一話「何かに転生したみたい」
「ーーーーどうかお助け下さい!!」
それが私に対する呼び掛けだと、直感で分かった。
身体の中に直接、声が響き渡っている感じ。
はて?何処から聞こえるんだろうか。辺りを見ようと目を開こうとするが、開いている感覚はあるものの、目の前は真っ暗だ。どうにも身体全体に違和感があるし、さっきまで長い間、眠っていた様に思うのだが、記憶がハッキリ定まらない。
私って、何だっけ?
名前は、うーん、クラキ、メア、、、だった?
やばー、頭がおかしい。変な薬でも飲んだか?
いやいやいや!そんなワケない!じゃあ、飲み過ぎた?あ、なんか、あれ、誰かとお酒飲んでたかな?
とりあえず声の主を探してみようか。
目は見えていないが、声は近く感じたから、何となくで見つけられるかもしれないし、この状況について何か知っているかも。
で、どうやって身体動かすんだ、これ?
気持ち悪い!なんだこれ!身体が動かせない!?
私、どこかに閉じ込められているの!?
いや、それにしては圧迫感がない。
頑張れば四方に身体を動かせそうだけど、手足の感覚というものがない。
しばらく奮闘していると、上下に意識だけが動く事に気付く。気持ち悪い感覚だが、キツキツで身動きも取れない満員エレベーターに乗っている様なイメージ。グングンと上までは昇っていけるみたいだ。
とりあえず突き進む。
『痛っ!?』
天辺まで到着したのか、何かに頭をぶつけた。
これ以上先には昇れないって事だろう。
どうしたんだ、私の身体は!?
それより痛いという感覚があるのだ。
少なくとも実体はあるはずで、安心した。
『お、目が開いてきた!』
最初は真っ暗闇だった視界に、少しずつ光が差し込んでくる。チカチカと入ってくる光で、目を慣らしていくようで助かる。こんな洞窟みたいな場所から急に外に出たら、目が光を取り込み過ぎてヤバいものね!
お、やっと外の景色の全貌がーーーー
『って、なんじゃこりゃーーー!!!???』
広がるのは広大な自然。
つまり森林が一面に広がっている。
というより、めっちゃ高い場所から、大自然を見下ろす形だ。これ東京のスカイなツリーと同じくらい?
高所恐怖症ではない私だが、そんな事関係なく、怖いんですけど!?え、私ってどんな場所に居るの!?落ちちゃうんじゃないの?と思ったが、どうもクリアな筒状のエレベーターに乗っているみたいで、その筒の中に居るから落ちる事は無さそう。
それにしても凄い景色だ。日本、ではなさそうだ。
海外?ジャングル地帯っぽい。360度視界を動かせる事に気付き、グルッと回って見てみるが、ただただ広大な森林地帯が続くだけ。文化的な建物は影すらない。ちょっとずつ高さにも慣れてきた所で、ハッとして思い出す。そういえばさっき私は誰かに呼ばれたんだよね。あれはどこからだったんだろう?ここは天辺なんだとすると、下に降りて行けるって事だよね。
さっきまで上に向けていた意識を下の方に向けて見ると、視界がどんどん下に移動して行く。正解みたい。
でも、ゆっくり過ぎるなぁ、これ。降りるまでに時間が掛かりそう。
もうちょっとだけ急いで欲しいーーー
『なああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉぉ!!!???』
急降下始まったあぁぁ!??
死ぬ死ぬ死ぬってばあぁぁぁ!!?
ちょ、洒落にならない!この勢いで、急降下したら、さっきの頭ぶつけた痛みの比じゃない激痛くるって!
激痛感じる間もなく身体が弾け飛ぶって!!
『ーーーと、止まってよぉ!!!』
ピタッ、って止まる擬音がした気がした。
ま、マジで死ぬかと思ったよぉぉ!
何とか止まった。絶対ギリギリだと思う。
地面スレスレなんじゃないの、これ。
そう思って目を開く。
『ん?』
「グアァァァァウ!!ガヴッ!ガヴゥ!!」
『きゃああぁぁぁ!?な、なんじゃこれ!?』
目の前には、狼みたいな獣の顔。
鋭い犬歯、紅く光る眼、額から生える角。
図体も大きくてライオンくらいあり、真っ黒な毛並みは逆立ち、所々に血に染まっている。
ひと目みて分かった。
これは私の知っている“動物“という存在からは、明らかに掛け離れた生き物である、と。
『な、何なのよ、一体』
とにかく逃げないと!
って、何処に逃げるのよ、これ!!
分からないけど、私ってば上下にしか移動出来ないから、とりあえずさっきの天辺まで行けば何とか!
「グルヴゥアァァァ!!!」
やばっ!めっちゃ怒ってる!?
何でこんなに威嚇して来るの、こいつ?
『あ、あれ?』
この化け物にばかり気を取られてたけど、視界の下側に誰か立っている。というより、これな何だろう?よくよく意識してみると、私に身体を密着させている、そんな感覚がある。いや、これは、まるで私が一本の太くて丈のある大樹の幹だとして、それに背を付けて寄り掛かかられているみたいな。
そもそもこの化け物は私なんて見ていない。
おそらくこの私に寄り掛かっている人物を狙っているんだ。
『だとしたら、私は別に危なくない?』
この人には悪いけど、標的になっていないのなら、逃げさせて貰うわよ。得体の知れない化け物に食い殺されるのだけはゴメンだし。フードを被って顔は見えないけど男性みたいだし、もしかしたら戦う術を持っているかもしれない。私は、怖いものは怖いから、仕方ないと思うのよね。
『••••••』
いやいやいや!
私だって襲われない保証はない!
それに誰かを犠牲にして助かるとか、まぢでない!!
何とかして、この人、助けられないかな。
『せめて手足が動かせれば••••••』
何なのよ、この身体!
さっきから私はどうしちゃったわけ?
訳が分からなすぎて泣けてくるんだけど!
「ギャオォォォ!!」
『ひぃ!も、もうダメかも!?』
今にでも飛び掛かって来そうな化け物に、フードの男性も諦めたかの様に天を仰いだ。私は思わず目を閉じる。
「助けてください!!神樹メア様!!」
ハッとした瞬間、身体の中に氣が巡る感覚があり、手を動かせると思った。握り拳を作り、どう考えても倒せるはずはないのに、その拳を、いや自分のツタを、化け物に向かって放った。
「ギャウゥゥゥン!!」
巨大な化け物は、勢い良く弾かれ、地面に倒れ込む。
鳴き声は悪い事をして飼い主に叱られた仔犬の様だ。
思ったよりダメージがあったのか、化け物はヨロヨロと歩き出し、森の茂みに消えていった。
『や、やった。良く分からないけど撃退出来た』
ホッと溜息を吐く。何だったんだあの化け物は。
手が動かせなかったらヤバかった。
っていうかアレって私の手だったのかな?
なんかムチみたいの持ってなかった?
「••••••ありがとうございます」
『ん?』
フードを被った男性が、私の身体に触れている。
手を添えている。うんうん。怖かったよね、あれは。
男の人でもあれは恐怖する。っていうか、フードの男性の声、とても透き通っていて綺麗。意外と若いかも。まだ十代とかそのくらいじゃないかな。触れている掌がぶるぶると震えている。ちょっとくすぐったい。
うん、え、あれ、そこってーーー
『ちょ、ちょっと、ええぇぇぇ!!?そこ、私の、む、胸じゃない!?』
いや絶対おっぱい!あんまり無いけど、柔らかくないだろうけど、それは私の胸部です!!
これ声は出てるの!?私、喋れてるの!?
やめてって言いたいのに!
へ、変態じゃん!平然と変態じゃん!
平然変態罪だよ!なんだよそれ!警察呼ぶよ!!
最早意味分からなく騒いでいると、男性はフードを脱ぎ、顔をスッと上げた。
「ありがとうございます。メア様』
フードの下にあったのは、銀色の艶のある髪、白く美しい肌、キリッとした顔立ちと美しい翡翠の瞳。それから普通の人間とは異なる部分、長く尖った耳。
それは私の心を撃ち抜いた。
『エルフだああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』
その瞬間、私は前世の記憶を取り戻した。
ーーー座木芽愛。
幼少期から恋愛経験はゼロ。
それは己の将来を見据えての真面目さがもたらした結果であるが、実はもうひとつの理由があった事は、未だに誰にも話した事はなかった。
昔見たラノベに出てきたエルフ。
それが私の恋愛対象の全てである。
前世には、恋愛対象は居なかった、というだけだ。




