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第27話【何者!?・謎の女性警官】

女子高校生の朝寅菜々は、数字と会話が出来る能力を持っていた。


【キャラと数字紹介】

渋谷大河・菜々の幼馴染。陸上部の有力部員。特性がある。

美海先輩・陸上部の先輩。凄い巨乳。

35・菜々のお気に入りラグランTシャツの胸のプリント。世代的感覚が菜々と近い。

12・祖父から貰った腕時計の文字盤。執事風キャラで好奇心旺盛。菜々とは子供の頃からの付き合い。

1955・スタジアムジャンパー。菜々の心強い味方だが行動と発言が少々過激。


●毎日夜に上げられるように頑張ります。

 ほんの数秒、何か考えていた警官は

「いつも、落し物を届けてくれて、ありがとね」

 と菜々に向けて、ゆっくりとした口調で言ったのだ。


 妙な、唐突感のある言葉で、会話としての脈絡が無い。


「ああ……そうか」

 縛られて下を向いていたサングラスの女が、視線を菜々に向け唸る。

「金だね。嬢ちゃん、金を拾いまくってるんだね……あんたやっぱり、何かあるね」


 それを聞いた女性警官が、しまった、という表情を見せた。

「ああ、個人情報を、部外者に聞かせちゃったね。ごめんねえ」

 と菜々に平謝りする。


 ただ、この落し物の話題は、警官が意図的に出したものだった。

 しまった、という表情も作り物である。


 警官の目的は、菜々へ感謝を伝えるためではなく、サングラスの女への誘導だった。

 まんまとそれに乗ってしまった女は、自身の考えを暴露してしまう。

 客観的な情報が取れた事に満足した警官は、後ろに控えていた男性警官数人に女を引き渡す。


 女の姿が見えなくなったのを確認して、警官が笑顔を菜々に向ける。

「あと一つ聞きたいんだけどおー」

「……は、はい!?」

「他に、犯人の仲間はいた!?」


 それに答えるのを菜々は、ためらう。

 車に乗らなかったスーツの男とは、金庫事故の現場で面識がある……。


「菜々先輩!! 嘘は出来るだけ少ない方がいいっス!! 正直に言った方がいいっス!!」

 C7がアドバイスを入れる。

 その通りだな、と菜々は思った。


「……はい、男があと一人」

 返答をためらった不自然な間を「恐怖で思考が混乱している」と見えるように菜々は演技した。

 ただ直前まで、大河と呑気に署内バトルを観戦してしまっていた。

 やっつけの演技が、この警官に通用するとは思えない……。



 菜々は、疑心暗鬼になっていた。

 女性警官は『能力』の存在に、気付いているのではないかと。

 常に薄っすら微笑んでいる警官は、無表情以上に感情が読めない。


「ほらあ、お金、拾い過ぎだから、怪しまれちゃったじゃーん!!」

 ここに35がいたなら、呆れてそう言っていたに違いない。



「そろそろビブスが乾く頃だよ。菜々ちゃん戻ろうよ」

 大人の会話に飽きたような大河が急かす。


 話題を逸らす、という意味で絶妙なタイミングだった。

(あたしのピンチを察した大河の助け舟!?)

 という菜々の解釈は、かいかぶりだろうか。


「そうよね。早く戻りたいよね」

 女性警官は人差し指を顎にトントンと当てながら、視線を斜めにして言う。

「んー、仲良しのお二人は部活中だったのかな……後で連絡するかもだけど、いいよ戻って。怪我も無いし。後は僕が何とかするからさ」


「えっ!? このまま帰っていいんですか!?」

 菜々は声を上げて驚いた。


 未成年が誘拐され、ボックス車が警察署に激突、という大事件である。

 その被害者が即帰宅可能とは……。

 いくら社会経験が少ない高校生であっても、それが異常な事だと理解出来た。


「取り調べとか、無しで!?」

「だいじょぶ、大丈夫だから」

「……」


 警官の意図は全く読めない。

 しかし菜々は能力バレ回避のため、一秒でも早くこの場から去りたかった。


「失礼します!!」

 とお辞儀をして、大河を手招きしてその場を去ろうとした。

 女性警官は笑顔で手を振りつつ「あっ」と何かを思い出し、菜々に近づいて耳打ちする。


「これ、内緒にしといた方がいいかな!?」


 菜々は、この、主語が不分明の申し出を能力に関連した事柄だと理解する。

 黙って貰えるなら、幸いなのである。


「お願いします」

 菜々は即答する。

「OK」

 警官は親指と人差し指で丸を作った。


「そう言えば、さっきのバトル、どうなったかな!?」

 早く戻ろうと言い出した大河が、あっさり前言をひるがえし、野良のリングと化した駐車場端に駆け寄る。


 門番と大柄な女のバトルは、続いていた。

 双方、呼吸は激しく、あちこち傷つき出血し、疲れ切っていて、でも何とか立っている状態であった。

 観衆はそれを能天気に煽る。


 しかし、遠くから複数のパトカーのサイレンが聞こえて来ると、能天気な観衆が一斉に振り返り、慌て出す。

 ボロボロの門番も何故か「しまった」という表情をした。


「あー、ヨソの署とか来ちゃうと面倒だから、仲良しのお二人は早く帰ってね」

 落し物係の警官は「お帰りはあちら」と言わんばかりに、手のひらを上に向けて出入口にかざした。

 バトルが名残惜しそうな大河に「こっち」と手招きする菜々。


 いつの間にか署の出入り口には野次馬が人垣を作っていて、二人はそれを掻き分ける。

 途中、菜々が振り返ると、大柄の女が観衆の警察官達に持ち上げられ、署の中に連れられているのが見えた。


(最初からあれで捕まえれば良かったのでは……変な警察署……)


 頭を捻りながら、人垣から抜け出た菜々は、大河と並んで国道を走り出した。


「菜々ちゃんと一緒に走るの、久し振りだなあ」

 大河は嬉しそうに、菜々の顔を何度も確認した。



 コインランドリーに戻ると、丁度ビブスが仕上がった電子音楽が聞こえた。

 緑のライトが点滅している。

 ホカホカに脱臭されたビブスをカゴに投入し、来た時と同じように二人はカゴを挟んで持って、学校まで歩いて戻った。


 日没寸前の太陽光を横から浴びた美海先輩が、腕組みで出迎えた。

「寄り道もせずに時間通りね」

(寄り道……)

 菜々は心の中で苦笑いをした。


「さっきからパトカーのサイレンが聞こえるけど、何かあったのかしらね」

 美海が西日の方向を眩しそうに呟く。

 ビブスが仕上がるまでの、僅かな時間内での出来事を、美海に説明し切れる気がしなかった菜々は

「……何……でしょうね」

 とだけ言ってとぼけた。



 ボックス車の警察署激突事件は、夜のトップニュースだった。

 ヘリコプターからの空撮が生放送され、キャスターは「乗車していた三人を逮捕」と繰り返していたが、菜々が誘拐されたくだりはニュースで語られなかった。


 自宅の茶の間でニュースを見ていた菜々は、驚く。

「……えっ、内緒って、こっちの事!? 報道ってこんなに簡単に操作出来るの!?』

「あの落し物係のお巡りさん、只者じゃないっスねえ」

 洗濯でさっはりと仕上がったC7が、ハンガーにかけられたまま唸った。

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