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街に明かりを灯そう(3)

「で、これは一体どういう状況なんだ」


閉店の準備をしていたゾルは、ギルドの職員に頼まれてギルド本部まできたのだが、そこでは未だにエリスとヴァンがにらみ合っていた。


「あなたがゾルさんですね。あの、あそこの方を引き取ってもらいたいのですが」


疲れ切った表情のフィーナをみて大体事情を察したゾルは、はぁとため息をついて取り囲んでる冒険者達の間に割って入る。


「おいエリス、帰るぞ」


ゾルが声をかけたことで、エリスの注意が一瞬それて力が緩んだ。

その隙をヴァンは見逃さず、全力でエリスの腕をテーブルに叩きつけた。


「あー!!」

「甘いなぁエリス!また出直してきなっ!」


豪快に笑うヴァンを、エリスは心の底から悔しそうに睨む。


「さすがの姉ちゃんもヴァンには勝てなかったか。いやでもいいもんみせてもらったよ」

「あそこまでヴァンと張り合えるやつなんてなかなかいねぇからなぁ」


ずっと見守っていた冒険者たちは皆口々にエリスを絶賛する。

だがエリスは納得がいかないようで、ヴァンに再戦を申し込んだ。


「私の誇りをかけてもう一回勝負です!」

「だから帰るって言ってるだろ」


ゾルにぱしりと叩かれ、涙目で待ってくださいと訴えかけた。


「私が力勝負に負けるなんて初めてのことなんですよ!? このまま引き下がれと言うんですか!」

「ギルドの職員に迷惑かかってるから続きがやりたいならヴァンをノワールに誘え」


そう言われふと周りを見回し、遠巻きに見ているギルド員の表情をみたエリスは、うっと言葉に詰まって黙り込んだ。


「またこいよ姉ちゃん、今度は一緒に酒飲もう!」

「魔道具店にも行かせてもらうわねー」


ゾルに連れられてギルド本部を後にするエリスに、冒険者たちから声をかけられる。

その言葉にエリスは気恥ずかしそうに頬を染め手を振って返した。


「それにしても、エリスが負けるなんて意外だったな」

「まぁヴァンさんですからね。あの人、あれでめちゃくちゃ強いですし」


帰り道、まだ酔いが回ってるのかどこかぼーっとしているエリスを介抱しながら、二人は真っ暗な夜道を歩いていく。


「俺はヴァンとは直接戦ったことなかったが、エリスは戦ったんだったな」

「強かったですよ、彼は。多分、クルツさんといい勝負するんじゃないですかね」


そう呟くエリスの顔は、どこか嬉しそうに綻んでいる。

よっぽど、自分に届くかもしれない相手の存在がうれしいのだろう。


そういえば、といってエリスが話を切ってゾルの方へと向き直る。


「今日もわざわざ迎えにきてくれてありがとうございます、ゾルさん」


急にそんなことを言い始めた彼女に、ゾルは訝しげな表情を浮かべた。


「エリスがまともな事を言うときは大抵ろくでもない事を考えてる気がするんだが」

「そんなことはないです……よ? さっきヴァンさんに、ゾルさんには感謝しとけよと言われてたのをふと思い出しまして。普段は気恥ずかしくてなかなか言えませんけど、今はお酒のせいという言い訳もできますから」


なんて言いながら子供っぽく笑うエリスを見ていると、普段からの苦労も大して苦ではない、などと思えてきて、ゾルは俺もちょろいなと苦笑する。


「さ、酔いも覚めてきましたし冷える前にさっさと帰りましょうか」


そう言って一足先にノワールへ向かう自分の主を見守りながら、ゾルはのんびりと彼女の後をついていった。




後日、協力のお礼ということでノワールまでフィーナが直接報酬を届けに来た。


「こ、こんなに……!」


手渡された報酬金の額の多さに、エリスはひきつった表情を浮かべる。


「エリスさんが提供してくれたアイディアは、王国全土で応用がきく大発明ですから、これくらいは当然です。伝送線の実験も順調にいっているため、近いうちに完成品のサンプルとデータもお渡しできると思います」


報奨金を抱えたまま固まっているエリスに、淡々とフィーナは現状を説明していった。


「あまりの額の大きさに一瞬思考が飛んでました……。あ、ところで一つ聞きたいんですけど、街灯が街に導入されるのはいつくらいになるんですか?」

「再来月開催される、魔王討伐祭と同時にお披露目ができるよう調整しているところです。きっと祭りも賑わうことでしょうしね」


その返答にエリスはなるほどと頷く。

確かに街灯のお披露目会は祭りのいい客寄せにもなるだろう。


「再来月ですか、楽しみですね」

「お披露目会にはエリスさんも招待させていただきますので、よろしければ参加してください。それでは私はこの辺りで。今回はお世話になりました」


フィーナは改めて礼を言い、ノワールを後にする。

その姿を見送ってから、エリスは報奨金を眺めてふうと息をついた。


「この間までは明日の食事すら危うい生活だったのに、こんな大金を手にするとは何が起こるかわからないものですねぇ」

「まったくだな。それでそのお金、どう使うんだ? まさか全部食費に回すわけじゃないだろう」

「そのことなんですけど、ちょっと考えがありまして」


なんとなく、ゾルはロクでもないことを言い出しそうだと長い付き合いからくる直感で感じたが、それより早くエリスが口を開く。


「アルバイトを雇おうと思います」


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