弟子を取ろう(1)
「一応理由をきこうか?うちはそんなに忙しくもないからこれ以上人手はいらないと思うんだが」
またわけがわからないことを言い出したとおもいつつ、ゾルは一応エリスに尋ねる。
「実はですね、今回のお仕事受けてから、またちょっと魔道具製作に熱が入ってしまいまして。お店で売る用の魔道具を作ってみようかと思うんです。いつまでも魔王城からかっぱらってきた物売ってるわけにもいかないですしね」
「それで品物を売るのは人にまかせて、自分は製作に専念したいと?」
「そういうことです。まぁ最近お客様も少しずつ増えてきましたし、ちょうどいい機会だと思うんですよ」
エリスの言い分に、ゾルはふむと考え込む。
「俺も配膳や後片付けなんかを手伝ってもらえるとだいぶ楽ができるしな、いいんじゃないか? 少なくとも全部食費に消えるよりは有効的な使い方だろう」
「そんな食べませんよ……。確かにちょっと考えはしましたけど……」
冗談で言ったつもりだったんだが考えはしたのかと、エリスの食い意地が改めて心配になる。
「とはいえアルバイトなんてどこで募集するんだ?」
「一応、冒険者ギルドの方に求人の依頼をだそうかなと。あそこは職業斡旋なんかもやってますし」
この町の住民は基本的に親の仕事を継ぐため、あまり手が余ってる人間というのはいない。
とはいえ、冒険者に憧れてこの町にきたものの自分の実力不足から他の職を求める者や、冒険者になるために修行に励み、その間どこかで一時的に働く者などがいるため、そういった人たちのためにギルドは職業紹介なども行っている。
「そう都合よく人がきてくれるといいけどな」
最近多少名が知れてきたとはいえ、所詮寂れた魔道具店兼喫茶店にすぎない。
こんなところに応募してきてくれる人はなかなかいないだろうとゾルは予測する。
「まぁやってみなければわかりませんって! 案外、応募殺到しちゃうかもしれませんよ?」
その自信はどっからくるんだとゾルは言いたかったが、こう言いだしたエリスは実行するまで止まらないので、いつも通り好きにやらせることにした。
冒険者ギルドに求人を出して一週間後。
ゾルの予想通り、ノワールへの応募はほとんどきていなかった。
「お、おかしいですね……。こんなはずじゃ」
「だから言っただろう。大体、魔道具店はある程度専門の知識が必要だからな。こういった事に興味がある者でなければそもそも難しいと思うぞ」
ちなみに、喫茶店の仕事だけなら雇って欲しいという人は何人かいた。
ただ、それだとエリスの最初の思惑からずれてしまうため今の所は全てお断りしている。
「どこかにいい人材は転がっていないでしょうか」
エリスがそんな事をぼやいていると、チリンチリンと来客を告げるベルがなった。
このあいだのギルドの騒動もあって、最近は日に数人は訪ねてくるようになったので、慣れた手つきで佇まいをなおす。
「いらっしゃいませ!ってあれ、フィーナさんじゃないですか」
笑顔で入店した客を出迎えると、その相手はつい先日知り合った人物だった。
どうやら一人ではないようで、小柄な少女が彼女の後ろについてきている。
「どうもこんにちは。突然で申し訳ないのですが、今日は個人的にエリスさんにお願いがありまして」
お願い?と首をかしげるエリスに、フィーナは背後で隠れている少女を前に引っ張り出して紹介する。
「この子はエルメナといって、うちの職員の一人です。といってもまだ見習いなんですけどね」
エルメナと呼ばれた少女は結構な勢いで頭を下げ、エリスに礼をする。
どうやら恥ずかしがり屋のようで、目深くかぶった帽子からは、真っ赤にそまった耳が覗いていた。
「実は、エリスさんが魔道具店でのアルバイトを探しているという話を職員から聞きまして。それでもしよろしければこの子を雇ってもらえないかと」
フィーナの申し出に、何を頼まれるのかと思っていたエリスは意外な提案に驚きの表情をみせる。
「私としては願ったり叶ったりなお話ですけど、ギルド技術部の職員なんですよね?」
「そうですね。そのため、形式上は人材派遣という形になります。まぁ実際は外部研修のようなものですね」
うーんとエリスが考え込んでいると、エルメナはがばっと顔を上げ、まじまじとエリスの顔を見つめながら口を開いた。
「あの!ボク、エリスさんが発案したっていう伝送線の話を聞いてぜひあなたに色々教えていただきたいと思ったんです!商品の手伝いや雑用でもなんでもしますので、ボクをここで働かせてもらえないでしょうか!」
そう熱心に訴えかけるエルメナの姿に、エリスは思わず口元が綻ぶ。
「ギルドからお願いする形になるので、多少補助金もでます。このあいだ出会ったばかりで勝手なお願いをしているの重々承知なのですが、お願いできないでしょうか?」
エルメナの後ろでフィーナも頭をさげた。
それが一押しとなり、エリスもエルメナの面倒をみる決心を決める。
「わかりました。ギルドには色々お世話になっていますしね。この子は私が責任を持って預かります。とりあえず、普通にお店の手伝いをさせて、暇なときに魔道具について教えてあげればいいですかね?」
「はい、それで構いません。この子をよろしくお願いします」
自分の面倒をみてくれることになったエリスに、エルメナは目を輝かせて礼をする。
「ふ、ふつつかものですかよろしくお願いします、師匠!」
「はい、よろしくお願いしますエルメナさん。……ふふ、師匠、師匠かぁ」
エリスも師匠と呼ばれるのはまんざらでもないようで、嬉しそうに表情をにやけさせた。