そらしの求め
これは、とある人から聞いた物語。
その語り部と内容に関する、記録の一篇。
あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。
ねーねー、つぶつぶ。頼みがあんだけどさ。今度の休みに、一日カレシになってくんない?
――なんでそんなトロフィーめいた扱いするんだ? なにを自慢するんだ?
おー、さすがつぶつぶ。いいとこツイてんね。
最近、友達の間でカレシ自慢が流行っててさ。それもゲーマーカレシ自慢てヤツ?
ここのところゲームって、やたらトロフィーというか実績解除なブツが多いでしょ? 他にもやれタイムアタックがどうだの、ノーダメノーデスがどうの、デイリーやらかしがどうの……動画の影響もあるのか、やたら奥深いのはつぶつぶも知ってるっしょ?
で、そのゲーム「はしか」がひどくって。今度は仲間うちの男女ペアで某ゲームのスコア競いたいとか言い出して、それが多数派占めちゃってさ。
参加しない、できないは論外だし、ヘタをさらしても負け犬。表は水に流しても、根っこはじめじめ長引く人間関係なのは、アンタもだいたい分かってくれるっしょ?
某ゲーム、確かアンタはなかなかやり込んでいるクチって知っているからさ。ウチの立場を守るために、どーかご協力をお願いしたいかと。
――力を貸してほしいなら、どうすればいいか分かるだろ?
ふん、重々承知。報酬の前払い……て、ことでしょ?
ま、女であることを活かしてもいいけど、今のアンタに需要があるのは役立ちそうなネタの提供……違う?
産んだ直後はもう産むまいと思うのに、気づいたら次を身ごもろうとしている。それもクリエイターなりの母性ってとこ?
じゃあゲーム頼りの今回、ウチのアニキから聞いたゲームにまつわる話でどうよ?
アニキもそうとうなゲーマーで、それつながりの友達がいるみたい。
広く浅く交流を持つ、というのはイマドキ難しいことじゃない。配信業を営んでいるタイプの友達もいるって聞いたなあ。
でも、アニキとしては自分の部屋とかでワイワイと、気楽にゲームするのもけっこう好きらしくって、とある友達とは休みが一緒になると、お互いのどっちかの部屋に入り浸るくらい仲良いみたい。
その友達というのが、家族にゲーム開発に携わっている人がいるらしくってね。ボツになった企画や、個人的な趣味で作ったゲームをときどき譲ってくれるんだってさ。
市場に出回らない秘密のゲーム。今はゲーム作りの環境も整ってきて、個人製作のゲームを発表する機会も少なくない。でも当時としては専門的なスキルがないとハードルが高くて、アニキもわくわくしていたんだって。
当たりはずれがあるのも楽しめる人だから、何を引いても面白くやってはいたのだけど、今回話すのはその大はずれ……いや、大当たりな話ってやつ?
「このゲーム、プレイするなら20分ごとに後ろを振り返らなきゃいけない……てさ」
家へ来たアニキに、友達はそう話した。
年がら年中、テレビに差しっぱなしにしているゲーム機。その端子部に、透明なカバーをつけたソフトを取り付けながらね。
「なんだそりゃ? 目を悪くしないための注意ごとか? 今さらすぎんだろ」
そういうアニキはいま、急激な視力低下を嘆いている。
「いんや? もっと注意すべきことがあるんだってよ。詳しいことは聞かないけどな……で、やんの? やらないの?」
若さゆえの勢い、というか。アニキはむしろ、新鮮な体験だと勇んでいたみたいで。
20分のタイマーをそばにおいて、友達と2人でゲームを始めたのだと。
協力するタイプのガンシューティング系ゲーム、との話ね。
二人ともこの手のゲームには慣れていたから、進むことそのものは問題じゃなかった。
音響には力が入っていた。友達のテレビの性能がいいのもあるけれど、背後から敵が迫る時には、きちっと背後から音が聞こえてくる……そう感じられたって。
ゲームの中の視点も、それに合わせて自動で背後を向き、現れ出るターゲットを狙い定めていく。
そしてアニキたちも。
「時間だ」
20分が経ち、時計のアラームが鳴るたび、2人はゲームを止めて背後を向く。
ゲームを続けていくうち、アニキは考えていたみたい。これはゲームをやっているキャラたちがやっているような動きと、同じじゃないかとね。
――これ、きっちりやっとかないと、ゲームのキャラと同じ目に遭うとかじゃね?
アニキはそう思いつづも、友達と一緒に背後を気にし続け、普段と変わらない部屋の玄関へ通じる一本道を振り返り続けていたって。
でもゲームの終盤。
おそらく最後のボスと戦っている最中、相手の弾幕攻撃の途中で20分を迎えてしまったみたい。
ポーズをかけようとしたけれど、ラスボスの特別仕様なのか。いくらボタンを押しても止まらず、友達にせかされてアニキは画面から目をそむけた。
あの弾幕、画面を見ながらでもまだ完全回避がかなわないレベル。このポーズのきかない状態かつよそ見していたら、やられてしまうかもしれない。
後ろを見ながらもコントローラーを握り、がむしゃらに操作するアニキだったけれど、被弾の音が響いてくるばかり。友達はというとコントローラーを手放していて、粛々と運命を受け入れているかのごとき姿だったとか。
そうしていてふと、背後――このときはテレビ側ね――から音が消えた。
効果音、BGMなど、これまで一度も途切れていなかったものがぷつりとね。すでに何度かなった、ゲームオーバーの音楽でもない。
「向かないほうがいい!」
友達の注意よりも、アニキの好奇心がわずかに先んじて、画面のほうを見やっちゃたみたい。
それはほんの一瞬のこと。アニキは真っ赤に染まったテレビ画面を見たけれど、すぐに両目へひどい痛みを感じて顔を伏せちゃったんだ。
さっき、アニキの視力が悪くなったって話したっしょ? ガタ落ちしたのはもう少ししてからだけど、視力ダウンはこの時からじわじわと始まっていたみたい。
で、アニキの目なんだけどね。ときおり、真っ赤になるんだ。白眼の部分も、ヘタすると虹彩部分もまとめて、真っ赤にね。
いつ来るかは分からず、不意打ち気味にくるみたい。アニキも低視力の視界に何かしら異状が起こるわけでもないようだから。
ただ、20分ごとに顔をそむける理由。
それはアニキ自身が考えていた背後からの奇襲というより、あの真っ赤な画面のヤツから逃れるためのものだったのかもね。




