公爵令嬢が起こしたある事件について
「……今、なんと言った?」
「ですから、ローザンド公爵一家が殺害されたんです」
ヒューズ・ランバルドは耳を疑った。
ローザンド公爵家と言えば婚約者であるレイアール・ローザンドの実家である。
婚約者の実家で起きた出来事にヒューズは信じられなかったが更に信じられないのはその公爵家を襲った犯人だ。
「は、犯人は捕らえたのか?」
「えぇ……、ですがその犯人と言うのが……、レイアール嬢なんです」
「……は?」
ヒューズの思考は一瞬止まった。
公爵令嬢として完璧でありこの国の貴族令嬢の憧れと言われているレイアールが家族を皆殺しにした?
「嘘だろ……」
「ですが騎士団がやって来た時は彼女は現場となった食堂に斧を持って佇んでいて騎士団の問いに『私がやりました』と言ったそうです……」
「そんな……、彼女が……」
「更にメイドの証言によると食事中にいきなり立ち上がり隣に座っていた妹君の目をフォークで刺し更に髪の毛を掴み何度も頭をテーブルにぶつけ、壁にかかっていた斧を手に取り今度は夫人の頭を頭上に何度も振り下げ、逃げようとした公爵の背中に斧を投げて馬乗りにして更に公爵を……」
「わ、わかった……、もういい……」
部下からの報告にヒューズは顔色を悪くしながら止めた。
「それで……、レイアール嬢は今何処に?」
「地下牢におります。 親殺しは重罪ですからね」
「そうか……、会いに行く事は可能か?」
「はい、国王様からも許可を得ております」
ヒューズはレイアールがいる地下牢へと向かった。
城の地下にある地下牢は主に重犯罪者が収容される所である。
そんな所に自分の婚約者がいる、なんてヒューズは信じたくなかった。
しかし、部下や警備兵の案内で向かったその牢屋にレイアールはいた。
ベッドに座るその姿はやはり美しかった。
「レイアール」
ヒューズが声をかけるとレイアールはゆっくりと振り向き微笑んだ。
「これはヒューズ様、この様な場所でお会いする事になるとは」
「……君が家族を殺したのは事実か?」
「はい、事実でございます。 この手で私は妹と父と母を殺しました」
聞きたくなかった、否定してほしかった、しかしレイアールは認めた。
「……何故、こんな事をしたんだ? 家族仲は悪くない、と聞いていたが」
「えぇ、両親は尊敬してますし妹も可愛いですわ。 ですが、ただ我慢出来ない事があるんです」
「我慢出来ない事?」
「はい、『咀嚼音』です」
「咀嚼音、て……食事をする時の?」
「えぇ、そうです。 私は幼い頃から将来の王太子妃としてマナーを厳しく教えられてきました。 勿論、食事中には大きな音を立ててはいけない、と教えられてました。 しかし妹は咀嚼音が大きいのです。 私は何度も注意をしましたが治りません。 両親は注意もしません。 私がやったら厳しく注意されるのにです。 ずっと我慢してきましたが遂に限界我慢きてしまったのです。 気がついた時には私は……」
レイアールは自分の手をじっと見ながら涙目になっていた。
「私は……家族が好きでした。 この家に生まれて幸せでした。 その幸せを私は自分の手で壊してしまった……、ヒューズ様と一緒に国を護っていく未来も私は台無しにしてしまった……」
「レイアール……、私も君と結婚出来る日をずっと楽しみにしていたよ」
「申し訳……ありません……」
数日後、裁判の結果、レイアール・ローザンドは終身刑を言い渡され特別収容所に送られた。
ヒューズとの婚約も解消となったが、ヒューズは暫くは婚約者は置かない、と宣言し国王も了承となった。
ヒューズは思う、いつからレイアールは壊れてしまったのか。
厳しい王妃教育の最中でだんだんと精神が壊れてしまったのか、完璧な令嬢にならなければならない、自分で自分を追い込んでしまったのか。
自分が見ていたレイアール・ローザンドは本当の姿だったのか。
ただ、例え完璧でなくてもヒューズはレイアールを愛する事が出来る、と思っている。
それは、初めて会った日からヒューズはレイアールが好きだったから。




