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街に明かりを灯そう(1)

「まったく、お前は一応ギルドの要注意人物なんだからな? その辺理解して行動しろよ」


たまたまエリスが冒険者に手を出してるところをみてしまったヴァンは、顔を真っ青にして止めに入ったわけだが、やっていた内容のくだらなさを聞いてホッと胸をなで下ろしていた。

ヴァンも対魔族の最前線で戦っていた時いちど刃を交えているため、エリスの実力をある程度把握している。

だからこそ、エリスがギルド内で力を振るっている所をみた時は冷汗ものだった。


「ヴァンさん、私ここ最近気がついたんです。お金を稼ぐためには、多少のリスクは仕方ないのだと」


「俺の首が飛ぶからそういうリスクは他人に迷惑がかからないようにとってくれ」


呆れたように頭を抱えるエリスに、ごめんなさいと謝りながらもニヤリと微笑む。


「でもこれできっと冒険者のお客様も増えてくれるでしょう。最近お店の方も順調ですし、これでもう飢えることは……!」


「お前、本当ゾルに感謝しろよ」


自由奔放なエリスの言動にため息をつきながら、普段これの相手をしているゾルにヴァンは心の底から同情した。


「それで、俺に用があってギルドにきたんだよな」


「はい、お約束していた件がある程度まとまったので」


エリスは資料を取り出すと、ヴァンに渡して伝送線の説明を始める。


「こりゃ期待以上だな……。お前さんに頼んで本当によかったよ」


「ただ欠点はありますよ。空気中に放出されてしまう魔力はゼロではないので、そっくりそのまま魔鉱炉で生成した魔力を送ることはできません」


「なるほどな。ちなみにこの鉱石、魔鉱石を元に作るって話だったが俺たちでもできるのか?」


「一応製法的には、人間界でも可能だとは思います。でもすでに魔界で開発された技術を私が人間界に教えていいものかがちょっと悩ましいんですよね」


というのも、とエリスは続ける。



「私は戦争時、防衛に徹することで自国内で技術を養う余裕を生み出しました。しかし、あなたたち人間側はそれを機に攻勢に転じたため、生活に応用できる新たな技術や産業が生まれるほどの余裕はなかった。だから今魔界と人間界の技術には大きく差が開いています」


ヴァンはその指摘にううむと唸った。

この指摘は事実で、エリスが魔王となってからは魔界からの侵略は鳴りを潜めたため、それを好機とみて人間側は資材を優先的に戦争に使い、魔界への侵攻を行っていた。

そのため戦争に使用される技術は発達したが、それが民に還元されるまでにはまだ大分時間がかかる。


「それの何が問題かというとですね、私が新しい技術を提供してしまうと、それを頼りにして人間界側で新しい技術が生まれることの弊害になってしまうかもしれないんですよ」


そこまで真面目な顔で言った後、エリスはにこりといつもの営業スマイルを浮かべた。


「というわけで、私は魔界から輸入することをお勧めします。初期費用はかかりますけど、魔鉱炉を拡張するよりかは大分安くなるはずですし、継続的に購入する必要もないですしね」

「随分と出来るようになったじゃねえかエリス。1年前のお前さんにゃ絶対商売なんか無理だと思ったが、なかなかどうして交渉が板についてやがる」


それをきいてエリスは苦い顔で笑う。


「これでもずっと魔界の統治をしてましたからね。国規模の交渉なんかは経験もあるしできるんですよ。ただこれを個人商店の規模に落とし込むのがどうにも難しくて」

「まぁ確かに規模が違えば勝手も違うからな。んで、具体的にどれくらいかかるのかってのはわかるか?」

「そこの資料に全部まとめてあります」


ヴァンの質問にエリスは一枚の紙を指差して答える。

一通り読んで、ヴァンは現在の予算と照らし合わせて考え込むような顔をした。


「結構予算ぎりぎりだな。いや、よくここまで予算内に落とし込んでくれたと感謝をいうべきところなんだが」

「削れそうなところはなるべく削りましたが、やはりそれくらいはかかりますね。伝送線に混ぜる鉱石をケチると魔力の伝送効率が落ちるので、長期的な目でみると魔鉱石の消費量的にかなり損になると思います」


ふうむ、と一息ついたヴァンは、机の上に置かれた魔道式の通信機を用いて人を呼びつける。

するとすぐに部屋の扉がノックされ、少しきつい雰囲気を纏う、聡明そうな女性が部屋へと入ってきた。


「紹介しようエリス。こいつは今回の計画の責任者で、フィーナと言う」


紹介された女性は礼儀ただしくエリスに一礼し、改めて自己紹介を行う。


「フィーナ・リグネスです。本ギルドの技術部長を務めさせていただいており、今回の件では責任者という立場を務めさせていただいております。あなたが、今回ご協力いただける魔道具開発者のエリスさんですね?お話はギルド長から聞かせていただいております。どうぞ宜しくお願いします」


固い、というイメージがぴったりだなと思いつつエリスは柔和な笑みを浮かべた。


「私のような若輩者がこのような大きな事業に携わらせていただき、とても光栄に感じております。微力ではございますが、私の全力を持って協力させていただければ、と思っています。宜しくお願い致します」


その立ち振る舞いから、おそらくフィーナは貴族の出なのだろうと予測し、エリスもできる限り礼儀ただしく返答する。

すると、ヴァンとフィーナは驚いたように目を見開いていた。


「驚きました、エリスさんは貴族の方なのですか?」

「おいおい、お前本当にエリスか? 変なものでも食ったんじゃないのか?」


失礼な事をいうヴァンに、先ほど懐にしまっておいた電気蜘蛛の手袋を投げつける。

あぶねえ!といって仰け反るヴァンを尻目に、エリスはフィーナへと向き合った。


「私だってそれなりの立場の相手と話をするときは礼節には気をつけますよ?とはいえ、堅苦しいのは苦手なので今くらいの喋り方を許してもらえるとありがたいんですけどね」

「構いませんよ。私も普段は冒険者のような荒くれものを相手にしている身。今更そこまで礼儀にこだわるつもりはありません」


その割にはやっぱり固いなぁと思いつつ、エリスはありがとうと礼を言う。


「なぁ、俺もそこそこの立場の人間なんだが

「ヴァンさんは黙っててください」


恨めしげにエリスをみるヴァンに、もう片方の手袋をとりあえず投げつけておいた。



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