やよい
コチ……コチ……
時計の針の音が聞こえる。
やっと陽の目を見られたのに、私の寿命は決まっている。
それはずっと前から決まっていること。
変えられない、定められた運命。
でももう少し、もう少しだけそばにいられたら……。
せめて、なこちゃんの小学校の入学式だけでも――。
そんな思いに駆られてしまう。
3月3日、今日はひな祭り。
幼稚園でも、ひな祭りのお祝いをしたんだって。
お夕飯に、お母さんがちらし寿司を作った。
なこちゃんはそれを嬉しそうに食べていた。
かわいい着物に着替えたなこちゃんは、雛人形と写真を撮るみたい。
身体が動かない私も、なんとか一緒に写真を撮れた。
3月9日、今日はお別れ会。
一生懸命練習したダンスを、みんなの前で踊ったんだって。
お母さんが撮ってきた動画を観ながら、「子供の成長は早いな」ってお父さんが泣いていた。
いいなぁ、2人はなこちゃんのこれからが見られて。
私は羨ましくてたまらない。
3月11日。
今日はおやつの前に、みんなでお祈りをしたんだって。
理由のわからないなこちゃんは、お母さんに「どうして?」ってたくさん質問をしていた。
お母さんは少し困った顔をしながら、なこちゃんの質問に答えていた。
……へぇ、そんなことがあったんだ。
私も勉強になった。
3月17日、今日はお誕生日会。
幼稚園で、3月生まれのお友達のお誕生日会があったんだって。
お友達に、おりがみで作ったお花をプレゼントしたってなこちゃんが言っていた。
やっぱりなこちゃんはとっても優しいな。
そんな優しいなこちゃんのお誕生日は5月。
その頃、私はもうここにはいない。
一緒にお祝い、できないな……。
3月24日、今日は卒園式。
お父さん、お母さんもおしゃれをしていた。
なこちゃんの制服姿、もう見られないんだね。
でも、卒園おめでとう。4月からは小学校だね。
ピカピカのランドセル、かわいい黄色い帽子。
その姿を見ることは、叶わないんだろうな……。
3月30日。
今日はなこちゃんが嬉しそうにランドセルを背負っている。
そっか、もうすぐ入学式だもんね。
ランドセル、楽しみで待てなかったんだね。
そのおかげで、私もなこちゃんのランドセル姿を見られたよ。
本当にありがとう。
3月31日。
今日で3月が終わる。
私はなこちゃんが入学式に着るかわいいワンピースも、お誕生日に嬉しそうにケーキを頬張る姿も見られない。
もう、残された時間は僅かだ。
せめて、一緒に桜を見たかった。
この部屋からは、川縁に咲く桜が見えるらしい。
だけど、今はまだ3月末。
蕾の姿は少しずつ見えてきたけれど、咲く様子は見られない。
4月1日、今日はエイプリルフール。
3月は終わり、4月を迎えた。
私の運命も、嘘だったらよかったのにな。
そんなことを考えても、どうしようもない。
なこちゃんのこれからが、幸せでありますように。
カーテンの隙間から、温かい春の朝日が差し込む頃。
私の役目は終わりを告げられる。
ゆっくり、ゆっくりと私に手が伸びてくる。
うん、わかっている。もう、終わりなんだと。
でも、その終わりを告げる手があなたでよかった。
大好きな、なこちゃんでよかった。
お父さんに抱っこされ、普段は見下ろしていたあなたと初めて目が合う。
ああ、なんて私は幸せものなんだろう……。
身体が持ち上がり、視界が揺れる。
ピリピリピリピリ……。
こうして、3月は終わりを迎えた。




