町の治安向上目指して(3)
冒険者ギルド。
もともとは自衛のために集まった有志の集団で、その起源は魔族との戦争が起こるはるか前まで遡る。
ギルドは各町ごとに存在し、その町での治安維持の役割を担っていて、町周辺のモンスターの駆除などが主な仕事だ。
冒険者という名前になったのは対魔族戦が始まった頃からで、町の治安維持だけではなく王国からの依頼を受けて魔界への侵攻なども行っていたのが由来である。
戦争が終わってからも、町の住人の依頼で貴重な素材などをモンスターの生息地に取りに行ったりなどもするため、冒険者という名前が定着していた。
また、特にこの町は魔界に近く戦争時は激戦区と化していたため、ギルドが町全体の指揮をとりやすいように王から町の統治権を与えられている。
そのためこの町は王国の中で最も冒険者の数が多い、冒険者のための町となっていた。
「魔王やってた時は一番相手にしたくなかった場所に、まさか私が協力しに行くことになるなんて人生なにが起こるかわからないですね」
まぁ私人じゃないですけど、とひとりつぶやきながらこの町の象徴である冒険者ギルド本部へエリスは足を踏み入れる。
「ここに来るのは久しぶりですけど、いつきても賑やかでいいですね」
内部には酒場と依頼斡旋所が広がっていて、冒険者で賑わっている。
エリスも争いはあまり好きではないとはいえ、戦いの中に身を置いていたものとしてこういった血気盛んな空気は嫌いではない。
特に露店祭以降ノワールにこもり気味であまりこういった騒がしい場所にきていなかったため、ちょっとテンションがあがる。
ヴァンに取り次いでもらおうと受付まで向かうが、ギルド内部だというのに武装もしておらず、しかもそれなりに美人の割にあまり街中で知られていないエリスは、冒険者たちから珍しいものを見るような視線を注がれていた。
「よう姉ちゃん、ギルドに依頼か? 今なら俺たちが格安で受けてやってもいいぜ? その代わりちょっと依頼の後にメシでも付き合ってもらうけどな!」
と、ついに酔っ払った冒険者のひとりがエリスの肩に手を回し、下卑た顔で絡んでくる。
「それは嬉しい申し出ですね。でも、初対面の女性の体にいきなり触るのはマナー違反ですよ?」
そういうとエリスは、レースの手袋をはめた手をそっと肩に置かれた男の手の上に重ねニコリと微笑んだ。
「いぎっ!?」
その瞬間、男の体がピンと硬直し地面にばたりと倒れる。
誰も予想していなかった光景に、冒険者は皆唖然としていた。
そんな彼らに向かってエリスは手袋をはずしてそれを掲げながら全力の営業スマイルを浮かべる。
「このように触れるだけで相手を一定時間麻痺させることができる、電気蜘蛛の糸を織り込んだ手袋など便利な魔法道具をいくつも取り揃えております。冒険の際は是非魔道具喫茶ノワールをご利用ください」
それを聞いた冒険者たちは皆一斉に吹き出し、再び騒ぎ始めた。
「やるなー姉ちゃん! 今度俺も買いにいかせてもらうわ」
「あの人って路地裏にひっそりたってる魔道具店の店主だろ? 露店祭の時にみたぜ俺」
「あんな美人に接客してもらえるなら、一回行ってみる価値はあるな」
などなど、次々に飛ばされる賛辞の声にエリスはにんまりと口元をほころばせる。
「アホか、何やってんだお前は」
とそこを後ろからパシリと叩かれた。
「ちょっとヴァンさん、いきなり叩くとは何事ですか!」
「何事ですかじゃねーよ。なんでめちゃくちゃ目立ってるんだよ」
営業ですよ、と真面目な顔でのたまうエリスの後頭部をヴァンはもう一回はたいた。
「おいヴァン!なに美人なねーちゃんひっぱたいてんだよ!」
「ギルド長その人としりあいなんですか?是非紹介してください!」
「姉ちゃんさっきみたくその魔道具で痺れさせちまえ!」
「うるっせーぞお前ら!酒ばっか飲んでねえでさっさと仕事しろ!」
口々に飛ばされる野次を一括しながら、ヴァンはふてくされているエリスをギルド本部の奥へとひきずっていった