私より強い人に会いに行く。
趣味は読書に映画鑑賞です。
別に嘘をついているわけじゃないです、私は読書も趣味です。主に漫画ですけど。
映画だって見ますよ、主にアニメのですけど。
それがバレないように、普通の本も読みますし普通の映画も見ます。
普通がいいんです。
普通でいいんです。
普通じゃなきゃ駄目なんです。
私の本当の趣味は普通の女の子とはちょっと違うので。
バン!
と、向かい側からいい音が聞こえました。
怖いです!
店員さん早く退店を促してください。
八十年代じゃあるまいし、ここは不良の溜まり場じゃないんですよ。
春だからって、春休みだからって、はしゃぎすぎないで欲し……、あばばばばばば。
「おめー、ふざけんなよ!」
ふざけんなよはこっちです、言いませんけど。
だって私は特に変わった事はしてません。
飛び道具を撃って、ジャンプで飛び込んできたところを対空技で落としているだけです。
スト2から代々続く戦法に、ご丁寧にずーっと引っかかってただけじゃないですか。
「あの、その、えっと」
「ああっ!?」
わー、めっちゃ怖いー!
「うっさいな、ビビらせてんなよ。私が乱入できないだろ」
やったー、天の助けです。
って、うわっ。
「なんだよ!?って……」
「私のツレが店員呼びに行ってるよ、出入り禁止はイヤだろう。それに女にやられるのも嫌だろう?」
かっこいい!
けど怖いです、金髪です。
金髪をポニーテールみたいに後ろでまとめてるけど、長さが足りないからパイナップルの頭の部分みたいになってる。
それに赤い眼鏡と、なんだか目立ちまくりです。
地味を身上とする私じゃ真似できないセンスです。
一睨みでマナーの悪い奴を追い払いました!
何者でしょう、この女性は!憧れちゃいます!
「あ、あ、ありが……」
「別にいいって、じゃ入るよ!手加減はいらないから!」
そして対戦!
この人、強いな。
でも、私ほどじゃないかな。
「あー、負けたー!やっぱ肌に合わないなこれは……」
言って颯爽と去っていく女の人。
箱丸中央高校の制服。
私の先輩になる人です。
箱丸中央高校女子格闘ゲーム部
「楓ちゃんはまた文芸部に入るの?」
「うん、そのつもり。響ちゃんは?」
「私も楓ちゃんと同じ文芸部に入るよ」
「そう、また一緒だね」
今日は箱丸中央高校の入学式。
私達、新一年生は緊張の一瞬です。
特に私は人見知りが激しいので中学校から一緒の響ちゃんと同じクラスで良かったとホッと胸をなで下ろしました。
最近は五十音順ではなく、誕生日順に出席番号が決まる場合もあるらしいですが箱丸中央高校は伝統を守って五十音順のようです。
さらに私、朝比奈楓に続く『い』『う』『え』の子がいなかったので私の後ろの席、この場では隣の席が音坂響ちゃんなのはとても心強いです。
入学式を終えて、今は先輩方の部活紹介が始まりまったところです。
確かこの箱丸中央高校は文武両道。進学校ながらスポーツにも力を入れ、特に柔道部が強いのが有名、海沿いなのを生かしたカヌー部も強豪だと学校案内のパンフレットに書いてあって……。
「女子格闘ゲーム部です、主な活動は格闘ゲームをする事です」
何とおっしゃいましたか?
「男子格闘ゲーム部は残念ながら一昨年に廃部になってしまいましたが、女子格闘ゲーム部はまだ残っています。っていうか潰れそうです……。お願いだから誰か入部してください」
めちゃくちゃ悲壮感溢れる部活紹介でした……。
なんだか聞いててこっちの方が切なくなってきます。
「格闘ゲーム部って女子もあるんだね、驚きだね」
「う、うん」
実はそんなに私は驚いていません。
夏の終わりに開催される格闘ゲームの全国大会である劇闘祭、格闘ゲームが電子スポーツとして認可されてから学校の部活でも格闘ゲーム部が発足したのは知ってました。
知ってるだけです。
興味はありません。
気になりなんてしません。
「はーい、入学式お疲れさん。それと入学おめでとう、これから一年、皆の担任を勤める花沢茜です。担当教科は科学、女子格ゲー部の顧問をやってます。よろしくー」
これは酷い……。
何か狙ったように担任が格ゲー部の顧問でした。
いえ、気になりません。
大丈夫、私は意志の強い子です。
「うちの学校は名前だけでも部活に入ってないといけないから決めておくように。幽霊部員になってもいいけど、どうせなら何かやった方がいいよ。できるなら何か打ち込めるものが、バイトでもいいけどね」
入学式が終わって簡単なオリエンテーションがあった後、午後には下校になります。
桜舞散る校庭で、いろいろな部活の衣装に身を包んだ先輩達の勧誘が始まっています。
噂の柔道部、それに野球部やサッカー部といったメジャーどころ。
おっと、あれは長刀部です。
さすが文武両道ですね、実演しながらの勧誘実に勇ましいです。
「かっこいいね楓ちゃん」
「そうだね、でも私はああいうスポーツはちょっとね」
「私も、スポーツできればかっこいいんだけどね」
そんな長刀部の活動に見とれていると、私の視界の隅が異様な物をとらえました。
ミディ筐体。
学校にあってはならない物です、稼働しているのはストゼロ3。
微妙に古い。
と、そのきょうたいの隣に立っていた人が走ってこっちに来ました。
全速力です、迷いもしない、というかどう考えても私に向かって。
っていうか。
「やっぱり昨日の子じゃん!」
昨日の人でした。
昨日の先輩さんでした。
あの個性的すぎる髪型は見間違えるわけもありません。
「あの……あの……」
「いやー、君もこの学校だったんだ。新入生だよね、格闘ゲーム部を見ていかない?」
「楓ちゃん知り合いなの?」
「知り合いってほどじゃないけど昨日ね。あ、君も格ゲーやるのよかったら一緒に……」
「やめてください!」
あわ……。
あわわわ……。
大きな声を出しちゃった! どうしよう! どうしよう!
「あの……その……失礼します!」
「ちょっと、楓ちゃん。すいません失礼します」
私はその場から走るように逃げ出してしまった。
『おー? 』っていう先輩の声が聞こえる。
「ちょっとどうしちゃったの楓ちゃん」
「えっと……あの先輩……そう、昨日あの人が前を歩いてたら財布を落としてね」
「それでどうして逃げるのよ?」
全くもってその通りだよね。
うーん、こういう言い訳ってとっさに出ないなぁ。
「その……時に……お前が盗ったんだろって言いがかりをつけられて……」
あわわわわ! 自分で言ってて酷い事になってきた! 取り返しがつかない事になってきた!
「そのわりには妙にフレンドリーだったじゃない?」
うわー、響ちゃんガンガン来るなぁー。
もうそっとして欲しいなぁ。
「えっと……落としたのはあの先輩じゃなくて……言いがかりをつけて来たのは別の人で……あの先輩がかばってくれて」
「そうなんだ、お礼はしたの?」
『別にいいって』
「言ってない……」
「じゃあ、ちゃんとお礼を言わないとね!」
そう響ちゃんに手を引かれて、私は走って来た道を戻る。
逃げてきた道を戻る。
格闘ゲームのある場所へと戻る。
理由はわからないけど、ちょっとだけ強くなれるような気がした。
何か良い予感がした。