第四話 一割の力で生きていこう!
魔力が膨大にあれば、異世界で楽勝で戦えるのか? 答えは、否。
だって、例えば一撃でどんな猛獣をも倒せる武器を渡されたとして、目の前にお腹をすかせたライオンが唸り声を上げていたとしたら、怖くて動けなくなると思う。
よく漫画とか小説で、異世界に行って魔法が使えます! ってなった途端にちゃんと戦える展開になるけど、少なくとも私は無理。運動神経がいい人とか、格闘が好きな人とかなら順応できるかもだけど、普通の日本人女子には難易度が高すぎると思うの。
と、いうことで、私は教会を追い出された……もとい、教会から自立をした時にすごく悩んだ。
魔力が多めだということは教会にいたときからわかっていたから、冒険者になって荒稼ぎする道や、危険地帯の薬草採集をするタイプの薬草師になることだって選択肢にはあった。でも、モンスターとの戦闘は避けられないだろう。
「お金、やっぱりいっぱいあったほうがいいよね。頼る人もいないし、国が助けてくれる制度もわかんないし」
そんなことをつぶやきながら、教会から教えられた冒険者ギルドまでの道のりを辿ったあの日。街道を一人歩く心細さから、荷物を強く握りしめてなるべく道の端のほうを歩いていたのを覚えてる。
(神父様もひどいよね。仕方ないとはいえ、女の子を一人でこんな道歩かせるだなんて)
教会が決めたのか国が決めたのかわからないけれど、これ以上手助けはできないらしい。せめて無事に門出ができるようにと、早朝を選んで見送ってくれた。
しんとした朝もやの中、道の少し先に何人かの人影を見つけたとき少しホッとした。でも完全に気を許してはいけないと、顔を伏せ気味にして、足早に横を通り過ぎようとしたとき。
「お〜い、お嬢ちゃん」
草を摘んでいたらしいその人たちが顔を上げて、声をかけてくれた。
「ひとりかい? あぶないよ〜」
もう一人が腰を伸ばしながら声をかけてくる。
その素朴さに田舎の祖父母を思い出して、思わず近寄る。
「あの、もしかして薬草師の方たちですか?」
私は少し安心して歩み寄った。
「そうだよ。こんな早朝に歩いてるってことは、お嬢ちゃんも薬草師かい?」
「えっと……、薬草師見習い、みたいなものです」
それから彼らは親切にも基本的な薬草の知識や販売の方法、安全な地帯などの説明をしながら、冒険者ギルドのある町まで同行してくれた。
(薬草師になったら、同業者の人たちはこんな人たちが多いのかな)
そんなことを考えていたとき、急に悲鳴が上がる。
「バッドマウスがでたぞ!」
薬草師のおじいさん達はみんな手に火薬玉や小型のナイフを持って、必死にバッドマウスというモンスターと戦う。サイズは猫ほどしかないのに、おじいさんとはいえ大人4人がかりでなんとか追い払うというありさまだ。
私はといえば、その間4人の後ろで固まっているだけだった。
「お嬢ちゃんにはカッコ悪いところを見せちゃったな」
擦り傷がいくつかついた顔で、力なく笑うおじいさん達。
「もう少し遠くまで行けたらいい薬草が生えてるんだが、ここらへんはもうバッドマウスやら一角ラビッドやらが多くて、大した実入りにならないんだよ」
「お嬢ちゃんも本格的に薬草師になるなら、ギルドで冒険者を雇うかパーティーを組んで遠征にいくといい」
「まあ雇うにも金がいるし、遠征にも支度に金がかかる。ここで細々とやるか、一攫千金をねらうか。それはお嬢ちゃんの選択だな」
親切な薬草師のおじいちゃんたちはそう助言をくれてから別の道を進むとのことでお礼を言って別れた。
「バッドマウスとかまだ出るのかな。やだな。1人で対処できないよ……」
そんなことをつぶやいたからか、目の前にまた先ほど見たばかりのと同じ姿形をしたモンスターが。
「え、え、どうしよ、これ」
初めて一人でモンスターに対峙して、どうすればいいかわからなくなってしまった。
争いごとが御法度な教会でもさすがに基本的なモンスターとの戦い方は教えてもらっていたが、体がすくんで思うように動かなかった。しまいには、思わず目をぎゅっとつぶってしまうありさま。怖かったけど、襲われるのも怖くて伸ばした手。そこから教わった通りに炎をイメージして、魔法を放ってみた。
魔法自体は使ったことがあったけれど、実践では初めて。
音もなく放たれた炎は果たしてバッドマウスにうまく当たったのか。モンスターの鳴き声はしなかった。びっくりして逃げてくれていたらいいと思って、そっと目を開くと。
そこは消し炭となった、元バッドマウスが。丸い焚火の後のような形跡のみ残っていた。
「私の魔法、半端なさすぎ」
そして思い浮かんだ案は。
「この半端ない力を使って……」
「安全圏で荒稼ぎしよう!」




