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弟子をとろう(2)

基本的にはいつも静かなノワールだが、最近はすこし様子が違っていた。

相変わらずエリスはのんびりしているし、ゾルも静かに喫茶店の仕事をこなしているのだが、今はそれに加えてせっせと動き回る小柄な人影が増えている。


「エルメナさんは仕事熱心ですね」


相変わらず今日も大してお客はきていないため、エルメナは店内にある魔道具の清掃など細かい仕事をこなしていた。


「ボクはまだ見習いですし、これくらいしかできませんから。それに、見たことない魔道具がたくさんあるので楽しいんです」

「しっかり働くのは素晴らしいが、あまりやる気をだしすぎてエリスを甘やかしてはダメだぞ。あの店長はすぐダメになるからな」

「聞こえてますよゾルさん」


そういってはにかむエルメナにゾルが小声で忠告すると、魔道具売り場からエリスが余計なことを言うなと睨みをきかせる。


「まぁでも、お仕事はそれくらいでいいですよ。人も来ませんしお昼にしましょうか」


もうすでに昼時も過ぎ、喫茶店も客足が遠のいた後だ。

おそらく夕方あたりまで人は来ないだろうと踏んで三人は休憩することにした。


「お店には慣れてきましたか?」

「はい、最初は不安だったんですけど、二人ともいい人ですしボクでもやっていけそうです」


店で働き始めた頃はなかなか目を合わせるのも苦労していたエルメナだったが、一週間もするとだいぶ慣れてきたようで、今は二人となら普通に会話もできるようになった。


「ただ、やっぱり接客はちょっと苦手なんですよね……」


そういってエルメナは申し訳なさそうにシュンとする。


「人間誰でも苦手なことはありますからね。幸いうちのお店はお客さんがそんなに多くないですし、ゆっくり慣れていきましょう。私たちもできるかぎりフォローしますし。ね、ゾルさん」

「あぁ。それにエルメナさんは接客以外でよく働いてくれているし、それだけで俺たちは随分助けられているからそんなに気にしなくても大丈夫だ」


優しい言葉をかけてくれる二人に、エルメナは嬉しそうに感謝の言葉を述べる。


「ゾルさんは身体大きいし、顔もいかついのでちょっと怖そうな人に見えますけど、こんな感じに優しい人なのでどんどん頼るといいですよ」

「まて、俺の顔はそこまでいかつくないだろう。……そこまで怖そうに見えるか?」


エリスに言われたことをちょっと気にしているゾルをみて、エルメナはおかしそうに微笑む。


「そういえばエルメナさんは、どうして魔道具に興味を持ったんですか?」

「えっと、ボクもともと冒険者に憧れてたんです。でも、魔法の才能もなかったし、身体が強いわけでもなかったんで諦めちゃったんです」


なにより、人見知りがひどくてパーティ組めませんしね、と恥ずかしそうに続ける。


「そんな時に魔道具に出会いまして。才能に関係なく、誰にでも使える魔道具にとても可能性を感じて。そこからは、魔道具に惚れこんじゃって……」

「確かに、皆が皆魔法を上手に扱えるわけじゃないですもんね」


なるほど、とエリスは納得したように頷く。


「それじゃあエルメナさんにはまず冒険に役立つ魔道具の作り方なんかを教えていきましょうかね」

「ほ、本当ですか!?」


よっぽど嬉しかったようで、エルメナは思わず声が裏返ってしまう。


「ギルドは魔道具の開発も行っているんですけど、基本的には街の人の生活に役立つものを作っているので、冒険者用の魔道具って興味はあったんですけどあまり触れる機会がなかったんですよね」

「そういうことなら、せっかく普通の魔道具店で働いてるわけですし、まずはその辺りから始めてみましょうか」


エリスの言葉に、エルメナは元気良くはい! と答えた。


「そういえば、新しく魔道具を開発するとか言ってたのはどうなったんだ?」


会話がひと段落したのを見計らい、ゾルがエリスに尋ねる。

最近人がいない時に店の奥でごそごそと作業しているのは知っていたが、なにを作っているかを聞いていなかったので少し気になっていたのだ。


「できるまでのお楽しみ、です。結構面白そうなものができそうですよ」

「ほう、何を作るか明かさないなんてエリスにしては珍しいな」


大体いつもなにかアイディアが思いついた時には作る前に誰かに話しているので、エリスが秘密裏に何かを作るというのはなかなかない。


「エリスさんは、普段から良く魔道具の製作をしているんですか?」

「昔は良くしてましたけどここ数年はほとんどしてませんでしたね。最近またちょっと始めた感じです」


魔王城にいた時も、戦争中盤以降はひたすら城にこもって書類仕事に追われていたため魔道具開発などはしている余裕がなく、こっちにきてからはそもそも魔道具を作ろうなんていう金銭的な余裕は一切なかった。

こうしてまた魔道具の開発に手を出せるのも、ギルドからもらった報奨金のおかげだった。


「そうだ、せっかくだからエルメナさんにも手伝ってもらいましょうかね」

「えっと、ボクまだ見習いだったんでなにもできないと思うんですけど……」


不安げな表情のエルメナに、大丈夫ですよとエリスが笑いかける。


「そんなに難しいことは頼みませんから。それに、作業をみてるだけでも勉強になるかもしれませんしね」

「わかりました!ボクがんばりますね師匠!」


やる気満々のエルメナを眺めながら、エリスはやっぱり師匠って響きはいいなぁ、などとどうでもいいことを考えていた。

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