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魔王様の世界征服記録

魔王様、日本を氷漬けにしようとしたら精霊がマスコット化した件

作者: 櫻井萌咲
掲載日:2026/05/05

 魔王は苛立っていた。

 こちらの世界でも異世界でも、世界征服が、連続で失敗している。


「魔王様。異世界――日本は現在“夏”とのこと。人間達は薄着で油断しています」

 側近の提案に、魔王はゆっくりと頷いた。

 前回は、精神面を狙ったが人間達の中の忌々しい種族──“腐”の者共の欲望に敗北した。

「よかろう。今回は老若男女問わず、全ての人間達を一気に氷漬けにしてやろう」

「はい。氷の精霊――フロスト部隊を投入します」



 こうして、作戦は決行され、日本各地の上空に、ぽふん、と白い煙が弾ける。


 次の瞬間。


「アッッッッッッツ!!!」


「とけるとけるとける!!」


「ぎゃああああああああ!!」


 フロストたちは一斉に悲鳴を上げた。


 魔王達の世界──トルメウス界にも四季はあるが、創造神トルメイス、女神トルメイアの夫婦神が慈しみ護る世界。

 神々は平等に、魔界も含めた世界の気候を穏やかに保っていた。


 だがしかし、異世界・日本は神の加護が無い世界。

 肌が焼けるような直射日光。

 例年を上回り続ける最高気温。

 アスファルトは火傷を負う程に熱せられている。

 想定外どころではない。

 完全なる灼熱地獄である。


「いやああああ!!とけるぅーー!!」


「うわぁああん!!きえちゃうよぉー!!」


 ――作戦、開始数秒で壊滅寸前の地獄絵図。


 だが。


「ねぇ、何か可愛いの居る〜。SNSに上げよ〜」


「待って! やばい! あれ、溶けてるよ!」


 最初に気付いたのは、通りすがりの女子高生だった。


「こんな猛暑日に何で!?」

「とにかく室内に運んで!」

「冷やそう!氷!?」

「コンビニ!すぐそこ!」

「うちのアイスの棚、使ってください!」

「冷房最大で冷やせ!!」


 声はあっという間に広がっていく。

 サラリーマンが駆け出す。

 主婦が冷凍庫を開ける。

 ご老人は日傘で影をつくる。

 子どもが泣きながら、自分のアイスを押し当てる。


「がんばれ!」

「大丈夫だからね!」


 日本各地の老若男女が一致団結し、フロスト救出大作戦が始まった。



「……生きてる……?」


 発泡スチロールの箱の中。

 氷に囲まれたフロストが、震える声で呟く。


「よかったのぅ」


「この子、もちもちしてひんやりきもち〜」


「ヤバ、可愛い」


 指でつつかれ、むに、と体が揺れる。


「ありがとう、人間さん達」



 数時間後。

 全国で保護されたフロスト達は、すべて安定状態に入っていた。


 さらに――


「アイス業界のマスコットキャラクターになってほしい」


 アイス専門店の店長が、フロストに名刺を差し出す。


「え……?」


「こんな可愛い子達が全国各地に現れたのは神様の思し召しだろう……うぐっ!」


「可愛い……?」


 アイスをもちもちと食べながら、フロストは不思議そうに体を揺らす。その仕草に、店長や店員は胸をおさえてうずくまった。


 ゆるかわキャラクターを愛する日本人達にフロストのもちもちボディ、赤子のようなつぶらなおめめに小さなおくち、幼児のような声、全てにおいてつたない仕草は、人間達の保護欲をこれでもかと刺激していた。現れた一瞬でフロストの存在を受け入れ保護してしまうほどに。


 フロストは仲間を見る。

 皆、同じ顔をしていた。


「それも、いいかも〜」


 それから、しばらくして。

 フロストの多くは魔界へ帰還したが、一部は日本に残ることを選んだ。


 結局、各企業の巨大冷蔵庫で商品管理をし、夜は新商品(冷たい物限定)を食べる。その様子の配信で人気を博した。フロストが紹介する商品は大人気となり、Win-Winの関係になっていった。

 企業だけではなく、助けてくれた恩を返すためと、コンビニのアイスの棚でオススメアイスを教えてくれるフロストや、おばあちゃんが引くワゴンアイスのお手伝いをするフロストと色んなところでフロストを見かけるようになっていく。

 雪まつりやスキー場等で嬉しそうに跳ね回るフロスト達の姿は、日本の新たなる冬の風物詩となる。


 フロストは「もちもちフロスト」として、日本全国で愛される存在になっていた。


 ──ある意味では、フロストは日本の“ゆるかわ”を征服したのだった。



 魔王の玉座の間。

 報告を聞き終えた魔王は、沈黙していた。

「……つまり?」

「はい。全員無事です」

「それは良かった……」

「さらに戻らぬフロスト達は、現地で契約を結び、生活基盤を確立したとの報告です」



 魔王は、ゆっくりと口を開いた。



「……解せぬ」

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