カート、夜、そして二人の少女
キャラバンが夜のために停泊した時には、既に日が沈みかけていた。目尻に傷のある大男の探検隊の隊長が、ダレクとヴィタリの荷馬車に近づいてきた。
「今夜は君たちの部隊が巡回する」と、隊長は腕を組んで宣言した。
ダレクはすぐに任務を放棄しようとした。
「いやいや、荷馬車に荷物を積んでるじゃないか! どうして置いていけるんだ? それにここには40人もの人間がいて、その半分はきっと俺を絞め殺そうと夢見ているだろう!」
隊長はひるまなかった。
「二人一組で行くんだ。男同士、女同士。君たちの『巡回』はよく知っている。木の陰に隠れてキスしたりハグしたり… だから、そうするしかないんだ。」
ダレクと二人きりで夜を過ごすという考えに既に激昂していたシオリは、たちまちうなだれ落ち、真っ赤な瞳には芝居がかった憤りが浮かんでいた。
リネヤは「女の子同士」という言葉を聞いて、耳まで真っ赤に染まるほど顔を赤らめ、矢の確認に忙しいふりをして急に背を向けた。
-「わかった、わかった…」- ダレクは手を振った。「ヴィタリアと私は行く。女の子たちは休ませてあげる。」
-「ええ、誰かが朝までに酔いが覚めないといけないから…」- ヴィタリアは呟き、シオリを一瞥した。シオリはすでにダレクを後ろから抱きしめ、耳元で何かを囁いていた。
-「ダーリン、もし寒くなったら、私が…」
-「わかった、わかった!」- ダレクは優しくリネヤを押しのけた。「私たちはただ行って、見張りをして戻ってくるだけ。冒険はしない。」
シオリは口を尖らせたが、リネアはまだ顔を赤らめたまま、鋭く言った。
— *もし二人とも痣だらけで帰ってきたら、私が殺してやる*
—「約束する」ダレクとヴィタリアは声を揃えて答えた。
夜の静寂を破るのは、遠くで消えゆく火の燃える音だけだった。リネアとシオリは、ゴブリンの品々で作った柔らかい布で覆われた、荷馬車内の間に合わせのベッドに横たわった。
— *もういいわ。明日は長い一日になるわ。もう寝る時間よ* — リネアはそう言い、横向きになり、わざとらしく目を閉じた。
シオリはニヤリと笑い、真っ赤な瞳が暗闇の中で輝いた。
— *あら、人間のことが心配じゃないの?~* — 彼女は顎を手で支えながら、優しい声で尋ねた。
リネアは耳をぴくぴくさせながら、突然目を開けた。
— *違う…違う…彼は「私の男」じゃない!* — 彼女はそう言って顔を背けたが、頬はすでに赤くなっていた。
それから、話題を変えようと付け加えた。
— *ダレクが今キャンプの誰かとキスしてるんじゃないかって心配じゃないの?*
詩織は、くだらない冗談を聞いたかのように笑った。
— *あら、リンちゃん、彼のことはよく知ってるわ~酔っ払って、喧嘩して、下品な歌を歌う…なのに、浮気するの?はっ!* — 彼女はふざけてこめかみを指で回した。— *彼は、これがどんな結末を迎えるか分かっているわ。*
リネアは鼻で笑ったが、何も言わなかった。
少し沈黙が流れた後、詩織はより真剣に続けた。
— *どうしてヴィタリアが好きなのを隠しているの?*
リネアはベッドに飛び上がった。
— *え、何?!これは完全に…!私は…じゃない!彼はただ…!* ― 高い声で途切れ、耳が頭に押し当てられた。
詩織は彼女の反応を見ながら、ただ微笑んだ。
― *ああ、そうか~ただの「同僚」「ただの同志」でしょ?* ― 彼女は嘘の溜息をついた。― *でも、今日パトロールに行った時、5分おきに車両のドアをチラチラ見てた人は誰?*
リネアは枕を握りしめ、「馬鹿げた思い込み」とか「くだらないこと」とか、聞き取れない言葉を呟いた。
― *あのね~ ― 詩織は仰向けになり、天井を見上げた。― 本当のことを話せば… もしかしたら気にしないかも?*
― *寝なさい!* ― リネアは吠え、毛布を頭からかぶって、会話から完全に身を隠した。
詩織はただ静かにくすくす笑って目を閉じた。
リネアの言葉の後、詩織は薄暗がりの中で、深紅の瞳を輝かせながら、神秘的な笑みを浮かべた。
――「ダレクは見た目ほどだらしない男じゃないって知ってた?」――彼女の声は小さくなり、ほとんどささやくような声になったが、一言一句ははっきりと、まるで短剣で突き刺されたように聞こえた。
リネアは警戒していたが、好奇心を隠せなかった。耳がぴくっと動き、指で毛布の端を押さえた。
――「何言ってるの?」――彼女は無関心なふりをしようと呟いた。
詩織は手で頭を支えながら、横に寝返りを打った。
――「まあ、みんなは彼をただの酔っ払いで、今日を生きるおふざけ屋だと思ってるんだけど…でも実際は…」――彼女は少し間を置いて、その場を楽しんだ。――「彼は自分が思っているよりずっと賢くて、ずっと危険なのよ。」
リネアは眉を上げたが、黙っていた。
— *そしてセックスでは…* — 詩織は突然くすくす笑い、手で口を覆った。 — *彼は本当に可愛いわ~みんな、彼が支配的で、私を弄ぶタイプだと思ってるの…でも二人きりになると…*
彼女の声は、何か楽しいことを思い出すかのように、力なく響いた。
— *彼は本当に…弱いの。私のルールで動くの。*
リネアはベッドに飛び上がり、顔が火照った。
— *そんなこと聞いてないわよ!* — 彼女はそう呟き、枕を掴んで顔を埋めた。
詩織はその効果に満足して、吹き出した。
— *あら、リンちゃん、「キス」を始めたのはあなたね~* — 彼女はふざけて舌打ちした。 — *でも心配しないで、あなたのヴィタリーも見た目ほど単純じゃないはず…手伝ってあげましょうか—*
— *寝なさい!* — リネアが大声で叫んだので、馬車が揺れた。
シオリはニヤリと笑って、ようやく心地よく落ち着き、目を閉じた。
— *おっしゃる通りですね~*
リネアは馬車の天井を見つめたまま、耳をぴくぴくさせていた。10分が経ったが、まだ眠れなかった。
――*シオリ…寝てるの?*――ついに我慢できなくなった。
――*ううん…何?*――吸血鬼はすぐに答えたが、その声は夜にしては明るすぎた。
リネアは少しためらい、それから絞り出した。
――*どう思う…彼は私のことが好きなの?*
シオリはくすくす笑いながら、リネアの方を向いた。
――*あら、リンちゃん、まるで初デートのティーンエイジャーみたいね~*
――*黙って!*――エルフはリネアに枕を投げつけたが、シオリは器用に避けた。
――*もちろん好きよ!あなたが顔を背けるたびに、彼はあなたの…*
— *そういうことじゃないわ!* — リネアは彼女の言葉を遮ったが、すでに耳はぴくぴく動き、頬は熱くなっていた。
詩織は肘をついて立ち上がり、リネアを観察した。
— *ところで…どうしてそんな顔をしているの? 典型的なツンデレみたいでしょ。「うっ、うっ、大嫌いよ、このクソ女!」 — なのに、トマトみたいに真っ赤になっているわ。*
リネアは腕を組んだ。
— *顔をしかめてなんかいないわ!「うっ」なんて言ってないわ!*
— *本当?* — 詩織は眉を上げた。
エルフは唸り声を上げたが、すぐに萎縮し、声は小さくなった。
— *…子供の頃、母は私に、男は冷たくて近寄りがたい女しか高く評価しないって言っていたわ。優しすぎると弱い女だと思われてしまうって。ここにいます…*
彼女は黙り込み、そして突然気まぐれに付け加えた。
— *でも、ダメよ!私は可愛いし、胸はBサイズだし、お尻は…まあ、普通!なのに、どうして彼は…*
詩織は目を輝かせながら、突然飛び上がった。
— *おおおお~うちのエルフちゃんは変態!* — そう言いながら、彼女はリネアに飛びかかり、胸を掴もうとした。
— *あああ!放っておいて!* — リネアは抵抗したが、詩織は譲らなかった。
乱闘が始まった。
枕が飛び上がり、毛布がくるくると回り、数分後、二人とも息を切らして笑いながら床に倒れた。
— *変態エルフ~* — 詩織は彼女を指差してからかった。
「ちっちゃな胸の…吸血鬼!」とリネアは思わず口を手で覆った。
シオリは凍りついたように息を呑んだが、それから吹き出して笑った。
「あら、あなたの舌は私の牙より鋭いのね!」
リネアは鼻を鳴らしたが、同時に笑った。
馬車の隙間から最初の陽光が差し込んできた頃、ダレクはそっとドアを開けた。彼の視線はすぐにリネアに注がれた。彼女は毛布にくるまり、床の上でぐっすり眠っていた。銀髪は乱れ、口はわずかに開いていた。
「なんてことだ…」と彼は呟いた。
彼の隣に座っていたシオリは、すぐに視線を上げた。彼女の真紅の瞳は輝き、唇にはいたずらっぽい笑みが浮かんだ。それは彼だけに見せる笑みだった。
「ダーリン~」と彼女はすぐに彼にしがみつき、腕を彼の首に回した。
ダレクは眉を上げたが、離れようとはしなかった。
— 「あなた…全然、いつもの彼女と違うわ。」
— 「どうして?」 — 彼女は彼の耳元で囁いた。「私の本当の姿、知ってるでしょ。」
彼女の声は、いつもの「いい子」の優しさがなく、物憂げだった。
— 後ろに立っていたヴィタリアが、彼の拳に咳き込んだ。
— 「私は…馬のところに行ってきます。」
— 「臆病者め」ダレクは後ろから叫んだが、シオリはすでに彼を引き寄せ、シャツの襟を弄んでいた。
— 「二人きりになるのは久しぶりね~」 — 彼女は指を彼の首筋に這わせ、軽く牙に触れた。
— 「シオリ、ここはキャンプ地。見つかるかもしれない」ダレクは嫌悪感を込めて呟こうとしたが、声が震えていた。
— 「あら、気に入らないの?」 — 彼女は彼に体を押し付け、息が彼の肌を焦がした。
その時、リネアは寝言を吐き、寝返りを打ち、ひっくり返った古いワインボトルに足でぶつかりそうになった。
シオリは静かに、しかし鐘のように大きく笑った。
――「ねえ、ダーリン、酔っ払ったエルフを起こす?それとも…」――彼女の指が彼のシャツの下に滑り込んだ。
ダレクはため息をついたが、ニヤリと笑った。
――「ちくしょう…わかった。でも、彼女が起きなければね。」
シオリは嬉しそうに彼に体を押し付けた。すると、どこか遠くから主催者の声が聞こえた。
――「起きろ!30分後に出発するぞ!」
眠いながらも酔いは覚めていたダレクは、シオリからそっと離れ、眠っているリネアに近づいた。彼は彼女の肩を軽く揺すった。
――「おい、エルフ、起きろ。着替えなきゃ。」
半分酔って半分眠っていたリネアは、何が起こっているのかさえ理解していなかったが、素直に立ち上がり、よろめきながら馬車から降り、後ろを見ることもなく、ヴィタリの手綱の横にどさりと腰を下ろした。
文字通り2分が経ち、彼女は彼の肩に頭を落とし、呼吸が整えられた。
ヴィタリは彼女を起こさず、軽く彼女を見ただけで、それから馬車のドアを見てニヤリと笑った。
「なんて仲間なんだ…」
シオリと一緒に馬車の中に残っていたダレクは、マスクを外した。いつものわざとらしい無礼さはどこかに消えていた。
「君、完全に頭がおかしいのか?」と彼は呟いたが、その声には怒りはなく、疲れた心配だけがこもっていた。
酔ってふざけていたシオリは、すぐに彼にしがみつき、首に腕を回した。
— *ダーリン~こんな風に私を置いて行かないでよね?*
—「離れて…ダメ。でも、次の段階には進めないよ」彼はきっぱりと言った。彼女の手を押しのけたが、離さなかった。
彼女は眉をひそめたが、反論はしなかった。代わりに、彼の胸に体を押し付け、軽く、ほとんど優しいような噛みつきで首筋を軽く噛んだ。
ダレクはため息をついたが、彼女を押しのけなかった。
—「ちくしょう…わかったわ。でも、愛撫だけよ。それに『サプライズ』はなし。」
—*約束するわ~*—彼女は目を閉じ、彼の温もりを味わった。