第九話 襲うもの、襲われるもの、それを襲うもの
草、草、草。まるで樹海の奥のような多種多様な植物に満たされた私の部屋は、もし泥棒が来たとして、一瞬で逃げ出すであろうありさまだ。
「手狭になってきたな~」
私はその部屋の様子を眺めて溜息をこぼす。こまめに集めていた植物は、私の魔素をふんだんに含んだ水を浴びてすくすくと育ち、ちょっとやそっとではお目見えできない魔境のような空間になっている。もとから狭い我が家は見えている床を探すほうが難しい。
「でも先立つものがないからなあ」
ここは教会の紹介で住むことができている、困窮者が優先して住むことができる格安宿だった。なんと、レオンとよく酒を飲んでいる酒場の二階である。従業員通路を通ってでしか入れない構造になっているので、安心安全だ。
私も最近では安定して稼げるようになっているが、それは若い今だからできることであって、これから先どのような人生が待ち受けているかわからない、この異世界での生活では無駄遣いはできない。
もう一回り大きな部屋で暮らしたいというささやかな夢を持ちながら、でも屋根があるところで寝られるだけましだと自分に言い聞かせる。
「さあ、クエストに出かけますか」
今日も異世界での一日が始まる。
本日の依頼はゴールデンナッツ。その名の通り、金色の木の実だ。このクエストは、落ちているゴールデンナッツを拾い集めるというだけの、難易度の低いものだが、運要素もつよい。
そして私は魔女のおばあちゃんから以前「帽子付きのがあったら、ワシに譲っておくれよ」とお願いされていたので、もう少し採集率のよい場所へと行くことにした。そこは背の高い木々が生えている空間だった。
「ちょ、どいて! やめなさい」
そのポイントにはバッドマウスと近い種の、バッドスクワラがいて、ゴールデンナッツの採集を妨害してくるので難易度は途端に上がる。
とはいえ、リスのようなこのモンスターにとってこの実は主食なのだろうから、どちらかといえば簒奪者は私だ。食料争奪戦をしばらく続けていると、なかなかの量になってきた。
ところが、リスをいなしていると途中第三勢力が参入してくる。ワシのような鳥形モンスターだ。最近薬草だけではなくモンスターのこともレオンから聞いて勉強しているので、名前の見当がついた。雷鳥というやつだろう。
モンスター嫌いの私でも、バッドスクワラくらいなら相手をしてやろうと思えたが、さすがに鋭い鉤爪で襲いかかってくるこいつは怖すぎる。
二度、三度この雷鳥からの襲撃をなんとか避けることができた。
「もう帰り時かな」
そうは思ったが、まだ帽子付きのゴールデンナッツを見つけていない。
襲ってきては空中に戻るヒットアンドアウェイ戦法をとってくる雷鳥。私は、その空中に戻るタイミングを見計らって、木の陰に逃げていく。そしてその様子を観察してみた。
どうやらこの鳥は私のことを狙っているのではなく、ゴールデンナッツを狙っているようだ。それも、バッドスクワラがせっせと集めて地面に埋めた大量のゴールデンナッツを。確かにちまちま拾うよりかはよっぽど効率がいい。
「もう少し採集してかなきゃいけないし……」
襲い来るバッドスクワラと雷鳥の攻撃ををかいくぐって、大量にゴールデンナッツを集めるのは至難の業だろう。だから、私はじっと見つめる。
木の間を飛び飼う無数のリス。緩急をつけて空から襲い来る雷鳥。バッドスクワラが不意に立ち止まる。そこをすかさず雷鳥が襲いかかる。
そして私は静かに手をかざす。雷鳥にむけて。
「あれー、おばあさん留守かなぁ」
せっかく帽子付きのどんぐりならぬゴールデンナッツが大量にとれ、魔女のおばあさん宅に届けに来たのに、渡せずじまいだった。
どうせなら地面に落ちているゴールデンナッツより、雷鳥がかき集めたもののほうが量も質も良さそうだと気づき、標的をこの鳥に変えたことが私の戦略勝ちだ。思った以上にたくさん採れた。
おばあさん用と自宅用をより分け、残りの低品質のものをギルドへ出す。残滓のようなのもを納品してしまったと後悔しながら家に帰った。
後にレオンから聞く。『ゴールデンナッツから、幻の雷鳥の爪が出てきた』とギルド職員は大騒ぎだったのだと。




