。お祭りは人数が多い方が楽しいですからね」

「やった! 実はですね、私オススメの美味しい料理を出してる露店があるんですよ」

「本当ですか! ぜひ紹介してください!」


美味しい料理と聞いて顔色を変えたエリスは、目を輝かせて露店へ向かうリーンへとついていく。


「ちょっと、まだ話は……。待って、置いてかないでください!」


リーンにことごとくいなされたミラは、息を荒げながらそんな二人の後を追いかけて行った。





「言い訳を聞こうか」

「ちがっ、いえ違くないんですけど、なんというか、やはり私も年上のお姉さんとして若い子たちにご馳走してあげたくなったというか」


結局、露店祭が終わるまで三人で店を回った後、一人別れてゾルの待つ自分のお店へ帰ってきたエリスは、まだ多くの人が残っているフォール通りの一角で正座をさせられていた。


「なるほど、じゃあミラさんとその友人のためであって、自分のために使ったわけじゃないんだな。それなら仕方ない」


ゾルの言葉にエリスは気まずそうな表情で黙り込む。


「で、お前が食べ物に使った金額はこのうちの何割だ」


「8割ほど……痛い! 頭を握るのはやめてください! 仕方ないじゃないですか! 私これでも魔族の王なんですよ!? 魔族が自分の欲望に忠実に従うのは生まれ持った宿命のようなものじゃないですか!」

「元だろ元。まったく、よりにもよって物価の高い祭りの日に散財なんてしやがって」

「お祭りの雰囲気って怖いですよね……。こう、ついつい財布の紐が緩んでしまうというか」

「エリスの財布は紐が緩んだどころか穴が空いていたみたいだがな」


炎華を全て売り切り一息ついていたゾルの元に帰ってきたエリスは、精一杯可愛らしい笑みを浮かべて『持ち出したお金、全部使い果たしちゃいました』と告げた結果、本気でキレたゾルに正座させられて今に至る。


「まぁ使ってしまったものは仕方ない。さっさと露店を畳んで店に帰るぞ」

「なんだかんだ行ってやっぱりゾルさんは私に甘いですよね」

「……」

「あぁごめんなさい嘘です! 謝りますから片付けるの手伝ってください! あ、足がしびれて立てなっ!」


無言で一人帰路につくゾルを追おうと急いで立ちあがったエリスは、正座でしびれた足をもつれさせて無様に地面へと倒れこんだ。





「もう、ひどいですよゾルさん。私の可愛い顔にこんな傷が。残ったらどうするんですか」


結局一人で店の後片付けをさせられたエリスは、転んだ際に怪我した鼻をさすりながら恨めしげにゾルを睨む。


「心臓つき刺されても平然としてた上に傷跡一つ残らなかった奴が言っても説得力が全くないな。それで、祭りはどうだった?」

「いや、あの時は虚勢張ってただけで実際かなりやばかったんですけどね……。今日は本当に最高の1日でしたよ」

「それはよかった。祭りなんてものは向こうではほとんど経験できなかっただろうからな」

「もしかしてゾルさんはそれで私にこの話を持ちかけたんですか?全く、なんだかんだお節介ですよね」

「主のために手を焼くのが側近の仕事だからな、ほれ」

「ありがとうございます。本当、感謝してますよゾルさんには」


ゾルが差し出した紅茶を受け取り、エリスはほっと一息つく。


「来年は、ゾルさんも一緒に露店めぐりしましょうね」

「来年と言わずとも、もう数ヶ月もしたら魔王討伐祭があるだろう」


それを聞いてエリスは微妙な表情をする。


「ありましたねそんなものも。私としては自分が討たれた事を祝われてるようなものなんでなんともいえないのですが」

「仕方ないだろう。人間にとって一番の脅威と思われたわけだし。っと、そういえば今の話で思い出した。エリス宛に面白い奴から手紙が来てるぞ」


そういってゾルは一枚の手紙をエリスに手渡す。


「私に手紙?……ふふ、なるほど彼からですか」


受け取った手紙の差出人を確認したエリスは、嬉しそうに口元を綻ばせた。

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