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プラネット思案

作者: Shieri

休み時間、友達の山内が俺を呼んだ。          


「なぁ、吉川。ちょっと来いよ」         

「なんだよ、」                 


教室で、椅子に座ってボンヤリしていた俺は突然、山内に腕を掴まれた。         

ぐい、とそのまま有無を云わさず廊下に出てスタスタと足早に進んでいく。              

その途中、俺が何度もつまづきそうになっても山内はお構いなしに階段を昇っていく。


着いた先は屋上。


俺は一人、はぁ?と呟いた。山内はチラリと俺のほうをみて言った。

「何飲みたい?」

「へ?」

「飲みモン買ってきてやるっつってんの」


山内はいつも言葉が少ない、と俺はいつも思うのだったが2年間も毎日のように一緒に過ごしてしまうと、それは大した事じゃなくなってしまう。


慣れって恐ェ。



俺は適当になんでもいいよと応えると、山内は「そう?」と言って屋上から姿を消していった。


ポツン。


え、なにこれ。俺、ひとりぼっち?

じゃなくて、なんなんだよ山内の奴。人を勝手に連れてきた挙句に放置かよ。


――つーかよォ、


「あっっちィんだよ!!」


さっきから額を滝のように(言い過ぎではない)流れ落ちる物体をどうにかしてほしい。

いやそれよりも、遠慮なく俺を照り付けているあの太陽サマをどっかにやってくれ。


盛大に叫んだものの、誰も答えることはない事実に俺はうなだれて肩を落とした。



5分後、ようやく山内が帰ってきた。


両手には2本の缶を抱えている。


「ただいま」


山内がニッコリと笑って言った。爽やかな笑顔に少ォしだけ癒される。(きっと、夏の暑さの所為だ)


「おっせぇんだよ…って、ゲェ!」


俺は山内の抱える缶を改めて見ると、奇妙な声を出してしまった。そして体をブルブルと震わせながら山内に訊いた。


「山内、それ…何買ってきたんだよ」

きょとん、として山内は答えた。

「何って、ココア」

「アホか!お前、俺が甘いの嫌いだって知ってんだろ!」

暑い所為もあって、俺は怒りを露わにして叫んだ。語尾が掠れてしまったのは喉が渇いているからだ。

いや、すべては山内の所為だ!

沸々と湧き上がる激昂を何とか抑えようと、俺は深呼吸をスウハァ、と繰り返した。

けれどそれは山内の一言によって意味もなさなくなる。


「知ってたけど…吉川なんでもいいっつったじゃん?」


……。

ゴゴゴゴゴゴゴッ。


ああ、確かに俺は言った、この口で言いましたよ!?けどそこは気遣いってゆーか、俺は甘いの嫌いだからせめてお茶にするとか無糖コーヒーにするとかあるじゃんっ。


頭の中を次から次へと流れる言葉をなんとか飲み込んで(エライ)、俺は震える声で言った。

「…もういいや、ソレお前が飲めよ。――で?こんな所に呼び出してなんな訳?」

イラついた口調になってしまったが、そこは俺の気持ちを酌みとってほしい。


山内は俺の言葉を訊くと、フェンスの前まで歩いて缶を開けた。俺を横切るときに、山内の首筋に汗が筋を作っているのを見つけた。

ゴクリとココアを一飲みすると山内は形のいい唇を開いた。「――100年後、」


「あ?」

ひとり言のような呟きに、俺は視線をやった。歩み寄り、山内との距離を縮めてみる。

その距離約1メートル。


山内はフェンス越しに映る街並みを見下ろして振り返らないでいる。

「勿論そのとき、おれたちは死んでると思う」


…ポカン。

突然なにを言い出すんだ。

「はぁ、」

まぁコイツの不思議キャラは知っているので、曖昧に返事をしてみた。

山内は続けて話した。

「この地球がどうなったか、不意に考えるとすごく果てしないよな、」


どんな話題だよ…。それ、今話すことか?

俺はツッコミたい気持ちに駆られたが、山内の妙に真面目な後ろ姿を眺めて止めることにした。


ウーノのワックスで無造作にセットした髪をワシャワシャと掻きながら俺は言った。

「んー…、よっくわかんねェな俺。そんな未来のことなんて」

とぼけるように言ったが、コレ俺の本音。


「そう言うと思った」

山内が鼻笑い混じりに言った。

なんだよ、馬鹿にしてんのか!?まぁぶっちゃけ、俺は頭悪いですよ、マジで。

そんな俺が秀才君のお前と、なァんで?仲が良いのか訊かれるくらい阿呆でございますよ。


俺は意味もなく対抗(何に?)心を燃やして話した。

「――でも、地球には長生きしてほしいけどな。俺らの孫が住めるように、」

すると、山内が振り返り俺を見つめた。

相変わらず綺麗な顔してんなァと山内の横顔を見て、俺は思った。

山内が口の端を上げて言った。


「単純」


……前言撤回。上等だ、この野郎。


山内はクラスの連中やお堅い教師にはイイ顔するくせに、俺に対すると全く違うのだ。豹変、みたいな。


今の聞いたでしょ?毒舌ぶり。

今の見たでしょ?あの意地悪そォな笑顔!


コイツは不思議アンド優等生キャラを装った小悪魔ですよ。

嗚呼、写メでも撮りゃあよかったと後悔先に立たず。


背中に黒い渦を巻きながら俺が黙っていると、山内が呟いた。


「でも、好きだよ。そーゆうのも」

それを訊いた俺は素早く顔を上げた。


……褒められられたの?今。


俺は、涼しい表情でココアを飲んでいる山内をしばらく眺めた。喉仏が浮き出ている細い首がほんのりと赤くなっている。日差しのせいか。


そういえば、俺は今まで一度も山内にホメられたことなどない。別にどうでもいいけど。


それでも口元が緩んでしまうのは見逃してくれ。

「…何笑ってんだよ、キモい」

山内の冷たい視線にも今はめげることはない俺。

見上げる空は青いし。たまに吹く風が心地よかったりするし。うん、悪くねェな。


キーンコーンカーン、と鐘が鳴った。


「予鈴だ、帰るぞ」

いつの間にか2缶を飲み干していた山内が言った。くるりと踵を返し、早足に出口へ向かうそれを訊いた俺は素早く顔を上げた。


……褒められられたの?今。


俺は、涼しい表情でココアを飲んでいる山内をしばらく眺めた。喉仏が浮き出ている細い首がほんのりと赤くなっている。日差しのせいか。


そういえば、俺は今まで一度も山内にホメられたことなどない。別にどうでもいいけど。


それでも口元が緩んでしまうのは見逃してくれ。

「…何笑ってんだよ、キモい」

山内の冷たい視線にも今はめげることはない俺。

見上げる空は青いし。たまに吹く風が心地よかったりするし。うん、悪くねェな。


キーンコーンカーン、と鐘が鳴った。


「予鈴だ、帰るぞ」

いつの間にか2缶を飲み干していた山内が言った。くるりと踵を返し、早足に出口へ向かう。


俺は座り込んだまま、面倒くさそうに口を開いた。

「えぇ?マジで…たるいな、サボろうぜ」


屋上は暑いが、クーラーの冷風がない外の空気も捨てたもんじゃない。

そう言おうと俺が再び口を開きかけた瞬間、山内はチラリと視線を向けてこう言った。


「俺がサボるわけないだろ」


言い終えると、アイツは階段を降りていった。


――ポツン(パート2)。

やーまーうーちー!!

ホンット、いい性格してるわァお前。そもそも100年後の地球がどうなったか、とかなんて話は教室でもできるだろうが!わざわざ屋上まで来た意味がわからねェよ、と俺は愚痴をこぼした。



それでも俺は、去ってく山内を追いかけてしまうのだからホンットどうしようもない。



俺も、たぶんお前も。






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