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第1話:霧に包まれた丘 ―孤独な国家の始まり―
丘の上、薄霧が立ち込める。瓦屋根の古い建物が点在する廃村は、誰も足を踏み入れた形跡がない。湿った土の匂い、倒れた看板の木の香りが鼻をかすめ、微かに鳥のさえずりが聞こえるだけの静寂。
「……ここなら、やれる」
翼は手帳を開き、鉛筆で建物や水路、資材搬入路を線で結ぶ。瓦の軋む音に反応しながら、彼は指先で倒れた木材を確認する。冷たく湿った木の感触、踏みしめる土の柔らかさが、緊張と高揚を同時に呼び覚ます。
スマホの画面を確認する。「廃村国家建設プロジェクト 仲間募集」の文字。しかし応募者はゼロ。孤独感が胸を締め付けるが、それ以上に確かな使命感が湧き上がる。
丘を降り、古屋の前に立つ。瓦が崩れかけ、土埃が舞う。手を伸ばして支える。古屋の扉を押すと、埃をかぶった机と、錆びついた金属の装置が目に入る。
「ここから、物語が始まる……」
翼の視線の先、古屋の奥で微かに揺れる影。霧の中、何かが動いた気配に胸が高鳴る。孤独と不安の中で、初めての決断が心に刻まれた。
瓦の軋み、湿った土の匂い、冷たい風、そして未知の可能性――すべてが翼の胸に迫る。彼は深く息を吸い、一歩、廃村の奥へ踏み出した。




