序章
はじめまして。宜しくお願い致します
「ちょっと座木!」
「ん?」
ボーっとしながら飲み屋街を歩いていると、後ろから会社の同期である高梨が、肩を掴んで寄って来た。
酒臭いな。って、私もか。さっきまで社外ミーティングと称した三対三の合コンをしてきたばかり。同じ会社の企画部のイケメンに声掛けて来た!と意気込んでいた高梨からすると、おそらく私に物申したい事があるのだろう。
「あんたさぁ!さっきの合コン、何であんなにつまらなそうにしてたの!?文句あったわけ!?あいつら一応、うちの会社では人気枠だったんだぞ!?」
「ご、ごめんって」
••••••やっぱり。
高梨が怒るのも当然か。自分で言うのも何だけど、たしかにアレは合コンとして成立してなかったか。
私はどうも恋愛ってものに興味がなくて、仕事ばっかりしてきた。何なら学生時代は勉強に明け暮れていたし、夜遊びだってほとんどした事がなかった。結果、27歳になるまでお付き合いした男性が居た事がない。どうにも恋愛感情っていうものが欠落しているのだ。好きになった異性も同性も居ないし、みんながイケメンと呼ぶ男性と顔を合わせても、何の反応もする事が出来ない。いや、私にだってもちろん理想系が居ないワケではないけど••••••。
「ったく、そろそろ“人間”にも興味持てよなぁ!」
「あ、あはは」
今回の合コン、仕事の話を淡々としてしまい、むしろ男性陣にダメ出しすらしてしまった。
思い返せば、死んだ顔してたな、あいつら。
「二人とも待ってよー!」
と、後ろからもう一人の同期である山崎が走り寄って来た。
「おい山崎!どこ行ってたんだ!?これからカラオケだ!ストレス発散プラス反省会すんぞ!!」
「えぇー、反省会は、やだなー」
高梨は見た目も口調も男勝りだから、さっきの合コンでは私が空気をブチ壊したのもあるが、なかなか良い相手が見つからないらしい。同い歳で強い口調と圧さえ無ければ美形だからモテるとは思うけど。
一方で山崎は清純派で妹感があり、男性社員からも人気がある。うちの会社では高梨と並び、美人受付嬢として、社内どころか取引先にすらファンが居るらしい。
「っていうか、さっき何してたんだ?」
「あー、企画部の荻野くん、だったかなぁ。連絡先を交換して欲しいって言われたから、交換したんだぁ」
「はぁ!?ちょっ、あんた、抜け駆け!?」
「えー?違うよー、ただ連絡先交換しただけだし、私、彼氏居るしー。けど、たまの夜の相手くらいにはなるでしょー」
「え、えぇー?」
にこにこと笑顔を浮かべながら話をする山崎。
なんて恐ろしい子なの!
高梨ってば、めっちゃ引いてるし。
これが清純派ってのは嘘だね。
「でも、さっきの子たち皆、座木芽愛っていう存在に興味があったから参加したみたいだけどねー」
「そりゃそうだろー!気に食わないけど、今回の合コンだって、座木の名前を出したから、あの男どもは乗り気になったんだからー」
「芽愛ちゃんってば、社内では有名人だもんねー」
「男性社員が優遇される会社の風潮の中で、若手なのに部長に昇進して、バンバン営業成績上位に捻じ込んで、おまけに美人ってなればそうだよなー」
それは褒めすぎ。
恋愛に興味がない代わりに、安定した生活を持続したいって目標の為に仕事してきただけ。全てはお金と地位が欲しかったからであり、その為に学生の頃から勉強だってして来たのだ。だからこそ合コンでも、チャラチャラと、さらには下心丸出しの男性社員たちに腹が立ち、ついついお説教してしまった。
「ま、恋愛すらして来なかった座木だもんなぁー!その内、潤いも無くなって、森の精霊になっちまうぞー?」
「な、何よ、森の精霊って••••••」
「だって男は30歳までドーテー貫いたら妖精になっちまうって言うだろ?だったら女だってーーー」
ん?
笑い合う高梨と山崎の後ろから、車が直進して来る。
かなりのスピードだ。みるみる近付く。
え、ちょっと、待って。
ここは飲み屋街で、車の侵入禁止エリアだ。
いやいや、仕入の為に乗り込んで来た車だよね?
え、いや、違う。アレって居眠り運転ーーー
そう考え出した時には、私は二人を突き飛ばし、迫り来る車に身体が接触しそうになっていた。
時間は遅く流れて行ったが、痛みを感じる事もなく、車が衝突したという実感もなく、ただ私の意識は、突然にプツンと途切れてしまった。




