五話「合法です(いやらしい気持ち有ります)」
ぐうたらしていたら、ケータイが鳴るんだ。
呼ばれたら会社に行く。ふむ、年末年始とは何ぞや?
ーーー大森林アルヴィド。
かつて起きた神々同士の戦争で、故郷を焼き払われてしまったエルフ族の末裔が棲まう、神樹メアが守護する深く広大な森の名前。
元々は、小規模な集落が点在していたみたいだけど、他国へ移り住んだ者達、出稼ぎに出て戻らない者達、様々な理由で森を出て、今は残った集落もメアリスのみらしい。そんな集落の人口も三十五名。男性が十五名、女性が二十名。長命種であるエルフだが、恋愛や結婚に対する気持ちは疎い様で、自由気ままに生きる傾向にあるらしい。よって集落でも、年長者は多いものの、子どもが少ないとの事。少子高齢化は、エルフ達の世界にも広がってしまっていたとは••••••。
さらに追い討ちを掛けているのが、魔獣被害による食糧不足。いくらエルフどいえども、飢えには耐えられない。このままでは集落壊滅の危機、つまりはエルフの絶滅に繋がってしまう。
『由々しき自体じゃないの!!』
許される訳がない。
何としてでも対策をしなくては。
(では、魔獣は神樹様の御力で何とか出来るので?)
正面に座る銀髪エルフの長老ちゃんが、ニコニコしながら私の顔を覗き込んでくる。
長老ちゃんの名前は、クレア•ミルドと言うそうだ。
さっき見た印象では、あまりしっかりとした性格では無いかと思ったが、今は背筋も伸ばして座っており、凛として余裕ある雰囲気を感じる。
先ほど場を収めてくれた後、集落の中央にある野外集会所に移動し、この大森林やエルフについて簡単に教えて貰っている。
ちなみに、ラノベやアニメのエルフと同様に、この世界でもエルフは長命種とのこと。事実、クレアは長老という役職通りで、軽く三千年は生きているらしい。
それにしても、見た感じ二十代半ばくらいにしか見えないのに、三千年生きているなんて、あまりにも最強すぎる。
ルーシュやステンリーも彼女の後ろに控えてくれているが、彼らもけっこうな歳なのかな?
それはそうとステンリーに関しては、私の事をまだ神樹だとは疑っている様で、目が合う度に鋭い眼光を向けてくる。うん。けっこう良いかも、その視線。ちょっと興奮する。
と、この世界についてやエルフについても、もっと知りたい所だけど、今は魔獣対策の方が最優先だよね。
でも、魔獣を相手に出来るとは思えない。
だって、私ただの“樹”なんだから。
『善処はしてみるんだけどさ、私、この状態では勝てる気がしないの。その、クレアは、樹木精霊について、何か知っている事はある?私は目覚めたばかりで、自分の力の使い方すら分からないの』
クレアは考え込む仕草をして、それから思い付いた様に、パンッと手を合わせた。
(でしたら、陽光樹様と月冥樹様のご助言をいただく他にありませんわね)
『••••••ん?誰それ!?』
(このアルヴィドの東部を守護する陽光樹ソルト様と、西部を守護する月冥樹ルーナ様です。御二方は、神樹様よりも御若いとはいえ、同じ樹木精霊に進化されておりますので)
『え!樹木精霊、他に居るの!?』
そう言えば、私本体の天辺から辺りを見回した時、遠目からでも分かる大きな“樹”があったっけ。
やっぱり樹木精霊に進化していたんだ。
『というか、その樹木精霊に魔獣をどうにかして貰えなかったの?』
(御二方は、ご自身の守護されている地区の魔獣対策をされているという事もありますし、支援依頼に伺うにも東西ともに距離がありますから••••••)
なるほど。
途中で魔獣にでも出会したら、元も子もないもんね。リスクの方が高いって事か。
(それと••••••)
『?』
(••••••御二方は、めちゃくちゃ仲が悪いんです)
••••••え。
(片方に何かを頼もうものなら、もう片方の逆鱗に触れますので、迂闊にどちらかにお願いも出来ないのです。以前、お互いの守護領域の境界線で言い争いになり、その際は軽く百五十年は口を効かなかった事もありました)
『えー、なにそれ、面倒くさい』
(ちなみに御二方は、神樹様の眷属でもありますので、既に神樹様の目覚めを感じ取っているはずです。おそらく二人して近い内にやって来ると思いますよ)
眷属ってのは何、私の部下的な存在って事?
なーんか嫌な予感しかしない。
前世でも犬猿の仲で張り合って、職場に私情を持ち込んで喧嘩し、ロクに上司の指示にも従わない部下達が居たなぁ。そういうのは勘弁なんだけど。
『まあ、どちらにせよ今は頼れないんだね?だとしたら、せめて私に魔法が使えるなら、誰か他の人に、魔法の使い方とか教えて欲しいなぁ)
(••••••それもそうですわね。では、ルーシュにお願いしましょう)
お、ルーシュ!
彼なら丁寧に教えてくれそう。
(わ、私ですか?)
突然指名を受けたルーシュは、慌てた様子で、念話の中に入って来た。
(貴方は弓矢より魔法の方が適正あるでしょう?神樹様のお役に立てるなら、光栄な事ですよ)
(••••••それは、そうですが••••••)
ちらちらとステンリーの表情を窺っているルーシュ。
ん?何か本人達にしか分からない上下関係等があったりするのかしら。ルーシュの様子を察したのか、ステンリーは溜息を吐いた。
(••••••はぁ、俺は構わない。お前は確かに集落の最年少ではあるが、一応は戦士の末端ではある。魔法の適正も高いのだから、指導者としてはお前が適任だろう。それに、俺はその妖魔樹が、あの神樹様とは、まだ信じて居ないのだからな)
そのまま野外集会所を後にし、去っていくステンリー。やたらとツンツンしたエルフだなぁー、それもまた格好良いけれど。あの軽蔑したというか、冷たい目線、本当に癖になりそうかも!
去っていくステンリーの後ろ姿を見て、クレアは苦笑いしながら言う。
(申し訳ありません。あの子は魔力探知が未熟ですので、神樹様の溢れる魔力に気付かないのです。戦士としては優秀なのですが••••••)
『ああ、気にしてないから大丈夫だよ!私だって、自分がそんなに凄い存在とは、まったく認識して居ないんだから!』
(••••••はぁ、うちの頑固息子にも困ったものです)
『えッ!?息子!?クレアの?』
(ええ。息子です)
『そうだったの!?え、いくつ!?』
「けっこう歳を過ぎてから産みましたので、まだ千五百歳程度ですよ。ヒト種族で言ったら、まだ二十代くらいでしょうか』
まぢかッ!?
分からない!年齢がまったく読めないよエルフ!
クレアが三千年を生きているなら、人間換算すると四十代って事?
とんでもないわね!
『••••••ちなみにルーシュは?』
(私は、千歳にも満たない程度です)
ルーシュは、無垢な少年の笑顔を浮かべた。
私には見える。千年という歳月の中に見える、十代半ばの、まだ儚いあどけなさ。
••••••は、ははは。や、やった。
合法だ。この笑顔、合法だッ!!
なんだろう。
思わず心の中でガッツポーズをしてしまった。
決して深い意味はありません。
ちょっとでも見てくれている人がいる。嬉しいよね!
ありがとうございます♪




