八話「襲来その二」
こんばんは。
いきなりだけど鯖定食って美味しいよね。笑
『••••••ン?貴様ァ、コノエルフ、知ッテルカ』
『ーーーああ、離しなさいよ』
『ンァ、何ダト?』
『ルーシュを離しなさいよッッ!!!』
私はイビルオルガの懐に入り込む。
この妖魔樹の跳躍を舐めるな!!
気付いた時には遅いぞ!
瞬時に枝を鋭い槍に変化させた私は、目の前に居たはずの敵を見失って戸惑うイビルオルガの腹部に向かって、渾身の一撃をかます。
『グギャアオオオォォォ!!?』
効いたッ!
根先をドリルの様に回転し動かしたから、かなり威力のある攻撃となったはずだ。
イビルオルガの腹部からは多量の血が噴き出る。
『••••••馬鹿ナッ!覚醒シテ間モナイ、ドライアド、デハ無カッタノカ』
••••••え。
こいつまさか何か知ってる??
そもそも妖魔樹の姿の私を見て、すぐに樹木精霊だと気付いたのも変だった。
でも••••••、
『今は後回し!!』
地に伏せるイビルオルガを放っておき、私は周りのイビルガムの群れに向き直る。さすがにリーダーのやられる姿を見て警戒した様で、いきなり襲い掛かっては来ない。だったら今の内に一斉殲滅させて貰うよ!
私はイビルガム達の足元に根を張り巡らせ、彼らの鼻先を掠めるくらい程度に、根っこの槍を突き出した。
もちろん始めから当てるつもりはなく、恐怖を与える事が出来ればそれで良い。
「ーーーギャ、ギャオウゥゥン!!」
群れの一匹が逃げ出すのを皮切りに、他のイビルガム達も次々に森の中へと引き返して行く。
当たり前だよね。リーダーがやられて威力も知っているし、動物は本能的な恐怖も感じやすい。実際にこの場に居たかどうかは見た目の判別が付かないから分からないけど、ルーシュを助けた時に追っ払ったイビルガムが居たのなら、すぐに逃げ出すと思った。
狼ってのは本来は臆病な生き物だし、一匹が回れ右したら、自然と仲間も続いていくだろう。
まぁ、魔獣の生態が同じとも限らないけど。
『っていうか、ルーシュは!?』
辺りを見回すと、土埃の舞う中、ぐったりとして動かないルーシュを見つけた。咄嗟に駆け寄ると、身体中は傷だらけで、腹部は噛まれた所が出血はしているが、か細く呼吸はしている。
何とか生きてる!良かったぁー!
後は早急に手当すれば助かるはずだ。
(神樹様!!ルーシュは無事ですかッ!?)
イビルガムの群れが去った事で、ステンリー達エルフの戦士も駆け寄って来た。
『ステンリー!ルーシュは何とか無事!とにかく安全な場所に避難して、急いで治療してッ!!』
(わ、わかりました!神樹様は!?)
『••••••こいつが残ってる』
かなりダメージは与えたはずだけど、イビルオルガはヨロヨロと立ち上がる。やっぱり致命症とはいかなかったか。腹部は硬い装甲に覆われていたから、出血多量ではあるが、深手という訳では無かったみたいだ。
とはいえ、ステンリー達がルーシュを担いで逃げ出すのを制止する程、チカラは残っていない様子。
『ソウ簡単ニ、逃ガス、トデモ、思ッタカ!?』
『強がりでしょ。もう降参した方が良いんじゃない?それにちょっと聞きたい事もあるんだけど••••••』
何とか大人しく捕まってくれないかなぁ?
あんまり攻撃もしたくないし。
本格的な戦闘になったら、勝てるとは思えない。
『黙レッ!!我ラハ、強キ者ダッ!!』
『ーーーッ!?』
なになになになになに!?
イビルオルガの身体が、急にボコボコとうねり出す。
まるで身体の内側で何かが暴れているかの様な、そんな気味の悪い動き。何なら無理矢理に身体の構造を、造り替えられているみたいで、悍ましいのひと言だ。
『••••••ちょ、ちょっとヤバくない?』
イビルオルガを見上げる。
いや、最早先程までと同じ魔獣とは思えない。
四足歩行であったソレは、二足歩行となって、私の前に立ちはだかる。筋肉が隆起し、血管が浮き出て、倍の重圧を放つ。邪悪な紅い眼、魔を増強した角、揺れる漆黒の鬣。まさに“魔獣”と呼ぶに相応しい。何だってのよ。進化でもしたの??
『樹木精霊!貴様ァ、何故エルフ種ノ味方をスル?』
『••••••え』
そんな事を言われても困る。
ただエルフが好きだからなんですが!
というか、喋り口調が聞き取りやすくなった。
やっぱりさらに上位種になっちゃったんじゃない?
『我ラも大森林ノ恩恵ヲ承けルべき存在!何故、エルフ種ばかり優遇サレテいるノダッ!?我ラにモ大森林ノ支配権限ヲ寄コセ!!ヒトを喰らワせロ!!』
どういった考えでそうなるのよ。
ヒトを喰らわせろって、怖すぎなんですけど。
あまりにもケモノが過ぎる。
とっととお帰り願おう。
『良く分からないけど!これ以上やるなら、大怪我じゃ済まないからねッ!!』
喋りながら地中の根を操作して、イビルオルガの身体を目がけて根っこによる攻撃を放つが、
『ーーー邪魔ダッ!!』
と、強靭な爪で弾かれてしまう。
『う、うそッ!?』
やはり先程までとは異なる、凶悪な存在と化してしまったに違いない。あっさりと防がれてしまった。
どーしたらいいのよ!?
絶対絶命なんじゃないの??
『やはリ、まだ覚醒ハして居ナかったカ。アノ、ハーフエルフの言ッタ通リか!』
ーーーハーフエルフ。
あ、ちょっ、と•••なんか、意識が••••••。
「ーーーヤツの仕業か」
頭の中で、誰かが、呟いた。
澄んだ声だけど、ゾッとする冷たさもある。
いや、或いは、灼ける様な熱を感じた。
「ーーー大破邪魔聖域」
私の中で、木霊する。
真っ暗で何も見えないけれど、感じた。
木々の隙間を吹き抜ける風を。
森の中を駆ける小動物の躍動を。
水面に揺蕩う月の光を。
草木に宿る精霊達の合奏を。
その魔法が、大森林に浸透した。
それだけは確かに感じる。
そして。
中心にはあるのは、森を統べる大神樹。
ーーーつまり私である。
「••••••っぷはぁぁ!!?」
あ、危なかったぁ!
何が起きたの!?
何だか意識を誰かに乗っ取られていた様な••••••。
それから底の深いプールに投げ飛ばされ、今さっき浮上してきたばかり、そんな感覚。呼吸もかなり乱れたな。
っていうか、何だか空が明るい気が••••••
『••••••えッ!!?』
月が頭上で、燦然と輝く。
それ自体はおかしい事じゃない。
ただ、地上で観るより数倍の大きさがある。
まるで空一面を覆う程の存在感、圧倒的な迫力だ。
この世界の月は地球より数倍は大きいし、始め見た時は驚いたなぁ。でっかい目玉に覗かれているみたいだし。
••••••ん、あれ?
というより、この画角、凄い既視感がある様な、
『••••••ええッ!?私、本体に戻ってる!?』
この幻想的な月夜の大パノラマ。
間違いなく私、神樹本体だ。
ど、どういう事!?
さっきまでメアリスの集落に居たよね!?
魔獣達と戦闘してたよねッ!?
と、とりあえず戻らないと!
ルーシュや集落の皆んなが心配だ。
『で、でも!これどーすんだッ!?』
この姿じゃ動けない!
また妖魔樹を探して、意識を移すしかないの?
時間が無い!早く集落に戻りたいのにー!
『お母様』
『母上様』
な、なんだなんだッ!?
いきなり念話が飛んで来る。
根元の方からだ。
私は幹エレベーターの中を下っていく。
スピード管理も今は万全だ。
地上に近付くに連れて、二つの人影が見えて来た。
『••••••あれは』
二つの影は、どちらも女の子の様だ。
一人は、巫女装束らしき服装で、艶のある黒髪を、ストレートに伸ばしている。
もう一人は、古代エジプトの女王みたいな格好、輝く金髪をポニーテールにしている。
私の気配を感じ取ったのだろうか、その表情が、ぱあーっと明るくなる。な、何なんだろう、この子達。
そして、私が根元までやって来ると同時に、二人して幹(胴体)に飛び付いてくる。
『待ってたよぉー、お母様!』
『お待ちしておりましたわ、母上様!』
は、はあああああぁぁぁぁぁ!!??
登場させたい二人が来た。




