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第3話「300年前の事件」

あれからキラウェルは、巫女とルイに手伝ってもらいながらたくさんの文献を読み漁った。

中には、その当時の生活が書かれた手記が見つかったが、女性について書かれてはいなかった。


今もまさに、キラウェルは別の文献を読んでいる。


『“シンラの奥地は禁忌なり。そこは、たとえ住人であろうと決して入ってはならないとされている。そう言えば…保護された女性を、禁忌の地付近で見かけた。何をしているのだろうか?”』


キラウェルは、ある文献の一文を読んだ。


『また出てきた…“保護された女性”の言葉。どの文献にも出てきてる』


本を閉じながら、キラウェルは言った。



今は亡き母・レイウェアが、シンラにいたという事実を突き止めるため、沢山の本を読んでいたキラウェル。

しかし…どの文献も女性の名前を記載していなく、これでは断定出来ない。


『せめて…この女性が書いた日記か何か見つかれば…』


キラウェルはそう言いながら、頭を抱えてしまった。


『キラウェル様、焦らずゆっくりと情報を得ていきましょう?必ず見つかるはずです』


そんなキラウェルを見兼ねてか、巫女が優しく声をかけた。


『それもそうですね…ありがとうございます』


キラウェルは、そう言って微笑んだ。




文献を読み終えたキラウェルは、気分転換にうーんと背伸びした。

かなりの量を読みふけった為か…外は暗くなっていた。


『あれだけ集中していたんだから…仕方がないか』


キラウェルは、そう言いながら苦笑いした。


『キラウェル様…宿屋の女将さんに頼んで、夕食をお持ちしました』


そう言いながら、巫女が夕食を運んできた。


『み…巫女様!私がやるので代わって下さい!』


キラウェルは慌てながら、巫女からお盆を受け取ろうと手をのばす。

しかし巫女は頭を振った。


『いいえ、キラウェル様…わたくしにやらせて下さい。貴女のお役にたちたいのです』


巫女は譲らず、夕食をテーブルの上に置く。


『本当に…巫女様は時々頑固になるんですね』


苦笑いしながら、キラウェルは言った。


そんなキラウェルの言葉を軽く無視した巫女は、手を合わせて夕食を食べ始めた。

キラウェルも食べ始め、最初の頃に比べて箸も使えるようになっていた。


『巫女様、気になることがあるのですが』


『何でしょうか?』


キラウェルの言葉に、巫女は持っていた箸を置いた。

意を決したキラウェルは口を開いた。


『シンラの奥地にあるという禁忌の地のことですが、何故住人の立ち入りも禁止されているんですか?』


キラウェルは、不思議そうに巫女に尋ねた。


彼女の言葉を聞いた巫女は、何故だか一瞬だけ躊躇(ためら)いの表情を見せた。


『先ほど読んだ文献にもありました…住人でさえも立ち入りが禁止されていると』


キラウェルのこの言葉に、更に動揺する巫女。


『お願いします、教えてください』


キラウェルは、駄目元で巫女に尋ねた。


巫女はしばらくの間動揺していたが、決心したかのように口を開いた。


『わたくしも…親族の方々から聞いた話なので詳しいことはわかりませんが、かつて何者かが奥地に忍び込み、侵入者からシンラを守ろうとしたシュリ様が亡くなるという…悲しい出来事があったそうなんです』


『そんな出来事が…』


巫女の言葉に、キラウェルは言葉が続かない。


『シュリ様には双子の息子が居たようで、掟に従って兄はシンラに留まり、弟は東の島国へ養子に出されたと…聞いています』


巫女の話に、驚きが隠せないキラウェル。

更に巫女は話を続ける。


『その様な出来事があったからなのか、奥地には何人(なんぴと)たりとも入れさせるな…という決まりができ、現在に至るわけなのです』


巫女は話終えると、味噌汁を一口飲んだ。


『その禁忌の地には…何があるのですか?』


キラウェルは巫女に尋ねるが、彼女は頭を振った。


『わたくしも…親族に尋ねてみましたが、一切話してくれませんでした。ですからわたくしも…わからないのです』


そう言いながら、眉をひそめる巫女。


『そうでしたか…ありがとうございました』


キラウェルは、巫女にお礼を言った。


『いいえ…わたくしの方こそ、あまりお役に立てず申し訳ありませんでした』


巫女はそう言って苦笑いした。



夕食を食べ終わり、巫女は家に戻るからと宿屋をあとにした。

残されたキラウェルは、これまでに読んだ文献から得た情報を整理していた。


『約300年前の巫女がシュリという女性。彼女には双子の息子がいた……そのシュリという女性は、侵入者からシンラを守るために命を落とした』


ふとキラウェルはある疑問を抱き、宿屋の本棚へと移動した。

手にした本は…双子の順番と書かれている。


『え?300年前の…シュリさんの出来事から何日か後に双子の順番が変わってる……それまでは“先に生まれた方が弟又は妹、後から生まれた方が兄又は姉”とされていたんだ…。今とは反対だったんだ』


本を読みながら、キラウェルは驚いた。


偶然手にした本には、双子の順番の他に…なんとシンラに伝わっていると思われる神話も書かれていた。


『その魔法、心を蝕む力あり…神しかその力を抑えることはできぬ。創造の神は、この魔法の超絶な力を目の当たりにし、代々神の子が生まれてきた場所に、目を覚まさぬよう何重にも封印をかけた。以来神の子には、超絶な力を持つ魔法を封じる力が備えられている…』


本を読み終えたキラウェルは、静かに本を閉じた。


『神の子…確かシンラの巫女様をさす言葉だったよね…。でも由来がわからない』


悩んでいたキラウェルを見兼ねてか、宿屋の女将が口を開いた。


『なんでも大昔…創造の神が、人間に力を分け与えた

そうなの。その人間こそが…シンラをつくった人なのよ』


女将はそう言うと、お茶を淹れてくれたのかキラウェルに差し出した。

キラウェルは軽くお辞儀をすると、お茶を一口飲んだ。


『創造の神様が、自分の有り余る力を分散させるために、人間を厳選した…と伝えられてるの』


宿屋の女将は、そう言いながら椅子に座る。

丁度…キラウェルと向かい合わせになっている。


『あれ?シンラをつくった人は…シュリさんではないんですか?』


キラウェルは女将に尋ねた。


『シュリ様は…そのお方の子孫と聞いています。ですから、シンラをつくった張本人ではありません』


苦笑いしながら言う、宿屋の女将。



だとしたら、シンラの歴史はかなり古いことだろう。

何故なら、文献も古代文字で書かれたものや、昔の言葉で書かれたものまで様々だったからだ。


キラウェルは、シンラの歴史が意外と古いということに驚いていた。

何から何まで気付かされていたのである。


『でも…私が曽祖母に聞いた話だと、このシンラのどこかに“御園(みその)”と呼ばれている場所があるみたいですよ?話だけだから…本当にあるのかまではわからないですけど』


女将はそう言うと、小さな紙切れを渡した。

よく見ると…地図らしきものだった。


『古すぎてごめんなさいね?曽祖母が書いたやつだから、文字とか薄いでしょう?』


『そんなことありません、ありがとうございます』


キラウェルは素直にお礼を言うと、女将から地図を受け取った。


『そこに行けば、何かわかるのではないかしら?御園は、最奥地に近いって言われているので、怒られる可能性はありますが…』


女将はそう言うと、何故だか眉をひそめる。


『怒られる覚悟で行きます。それしかありませんから』

キラウェルは、凛とした表情で言った。




翌朝、宿屋の女将から渡された地図を頼りに、キラウェルは“灼熱の大地”の付近にやって来ていた。

朝だというのに深い霧が立ち籠めており、とても視界が悪い。


『霧が濃い……濃霧(のうむ)ってやつかしら』


キラウェルはそう言いながら、周囲を見渡していく。

しかし辺りが霧で覆われているため、何も見えない。


『“灼熱の大地”の付近のはずなのに…少しだけ奥に進んだら…これだもんね』


キラウェルはそう言って、深い溜息をつく。



“御園”と呼ばれる場所がどんな所なのか…キラウェルは気になっていた。

しかしこの霧が、キラウェルの行く手を阻むかのように立ち籠めている。

加えて視界が悪いために、歩くのにも慎重になっていた。


『あれ…?鳥居?』


しばらく進んだ所で、赤い色の大きな鳥居の前まで来ていた。


『大きいな…霧のせいでよく見えないけど』


霧の影響で、実際は半分しか見えていないのだが、それでもキラウェルは、鳥居が大きいことは判断した。


『ん…?鳥居の前に何かある』


ふとキラウェルは、鳥居の前にある小さな光に気づいた。

近づいてみると、その光はその場で浮遊している。


何だろうと思ったキラウェルは、その光に触れてみる。

すると……


『!?』


キラウェルが光に触れた途端、眩さに目がくらむ。

暫くの間瞼を閉じていたキラウェルだが、人の声に気づいてゆっくり瞼を開けていく。


ーお母さん!しっかりして!お母さん!!ー


一人の男の子が、横たわる女性に(すが)っている。


ーうっ……ー


よく見ると、一人の女性が苦しそうに(うめ)き声を上げている。



ふとキラウェルは、自分の体が透けている事に気付いた。この状態では今目の前にいる人たちには、当然見えないことだろう。

キラウェルが不思議がっていると、女性がふらつきながら立ち上がる。


ーいけませんシュリ様!安静にしていてください!ー


側にいた女性が、堪らず支えに入る。


ー何事じゃ!!ー


その時、キラウェルの後ろから老人の怒鳴り声が聞こえてきた。

老人は人集(ひとだか)りに近寄っていくと、今にも死にそうなシュリの前でかがむ。


ーシュリ、何があったんじゃ?話すのじゃ!ー


老人は焦っているのか、若干興奮している。


ーきっ……北の奴らが…この地に無断で、侵入し……扉が開きそうに……ー


苦しいはずなのに、必死に状況を説明するシュリ。


ーおじいちゃん!お母さんを助けてよ!ー


もう一人の男の子が、老人に助けを求める。

よく見るとこの男の子たちは顔が瓜二つである。

キラウェルはその瞬間に、双子の兄弟だと判断した。


ーなんと!?お堂の扉が…開きそうに!?ー


老人は驚いて、目の前にあるお堂を見つめる。

既に閉まった後なのか、扉は固く閉ざされている。


ーそれが……シュリ様は、自分の命を五つに分け…扉の鍵としたのです…ー


シュリを支えていた女性は、辛そうな表情でそう言った。


ーシュリ!一体何故そのような事をしたのだ!?ー


老人は感情が高ぶったのか、シュリを激しく揺さぶる。


ーお父……さん、ごめん…なさい。シンラを守るには……これしか、方法がなかったのー


呼吸が乱れながらでも、懸命に話すシュリ。


ーお前が死んだら…誰がシンラを守るというのだ!!ー


そう言う老人の目には、涙が浮かんでいる。


ー巫女は……私だけではない。やがて……新たな、巫女が生まれます。巫女は絶対です……尽きることは、ありま…せんー


そう言うシュリの声が、だんだんと弱ってきている。


ーシュリ!しっかりするのだ!!ー


老人は、堪らず叫ぶ。


ーお父さん……リクとソラを……頼み…ました、よ……ー


シュリは最期にそう言うと、崩れるように倒れてしまった。


ーシュリ!!!ー


老人が叫ぶと同時に、キラウェルの体が光り輝いた。

突然のことに驚いていた彼女だったが、自分が元の世界に戻ることを理解した。



光がなくなった時、キラウェルは元の鳥居の前に立っていた。

浮遊していたあの光は既に無く、ただ霧が漂っているだけになっている。


『あれが……シュリさんが亡くなった時の、光景だったんだ』


鳥居を見つめつつ、そう呟くキラウェル。



そして彼女は、何かに誘われるように奥へと進んでいく。

どれくらい歩いただろうか…暫くして、大きな扉が見えてきた。


「これは…?」


キラウェルは不思議に思い、扉に近づく。


彼女の前に現れた扉には、9つの(くぼ)みがあった。

4つはまるで、周囲を封印するかのように配置されているのだが、残りの5つは違っていた。

その4つの窪みを囲うようになっていたのだ。


更に、9つある内の1つの窪みが既に埋められており、事実上の8つの窪みとなっていた。


『この窪み……何か意味があるのかしら?』


キラウェルがそう言って、扉に触れようとした時だった。


『そこで何をしている!?』


キラウェルの後ろから、誰かの怒鳴り声が聞こえてきた。



驚いたキラウェルは肩を弾ませ、恐る恐る後ろを向く。

そこに居たのは、ランプを片手に見回りをしていたであろう、一人の男性が立っていた。


『おや…誰かと思いましたら、キラウェルさんでありませんか!』


男性はキラウェルを見るや、口調を変えた。


『こんな所で何しているのですか?』


『あ、あの…道に、迷いまして……』


本当は違うのだが、男性の質問にそうこたえるキラウェル。


『ここは禁忌の地に近い場所でして、ここへの立ち入りも禁じられているのです。自分と一緒に帰りましょう』


男性はそう言いながら、キラウェルに手招きする。


ここで考えていても仕方がない…。

そう思ったキラウェルは、男性の言うことに素直に従った。


『シンラへの道はこちらです。行きましょう』


キラウェルは、男性と一緒にその場を後にした。



この時まだキラウェルは、気付きもしなかった。

自分が調べている者のヒントが…この場所に隠されていることに……。

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