九話「眷属の出現、新しい身体の取得」
『だ、誰が君達のお母さんなのよッ!?』
こんな美少女二人の母になった覚えはない。
そもそも恋愛すらまともにしてないわ!
いや、うん••••••あれ、してない、よね?
何となく心にモヤがかかるのは、気のせいだろうか。
『ど、どうするんだっ、ルーナ!!さっそく拒否されたぞぉ、わたしら!お前の態度に問題あったんじゃないのかよぉ!』
『耳元でうるさいですの、ソルト。母上様は覚醒して間もないのだから、わたし達の事を知らなくて当然。混乱されているのですわ。あと、久々に顔を見たら、相変わらず元気だけが取り柄の、まるで小バエ。問題があるのはあなたの方ですのよ。大好き』
な、なんだこの子たち。
睨み合って喧嘩を始めたんだが。
ん?
横顔で気付いたが、耳が少し尖ってる。
もしかしてエルフなのかな?
しっかし、まぁ、超絶美少女だなぁ。
金髪の子は、澄んだ碧い瞳に長い睫毛、甘ったるい顔立ちは幼さを感じさせる。やや褐色、日焼けした様な肌色で、活発な元気っ子の印象だ。古代の民族衣装、あるいはベリーダンスをする時の様な格好をしており、全体的に布面積は少ない。
黒髪の子は、クールな印象のツリ目に赤い瞳、白雪のような真っ白な肌。当たり前に着熟す巫女装束は、凛とした雰囲気とミステリアスさを倍増させる。また、金髪の子より発育の良い体つきだ。
『お前ぇ!お母様の前で口が悪いぞぉ!あとぉ!語尾に“大好き”入れれば悪口全て許されるとか無いからなぁ!』
『黙るといいの。虫がいくら喚こうが母上様には見向きもされないわよ、塵クズ底辺。大好き』
しっかし、どうしたものか。
私を置いてきぼりにして、ハードな喧嘩を繰り広げる二人。本格的に付き合っていられない。いくらエルフかもしれないと言っても、私にも限界がある。
ぎゃーぎゃーと喚く二人に対し、
『あああああぁぁぁ!!うるさいわねッ!!!』
ーーーべチンッ!!
ツタを使って思い切り頭を叩いてやった。
二人は「いたぁ!」と同じリアクションをする。
『何なのアンタ達は!?私、急いでるの!邪魔するならどっかに行ってくれる!?』
我慢の限界で怒鳴ってみせると、二人はしょんぼりした顔で「ごめんなさい」と息ピッタリに言う。
素直に謝るのはよろしい。
まったく!まるで前世で同僚だった高梨と山崎を見てるみたいだ。あの二人も、性格が真逆だったから、良くぶつかり合ってたっけ。その度に私が喧嘩の仲裁に入っていたっけなぁ。懐かしいよ、ほんと。
『うぅ、お母様に怒られちゃったよぉ』
『母上様の折檻、素晴らしいの。ふぅ、大好き』
『••••••あのさぁ、私は君達のお母さんじゃないの。その“母親”みたいな呼び方、やめてくれない?』
二人は顔を見合わせ、目を丸くしている。
それから顎に手を当て、考える仕草をし、二人同時に思い付いた様に両手をポンッと合わせた。
『だったら“お姉様”にするけどぉ』
『だったら“姉上様”しますわ』
『そう言う問題じゃないわ!!!結局見知らぬ美少女と身内になってるのは変わりないじゃない!』
つ、疲れる。喉が痛いわ。
天使の笑顔ぷらす上目遣いの美少女。
最高過ぎるんだが、今は構っていられない。
二人のペースに巻き込まれている。
さっさとこの場を離れよう。
と、移動手段を探そうと辺りを見回していた所で、ふと目の前の二人の会話を思い出す。
『••••••ん?••••••二人は、えッ、ソルトとルーナ!?』
『そうだけどぉ、お姉様。あたしがソルト。アルヴィドの東部を守護する陽光樹で、お姉様の頼りになる眷属』
『そうですの、姉上様。わたしがルーナ。アルヴィドの西部を守護する月冥樹で、姉上様の寵愛する眷属』
クレアがチラッと話をしていた樹木精霊の名前!私の眷属!だから“母”という認識だったワケだ。そもそも眷属ってシステムなんだよ。
私、何も知らないんだけど。っていうか••••••
『何で二人は人間の姿してるのッ!?私と同じ樹木精霊なんでしょ!?』
おかしいよ!
どうして私はゴツゴツしたバリバリの“樹”で、この子たちは、ぴっちぴちのモチモチお肌、弾力のある柔らかな肉体を持っているんだよ!!
不公平じゃないかぁ!!
『わたしらは精霊だから、依代さえあれば、受肉も出来るんだけどぉ』
『依代なら妖魔樹さえ居れば、簡単に可能ですわよ』
『そ、それッ!すぐ出来る!?やり方を教えて!!』
『もちろん!』
『お任せですわ』
っていうか、妖魔樹かなり万能じゃん。
あとで何かしてあげたいくらいなんだけど。
ソルトとルーナが、どちらが妖魔樹を用意するかで喧嘩を始めようとしたので、また引っ叩いた後、じゃんけんを教えて勝利したルーナに任せた。
『ーーー召命、ですの』
ルーナが唱えると、地面に魔法陣のようなものが浮かび上がり、中心から妖魔樹が姿を現す。
すごっ!魔法による召喚、みたいなチカラかな?
『では、妖魔樹に手を添えてくださいませ』
『あ、うん』
『そうしましたら、構成する肉体を思い浮かべ、妖魔樹をお好みの容姿に作り替えて下さいですの』
と、言われても、難しくない?
つまり自分の元の容姿をイメージするんだよね。
うわぁー、ぶっちゃけ自分の見た目なんて気にした事なんて無かったしなぁ。覚えてない。鏡だってあんまりまともに見てなかったし、社会人としての適度な身嗜みを整えるくらいしかしていなかった。
あ、でも、元の自分の容姿を模倣する必要なんて無いのかな。新しい姿形でも良いのかもしれない。
でもなぁ、自分の容姿を美少女にしたり、セクシーな身体にするのって、理想ではありつつも、なんかちょっと良くない気がする。
『••••••あのさぁ、どっちでもいいからさ、私の容姿を作ってくれないかな?』
『『••••••えッ!?』』
二人は目を輝かせる。
で、言った後で後悔した。
分かりたくもないのに分かる。
ソルトとルーナは顔を見合わせ、睨み合う。
絶対に、喧嘩するやつ。
『それあたしがやるぅ!あたしのセンスに任せてぇ!絶対にお姉様を美少女にするぅ!完璧すぎる美少女にしてみせるからあぁぁぁ!!』
『ほざきなさいッ!この虫ケラ!!あなたのセンスに任せたら、姉上様を醜い便所バエにしてしまうのよッ!さっさとそこをお退きなさい!大好き』
一度、小さく溜息を吐く。
それから、しばらくこの二人に面倒を掛けらそうな予感を感じつつ、二度目の溜息を大袈裟に漏らした。
◇◇◇
「うーん、これが、私の身体?」
「似合ってるよぉ、お姉様!」
「似合ってますわ、姉上様!」
私は、頭、顔、胸、腰、尻、の順番で自分の身体をじっくりと触り、その柔らかな肉体に感激し、涙する。
やっとヒトの姿を手に入れたッ!
素晴らしい!素晴らしいよ、肉体!!
おかげで念話も必要とせず、生の声をお届け出来る。
ソルトとルーナのおかげだ。
散々喧嘩した挙句、パーツ毎にお互いの意見を取り入れて作り出した依代に、私が魂を移して受肉に成功。
意識を移した時とは異なり、魂を核として魔力で血肉が構成されているので、限りなく人間の身体に近い。ただ、どうも制約はあるらしいが、とりあえずは助かる。これで再び自由が手に入った。
「でも、ベースとなった木彫の依代は見たけど、肉付いた身体を、客観的に見てみたいんだけど••••••色々と心配だから」
だって二人の理想とした姿をごちゃまぜにしたイメージだよね?それって、とんでもキメラになってない?
顔のパーツとか捻じ曲がったりしてそうだ。
しかも。
さっそくだけど身体は異様に小さい気がする。
目の前に立つソルトとルーナが、さっきより大きく感じるんだよね。
これって、私、物理的に小さくなってない?
「でしたら」
と、ルーナが氷で作った鏡を用意してくれた。
恐る恐る近付き、中を覗き込む。
「••••••え、えええぇぇぇ!!?」
鏡に映ってのは、見た事もない、可憐な女の子。
紫色の丸い瞳、バランスの良い整った顔立ち、嬉々として躍る銀髪。私が、ニコッと笑えば同じく、ぷくっと膨れっ面をすれば同じく、変顔をすれば同じく表情を変える。これが私の新しい顔!?
「ちょ!ちょっと!ハードル高すぎッ!やばいってこんな美少女!畏れ多すぎるってばぁ!!?」
「そんな事はないよなぁ、ルーナ。まだまだ足りないくらいだろ?」
「それはソルトに激しく同意ですわ。もっとお時間があれば、完璧なパーツをもっと足しますのに••••••」
「え、えぇー?」
信じられず顔を何度もペタペタと触る。
こ、こんなの私じゃないんだけど!?
元の要素とか、たぶん一切ない。
そもそも大きな問題がもう一つある。
「私、なんでこんなに小さいのッ!?」
「それは愛くるしいお姉様を、思う存分に愛でる為だよぉ••••••うへへへへ」
「手の平サイズの姉上様、最高ですわ。大好きぃ」
二人してヨダレを垂らすな!
鏡に映る私の全体像は、まるで御伽話の妖精だ。
そう、ティンカーベル並みのサイズ。
ちゃんと背中には羽根が付いていて、うん、当たり前の様に飛べてしまう。
自由に移動出来る身体を手に入れた所か、大空を自由に舞う事の出来る身体になったんだけど。
「あ、後はこれも外せない要素だったねぇー」
「うんうん。最高の要素でしたわねー」
「え?」
ソルトとルーナは、私の銀色の髪を両端から持ち、露わになった“それ”を見せてくれた。
「あ」
エルフほど主張はしておらず、慎ましく、それでいて存在感のある、小さく尖った耳先。
••••••はい。私、最高かよ。




