100メガショックの出会い
お、帰って来た! さっきはどうしたの?見えない敵でも襲って来たか?」
「えっと……」
それにしても明るい先輩だ。
何かノリが軽くて、ちょっと前のお兄ちゃんみたいな感じがする。
お兄ちゃんを思い出して、また言葉に詰まる。
「ほら、楓ちゃん。もー、昨日は楓ちゃんがお世話になったそうで」
「ん? あー、そうそう。でも、いいよ。ああいうの見てるとムカついて来るのよ。女だと思ってバカにして。えっと、楓ちゃんって言うの?今日は随分と印象違うね、昨日は男の子みたいな格好だったのに」
はわわわわわわ。
バレてるー!
ゲームセンターには軽く変装して行くようにしてたのに、もっと厳重にこれからしなくては。
でも、良かった。
何だか上手く話がかみ合ってるから、これでお礼を言って離脱すれば……。
「にしても楓ちゃん格ゲー強いね、苦手なゲームとはいえああもボコボコにされるとは思わなかったよ」
「え?」
言われちゃった!
「楓ちゃんってゲームするの?」
「ちょ……ちょ……ちょっと……だけ……」
「謙遜してー、そういうのはし過ぎるのも駄目だよ。あのコンボ精度はだいぶやり込んでるよ」
うわー!
うわーー!
うわーーー!
何なのこの人、私の表情を読んでよ!
空気を読んでよ!
「そうなの?」
楓ちゃんも楓ちゃんで勘弁してよ。
「そ……そ……そうでもないよ」
「かっこいい! 私、格闘ゲームって操作が複雑でよくわからないよ」
「良かったらちょっとやってかない?」
「え……いや……いいです……」
「えー、楓ちゃんがやってるの見たい!」
な、な、な、何その期待。
やめてよ響ちゃん、その気になっちゃうじゃない。
「狭くて悪いけどね、どうぞどうぞ!」
先輩が椅子を引いてくれる。
正直言って対面台じゃないから狭い。
肩と肩が触れあう距離で、腕の動きを考えていないような台の広さ。
でも、悪くない。
でも、嫌いじゃない。
私が昔、友達とやっていた距離。
「タツか! 昨日もそうだけどスタンダードキャラが好きなの?」
「はい」
簡潔に答える。
先輩のキャラはファイヤー・ホーク、大柄でその体を生かしたリーチと接近してからの投げが強みのキャラ。
「えっと……楓ちゃんが空手着のキャラで先輩がインディアンみたいなキャラですか?」
「そうだよー」
先輩が答える。
そしてラウンド開始。
私がジャンプで距離を置き、先輩がステップで詰める。
もう一歩踏み込めば先輩の大キックが届く間合い。
それは困るから飛び道具で牽制すると、先輩が垂直にジャンプして避ける。
安易に私の方には飛び込まない。
私の対空の迎撃を警戒している、画面端までは距離があるからもう一度後ろにジャンプして距離をおく。
先輩は詰めない、それなら嫌がるように飛び道具を撒く。
数発ガード、垂直ジャンプで避ける。
私の単純な連打。
あえて同じリズム。
この距離ではまずいと先輩は飛び道具に反応して前ジャンプ。
そのタイミングに合わせて私は前にステップ、空中にいる先輩を対空技で落とす。
「マジか!?」
動きを読み切った私に先輩は驚きの声をあげた。
「つえーなー君!」
結果は私のストレート勝ち、たまにいい間合いに入られて牽制を何発かもらったけど、それでもだいたい封殺できた。
「よくわからないけど凄いね楓ちゃん。私、楓ちゃんが格闘ゲームするって知らなかったよ」
そうだろうね、言わなかったもんね。
でも、良かった。
引かれなかった。
久しぶりに勝って誉められた。
「え、ちょっと赤西さん! マジっすか!新入部員ッスか!」
「お、やってるわねぇ~」
と、決着を見計らったように声がする。
「あ……いや……」
「そういえば自己紹介がまだだったね。私は赤西琥珀、赤西さんとか、琥珀さんとか、タイガーさんとか呼ばれてる」
「うふふ~、猿渡霧子です」
「部長の青山勇美です、いや~、これで五人揃いましたね~。廃部は免れた」
ん?
「廃部って?」
気になった事を楓ちゃんが聞いてくれた。
「うちの学校は五人いないと部として認められないんですよ、先輩が卒業しちゃったからどうしたもんかなーって」
勇美先輩が喜びながらそう言う。
どうしよう、なんか重い話だ。
この流れは断り難い流れだ。
「あ、私達文芸部に入るんで」
そんな中、楓ちゃんが空気をぶち壊してくれた。
先輩達の笑顔を氷つかせてくれた。
その様子に憧れるような……。
いや、やっぱり憧れない。
どうすんのよ、この空気。