表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

第4話「刀鍛冶」

シンラに戻ってきたキラウェルは、ずっと書いている暗号文の日記を執筆していた。

彼女にしかわからないこの文面は、かなりの高技術だと言っても良いくらいだ。


キラウェルは日記を書き終えたのか、ペン立てにペンを戻し、身体を伸ばし始めた。


『あの扉の窪み……何で一つだけ埋まっていたんだろう?』


キラウェルはそう言いながら、顎に手を当てる。



御園で見たあの扉はかなり大きく、全てを見れたわけではないが、キラウェルは窪みの数が気になるようだ。

八つある窪みは、まるで何かを囲うかのようだった。

長年雨風に晒せれてきたせいか、中央部分にあった古代文字が、解読できなかったことも事実だ。


『調べてみる価値はありそうだけど…どうしたらもっと詳細に知ることが出来るんだろう?』


キラウェルはそう言いながら、腕を組んで考え込んでしまった。


しかしずっと考えていても、頭が疲れるだけだと思った彼女は、外に出て新鮮な空気を吸うことにした。




森に囲まれたシンラの空気はとてもおいしく、キラウェルの心と身体を癒していく。

太陽を浴びたキラウェルは、何やら叩く音が響いているのに気づいた。


『?何だろう…?あの家から聴こえてくる』


キラウェルは不思議に思いながら、音がする家に近づいていった。



キラウェルが気になった家には、“鍛冶屋”の看板があった。

見たこともない看板に、キラウェルはぽかんと口を開けたまま立ち尽くす。


すると、その家から一人の職人が出てきた。

職人は男性で、彼はキラウェルに気づくと口を開いた。


『あれ?キラウェルさん、どうしたんですか?』


男性は、明るく声をかけてきた。


『ガンテツさん!』


キラウェルは、笑顔でそう言った。



ガンテツという男性は、シンラの刀鍛冶職人である。

主に剣や刀を専門にしている人物で、知らない者はいないといわれている。


『どうしたんです?俺の職場を眺めて』


微笑みながら、ガンテツは言った。


『聞いたこともない音が聞こえてきたので、気になったんです』


キラウェルはそう言うと、再びガンテツの職場を見つめる。


『気になるんでしたら…見学していきますか?』


『え!?良いんですか!?』


ガンテツの提案に、驚きを隠せないキラウェル。


『俺の弟子たちはみんな、貴女を歓迎してますからね。貴女が見学に来たと知ったら…きっと張り切りますぜ』


ガンテツはそう言いながら、悪戯っぽく笑った。


『では、見学していきます』


キラウェルは、素直に応じた。





ガンテツと一緒に中に入ったキラウェルは、まず仕事場の広さに驚いた。

彼の弟子たちが、懸命に包丁や(はさみ)を鍛えていた。

中には、一から製作に取り掛かっている者までいた。


暫く弟子たちの作業を見ていたキラウェルだったが、ガンテツが奥へと進んでいるのに気付き、慌ててあとを追いかける。


『ここでは、主に切れ味が悪くなった包丁や鋏を扱っているんだが…たまに極秘依頼がくる時があってな…』


ガンテツはそう言うと、棚から木箱を取り出し、それをキラウェルに渡した。


木箱の中には、丁寧に手入れされた剣が入っていた。

その剣は、兵士が扱うようなものだった。


『あ、あの…極秘なのに、私に教えて大丈夫なんですか?』


不安に思ったキラウェルは、ガンテツに尋ねる。


『キラウェルさんだからこそ、話したのです。たがしかし…この剣を見たということは、内密にお願いします』


『はい、わかりました』


ガンテツの言葉に、キラウェルは少しだけ苦笑いしたが、彼の言うことに素直に従った。



そのあとキラウェルは、ガンテツと一緒に中を見て回った。

たくさんのものを見てきたため、目が回りそうな感じにもなっていた。


彼らの職人技にすっかり魅せられたキラウェルは、ガンテツの職場にあった書物を読み始めた。


ふとキラウェルは、書物の中に“クスの街”という街が紹介されているのを見つける。

かなりのページ数であり、なかなか読み終わらない。


『あれ?キラウェルさん、どうしたんですか?』


休憩に入っていた一人の若い男性の職人が、キラウェルに声をかけた。


『あの…“クスの街”という所は、どのような場所なのでしょうか?』


キラウェルはそう言いながら、書物をその男性に見せる。


『ああ…この“クスの街”は別名、刀鍛冶職人の聖地と呼ばれているんですよ。なんでも、大きな戦いが勃発した時に、急速に発展していったんだとか。俺ら何かよりも、格段に腕が良い職人が集まると、師匠から話を聞いたことがあります』


書物を見た男性は、タオルで汗を拭きながらそう言った。


『刀鍛冶職人の聖地…』


キラウェルはそう言うと、再びクスの街の紹介文に視線を戻す。


『なんなら師匠に言いましょうか?クスの街にいる女性の刀鍛冶職人は、師匠の知り合いなので、紹介できますよ?』


『えっ!?女性でもなれるんですか!?』


驚きを隠せないキラウェル。


『なれますよ。ただやはり男性と同じ修行をこなすためか、女性の職人はかなり少ないんです』


苦笑いする男性。


『そうなんですか…』


キラウェルはそう言いながら、再び書物に視線を戻す。


『気になったらでいいですからね。俺はいつでも待ってますから』


男性はそう言うと、休憩室へと向かっていった。



男性が去ったあとも、キラウェルは書物を読み漁っていった。




ガンテツの職場をあとにしたキラウェルは、宿に戻ってきていた。

日記を書き終えた彼女は、今度は魔法に慣れるための修行を開始した。


『1…2…3…4…』


手のひらから炎を出し、カウントしていく。


『15…16……ダメだ!限界!』


キラウェルはそう言うと、魔法の発動を止めた。



最初の頃に比べ、キラウェルは魔法を長く発動できるようになっていた。

だが、目標である30秒がなかなか達成出来ない。


『あともうちょっとなんだけどな…体力上げるために魔物と戦おうかな?』


キラウェルはそう言いながら、体を伸ばし始める。


『最近魔物の討伐依頼とかないからな…あとで集会所行ってみようかな』



実はキラウェルは、集会所に掲示してある討伐依頼を受けていた。

大半が魔物の討伐依頼なのだが、中には子守や仕事の手伝いなども依頼として掲示されている。

キラウェルはこの掲示を見て依頼を受けて、数々の仕事をこなしてきた。


『久々に運動がてら、魔物退治を引き受けようかな!』


キラウェルはそう言いながら、肩を回した。


『あらキラウェル様、何をされているのですか?』


すると偶然、キラウェルの部屋に巫女が訪ねてきた。


『あ…巫女様、いらしてたんですね』


キラウェルはそう言うと、肩回しをやめた。


『ガンテツさんから話は聞きましたよ、なんでも…工房に行かれたそうですね』


巫女は、微笑みながら言った。


『ええ…とても勉強になりました』


キラウェルはそう言うと、本棚から一冊の本を取り出して黙読し始めた。


『それは、刀鍛冶の本ですか?』


巫女は、キラウェルに尋ねた。


『はい…ガンテツさんから借りてきた本なんです。気がすむまで読め、と言っていました』


キラウェルは、そう言いながら本を捲る。


『本当に勉強熱心なんですね』


そんなキラウェルの姿を見て、巫女は優しく笑う。


『そう言えば巫女様、何か用事があったのでは?』


本を読んでいたキラウェルは、そう言いながら顔を上げる。


『わたくしとした事が、いけない!』


巫女はそう言うと、キラウェルに一枚の紙切れを渡した。

それはよく見ると…掲示板に掲載されるものだった。


『あの、これは…?』


キラウェルは、不思議そうに言った。


『先ほど送られてきた依頼書です。依頼内容は面会で、しかも…キラウェル様を指名しているのです』


『え?私を?』


キラウェルは不思議そうに言うと、改めて依頼書を見る。


差出人はリューイという人らしいが、面会とはどういう事なのだろうか。

依頼書を見ているだけではわからない…そう思ったキラウェルは、口を開いた。


『巫女様、このリューイという方をご存知ですか?』


『このシンラの近くに存在する、“隠された村”という村の(おさ)の方です。変わり者ですが、村人からの信頼はとても厚いと聞いております』



キラウェルは、初めて“隠された村”の存在を知ることになった。


『“隠された村”…?それは、そのままの意味なんですか?』


キラウェルは、巫女に尋ねる。


『そのままの意味です。何でも遥か昔、現在のセルネア法皇国から逃げるために、隠居生活を続けているそうで、何百年もセルネアから逃げているそうですよ』



自分と同じ境遇の者たちが、この村に住んでいる…。

そう思うだけで、心が痛むキラウェル。

彼女の心は、彼らの計り知れない傷跡に悲鳴をあげている。


『巫女様、この村の行き方はありますか?』


『地図をお渡ししましょう。ですが鍵は…貴女自身ですよ?』


巫女はそう言って、ふふっと笑った。


『……?』


巫女の言葉が理解出来ず、首を傾げるキラウェルだった。





次の日、巫女から“隠された村”への地図を渡されたキラウェルは、出発の準備をしていた。


『いくら近くにあるとは言え、あの村の者の警戒心は半端ないぞ、気をつけてな』


ルイはそう言うと、キラウェルの肩を優しく叩いた。


『はい!』


キラウェルはそう言うと、準備を終えたのか立ち上がる。


『あの、キラウェル様…』


行こうとしていたキラウェルを、巫女が呼び止めた。


『巫女様?どうかしましたか?』


不思議そうに、キラウェルが言った。


『ひとつ…言い忘れていたことがありまして…』


巫女は一度そこで区切ると、再び口を開いた。


『その、リューイ様はタメ口を嫌います。見た目は子供でも…年齢は確か、500歳を超えた方ですから』


『ご……500歳!?そんな長寿なんですか!?』


巫女の言葉に、キラウェルは驚きを隠せない。


『今ここで詳しい話はできませんが、リューイ様に直接会えば…全て理解出来ますよ。ですから…彼に会ったら必ず敬語で会話をしてくださいね』


念には念を入れるかのように、巫女は言った。


『わ、わかりました』


キラウェルは、驚きと戸惑いで訳がわからなくなっている。


『では行っておいで、リューイ様が待っている』


『はい、行ってきます!』


ルイの言葉に、キラウェルは力強くこたえて、シンラを出発した。



タメ口を嫌う…500歳を超えた人物。

リューイという人物は、一体どの様な人なんだろうか。

巫女とルイの話を聞くだけでは、想像など出来るはずがない。


キラウェルが知っているのは…亡き母レイウェアの享年が、300歳を超えていたという事ぐらいだ。

500歳という未知の数字は、彼女に衝撃をあたえた。


『本当に、どんな人なんだろう…?』


キラウェルはそう言いながら、空を見上げる。


澄み切った青い空がひろがっており、雲ひとつない晴天である。


『考えていては何も始まらない…前に進むだけだ!』


キラウェルはそう言うと、地面を蹴って走り出した。



しかし彼女はこの時、まだ気づいていなかった。

リューイとの出会いが後々、大きな出逢いに繋がることに……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ