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フォール通り露店祭(1)

「さて、明日も危うい貧乏店長のために俺がわざわざ金策を考えてやったわけだが」

「さすがです! さすがゾルさんです! もう本当頼りにしてます!」


かつて魔族をまとめ上げ、歴代最強と恐れられた魔王が、これ以上ないほど情けない姿をさらしていることに残念な気持ちを抱きつつ、ゾルは一枚の紙をエリスに手渡す。


「フォール通り露店祭?」

「あぁそうだ。エリスにいきなり難しいことを言ってもおそらく赤字を生み出すだけだろうからな、まずはこれくらいから始めてみよう」


幼子をみるような眼差しに、エリスは反抗的な目でゾルを見返す。


「ゾルさん、これでも私は魔王城の事務作業を一手に引き受けてたんですよ? 地獄のような環境で鍛えられた私にその言い草はあんまりじゃないですか」

「ならその鍛え上げられた能力でさっさと稼いでこい」

「ごめんなさい! 調子に乗りました! 見捨てないでください!」

「……。そもそも、この店は知名度が低い。場所も大通りから遠く離れてるからな。現状では数少ない常連のおかげでもっているようなものだ」

「そうですねぇ、こないだの女の子のように新しく来てくれるお客様なんて滅多にいないですもんね」

「そうだ。だからこの現状を打破するためには街の者にこの店をよく知ってもらう必要がある」


そこでこれだ、とゾルは先ほどの紙を指差した。


「この露店祭で魔道具展を開き店の宣伝をするんだ。幸い、うちの魔道具は評価が良いからな、うまくいけばリピーターがついてくれるだろうし、少なくとも今月を乗り切るだけの小銭は期待できるだろう」

「なんて素晴らしい考え、ゾルさんは天才ですね!早速実行に移しましょう!」


目を輝かせて小躍りするエリス相手に、もはや何も言うまいとゾルは静かに目線をそらした。





露店祭まであと7日、出店手続きを終えたエリス達は大きな問題に直面していた。


「この店の魔道具が売れない理由がよくわかるな」

「ど、どうしましょう……」


意気揚々と露店祭に参加する決意をしたまではよかったが、肝心の売り物がほとんどなかった。

というのも、店にある魔道具は大抵希少品ばかりで市場に滅多に出回らないものばかりなので、気軽に露店に商品を並べようものならば大騒ぎになることは間違いない。


「この魔道具店にある道具、大半は城の宝物庫からかっぱらってきたものだからおいそれと露店になんて出そうものなら私たち、確実に魔族の関係者かと疑われますよね」

「だろうな、それはやめておいたほうが良い。大体なぜこんなに基本的な商品が欠けているんだ?」

「だ、だって今までそこらで買えるような魔道具をわざわざうちに買いに来るような人いませんでしたし……」


確かに、こんな路地裏にわざわざ魔道具を買いに来るような奇特な連中は普通の魔道具なんて目にもくれなさそうだ。


「最低限の数はあるんですよ?ゾルさんの喫茶によったついでに魔道具を買っていくお客様もいらっしゃいますから。でも露店に出すにはさすがに数が足りないですね……」

「仮にも元魔王なのだし、特にエリスなら魔道具くらい気合いで作れるだろう」

「そりゃ材料があれば多少は作れますけど、今は材料を買うお金もないですし」


材料、材料か……とつぶやきながら、ゾルは厨房の奥へと入っていく。

エリスが不思議そうにその姿をみていると、ゾルは厨房から大きな木箱を引っ張り出した。


「爆裂の実だ。うちに食材を卸してくれてる方が、安く大量に手に入れたものを安値で売ってくれると言うので調味料用に買い貯めておいたものだが、これで何かポーションでも作れたりしないか?」


エリスは木箱いっぱいに詰まった爆裂の実をじっと眺め、ふむと呟いてその豊満な胸を張る。


「さすがにこれだけでポーション類を作るのは難しいですが、いい案が思いつきました! が、ちょっと足りない物があるのでお使いを頼まれてくれませんか?」






「高貴なる我が名の下に命ずる、火鼠よ、我が下に集え」


エリスに頼まれたお使いを果たすために、ゾルは街はずれの草原へと来ていた。

ここには駆け出しの冒険者が相手にする危険度の少ないモンスターが多く繁殖している。

ゾルの目的はここで繁殖しているモンスターの一種である、火鼠にあった。


「まったく、何で俺がこんなことを……」


文句をいいながらも、エリスの頼みごととあっては断れないため右手にもっている小さなナイフで集まってきた火鼠から毛を刈りとっていく。


「仮にも魔界の貴族である俺がこんなことをしていると知ったら、部下たちが泡を吹いて倒れそうだな」


先日訪ねてきたリリを思い出しつつ、ふとそんな事を思う。

魔界において身分の序列は絶対、最上級に位置するゾルのような魔族がこんな雑事に励んでいる姿など、魔界で見られるどんな光景よりも珍しいだろう。

もっとも、その身分制度もあのとんでも魔王が現れてからはだいぶ崩壊しかけているが。


「あれ、あなたは魔道具店にいた人ですよね」


その後もひたすら毛を刈りとっては火鼠を集め、また毛を刈り取るという作業をしていたゾルは、唐突にかけられた声に反応して顔をあげる。

そこには、ついこの間エリスが杖を見繕っていた少女が不思議そうにこちらを見ていた。


「おや、確か君はミラといったか」

「は、はい! ……あの、なにをなさってるんですか?」

「あぁこれか、エリス……店長に頼まれてな、魔道具の制作にこいつの毛が必要らしい」


そうなんですかと興味深そうにその工程をすこし眺めた後、ミラはためらいがちにゾルに声をかける


「あの、あれからわたし結構お金を稼げたので、この後足りなかった料金を払いに行こうと思ってたんですけど、これからお店に行っても大丈夫ですか?」


どうやらゾルが街の外にいることから、今日は店は休業なのかと勘ぐったらしい。


「店に行くのは構わないが、お金のことは気にしなくていいと思うぞ。あれはエリスが好きにやったことだしな」


で、でも……といまだ迷いを見せているミラに、すこし考えてからゾルはひとつ提案をもちかけた。


「そうだな、では料金の代わりと言ってはなんだがうちの貧乏店長の手伝いをしてほしい」

「えっと、もちろんわたしは構わないですけど、まだ駆け出しなんでそんな難しいことは……」

「なに、本当に簡単なことだ。もちろん、手伝ってくれたら追加で礼もしよう」


そういって、ゾルが提示した依頼内容に、ミラは怪訝な顔をしながらもそれならばと引き受けることにした。

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