遺跡への道の始まり
ヴィタリアは朝日とともに目を覚ました。視線は隣のベッドに落ちた。ダレクは静かにいびきをかき、小さな吸血鬼は彼の首にしがみつき、優しく血を吸っていた。
「何だ…」ヴィタリアは口を開いた。
シオリは急に頭を上げた。二人の目が合った。
一瞬、気まずい雰囲気が漂った。
シオリの深紅の瞳孔は開き、頬はピンク色に染まり、彼女は急に顔を背け、手のひらで口を覆った。すると、さらに赤くなり、毛布の中に素早く姿を消した。
ヴィタリアは急いで背を向け、朝食のことを呟きながら出て行った。
30分後
ダレクが一人で降りてきた。首には二つの小さな傷があった。彼はテーブルにどさっと座り込み、すぐにエールを注文した。
「二日酔いに効く薬が欲しい…」と彼はかすれた声で言った。
ヴィタリアは彼の首筋に頷いた。
「これがあなたの朝の儀式になったの?」
ダレクはニヤリと笑った。
- ああ、朝のオナニーみたいなもんだ。ヴァンパイアにとっては、一日をいいスタートにするためのものなんだ。
- …ちくしょう。
二人は黙って飲み物をすすっていた。
- それで、今日の予定は… ヴィタリアが話し始めた。- 私はリネアとデート、あなたは彼女の両親と会う…
- 家族… ダレクが訂正した。
- ああ、そうだ。ただ…
二人は同時にポケットに手を入れた。
空っぽだ。
ダレクは最後のタバコを取り出し、半分に折ってヴィタリアに渡した。
- それで、今日は…
- … 儲かるんだ… ヴィタリアはそう言い残し、火をつけた。
ヴィタリアは朝日に目を細めた。二日酔いで顔が青ざめたダレクは、前かがみになって掲示板を指差していた。
「なんてひどい…」ヴィタリーはメモを見ながら、かすれた声で言った。「一体誰がこんなことを思いついたんだ?」
ダレクは頭を抱え、呟いた。
「クソッ…耳から脳みそが飛び出しそうだ…」
1. 「人食いノーム(ケツを噛むのが好き)を捕まえろ」
「*あら、お前の親戚だ!*」ダレクはくすくす笑ったが、すぐにこめかみの痛みで呻き声を上げた。
「くたばれ。ケツを噛みちぎられるのは嫌だ。」
2. 「伯爵の失くした靴下を返せ。容疑者:自力で逃げた。」
――*クソッ、これはもう診療所だ…*
――もしかしたら、ノームと共謀したのかも?
3. 「ドラゴンライマーを落ち着かせろ。パン屋に座って、泣きじゃくりながらクロワッサンとソネットを要求している。」
―― *ああ、これが依頼人だ!* ダレクは元気を取り戻したが、すぐに胃袋を掴んだ。――くそ…吐きそう…
――二日酔いのままドラゴンのところに行くのか?
4. 「魔術師が呪文をどこに置いたか思い出せるように手伝ってやれ。報酬は『永遠の感謝』(と密造酒の半分)だ。」
―― *くそっ。「永遠の感謝」とは、10年後に彼が電話をかけてきた時のことだ。「どうやって俺を助けてくれたか覚えているか?」*
5. 「『緊急』の手紙を届けろ。警告:触れると卑猥な言葉を叫ぶ。」
―― *噛まれるんじゃないか?*
――もしそうなら、少なくとも退屈ではないだろう。
6. 「実験に参加して。『オークにエルフのワインを飲ませたらどうなる?』 保証付き:1) 喧嘩、2) 破壊、3) ダレクよりひどい二日酔い。 」
— *ああ、私たちだ!*
— 違う。何が起こるかはもう分かってる。最悪だ。
7. 「呪われた家で一晩過ごす。靴下、下着、そして自尊心が消える。」
— *また靴下! あの人食いノームが食べちゃうかも?*
— 興味湧いた。
8. 「猫に魔法を教える。猫は魔法をかけられた大魔道士だと主張するが、実際には嫌な奴だ。」
— *じゃあ、君みたいだな。*
— くたばれ。
9. 「庭のベンチに嫉妬しているユニコーンを落ち着かせろ。あいつはもう2回も人を埋葬している。」
— *ちくしょう、これってマジで変…*
10. 「トロールとポーカーをやる。注意:あいつはズルをするけど、見つかったら怒って食べられちゃうよ。」
— *私たちもズルしたら?*
— そしたらすぐに食べられちゃう。でも、少なくとも恨みは残らない。
ヴィタリアはため息をつき、鼻筋をこすった。
— 一体全体… わかった、何になるんだ?
二日酔いでまだ青白いダレクが答えようと口を開いたその時、最上階からシオリが軽くジャンプして降りてきた。彼女は優雅にダレクの膝の上に着地し、首に腕を回し、耳元で何かを囁いた。
ダレクは凍りつき、目を見開いた。
「えーと… ヴィタリア、5分で済む用事があるんだけど…」彼は緊張しながら、首にできたばかりの噛み跡を掻いた。
ヴィタリアは眉を上げたが、ダレクは既に彼に雄弁な表情を向けていた――*「朝の穴」のことみたいに*。
「ちくしょう…」ヴィタリアは呆れたように目を回した。「5分だ。もしそこで何か壊したら、直してやる。」
ダレクは時間を無駄にすることなく、シオリの手を取り、二階へ向かった。
ダレクが部屋のドアをバタンと閉める間もなく、シオリは無邪気な「いい子」から捕食者へと一変した。
「*今日の朝の儀式を忘れたわね…」彼女の声は低く、媚びへつらうようになり、薄暗い中で彼女の赤い瞳がきらめいた。
「ちくしょう、言ったでしょ、二日酔いよ!」ダレクは冗談を言おうとしたが、シオリはすでに彼を壁に押し付けていた。
- *それなら、仲直りしよう…*
彼女は軽々と彼をベッドに押し倒し、首に噛みつき、そして手を滑らせてベルトを探った…
階下
ヴィタリアはタバコの火を消し、時計を見て深いため息をついた。
- 5分だ、ちくしょう…
ギルドを出て、角を曲がったところに見覚えのある人影を見つけた。
- リネア?
エルフは身震いし、急に振り返り、すぐに否定し始めた。
- *尾行してたんじゃない!ただ…通り過ぎただけ!偶然!*
彼女の耳がぴくぴく動き、頬が赤くなった。
ヴィタリアは真剣なふりをしてうなずいた。
- ええ、もちろん。ただ「通りすがり」なだけよ。それに、10分も角に立っていたのは、ただ雰囲気を盛り上げるためだけ?
リーニャは腕を組んで、唇を尖らせて背を向けた。
- *あなたは自分のことを大事にしすぎよ…*
しかし、彼女の口角が少し動いた。
ヴィタリアはニヤリと笑って一歩近づいた。
- ええ、いいわ。あなたが「偶然」ここに来たのなら…この二人が…えーと…「用事を片付ける」間、散歩でもしましょうか?
リーニャは2階の窓(怪しい音が聞こえてくる)をちらりと見て、唇を噛み締めてうなずいた。
- *わかった…でも、他にやることがないから!*
静かな町の通りには人影はなく、どこか遠くで酔っ払ったノームが叫んでいるだけだった。この地域ではよくあることだ。ヴィタリーは埃っぽい舗道をブーツで踏み鳴らしながら、安タバコに火をつけた。
「お前の世界はなんてクソみたいなんだ」と、煙を吐き出しながら呟いた。「ここに来て一週間になるが、もう二度も死にかけた。」
リネヤは冷たい表情を崩さずに彼と並んで歩いたが、耳が苛立ちでぴくぴく動いた。
「※もし口出しするべきでないところに口出ししなければ、こんな面倒なことは避けられたかもしれないのに。」
「そうか。ダレクは賭けのために釘を打つような奴だ。」ヴィタリーはくすくす笑った。「でも、くそ、少なくともギルドは今のところ我慢している。もっとも、あのクソ野郎、またあのクソ店員が怪訝な顔をしているが…」
リネヤは軽く鼻に皺を寄せたが、何も言わなかった。彼の無礼さには我慢できなかったが…彼の率直さには何かが気に入らなかった。
――「ところで」――彼女はまるで偶然のように突然言った。――「私の部隊は街の北にある遺跡を偵察に行くんです」
ヴィタリアは言葉を止め、目を細めた。
――「それで?」
――「それで…」――彼女は腕を組んで、急に背を向けた。――「他にやることないなら…一緒に連れて行ってもいいわ。一時的にだけど」
――「うわあ」――ヴィタリアは鼻で笑った。――「マジかよ? 私たちみたいな「よそ者の野郎」が、あなたの精鋭部隊にいるなんて?」
――「気にしないで!」――彼女の耳がぴくぴく動き、頬がほんのり赤くなった。――「ただ…人手が足りないの。それに、あなたたちは田舎者かもしれないけど…戦えば外さないわよ」
ヴィタリアは笑った。
――「まあ、あなたって本当にツンデレね」
— *何だって?* — 彼女は目を輝かせながら、急に振り返った。
— おいおい、興奮するなよ、と彼は手を振った。 — マジで、入れるぞ。ただ、ダレクに電話したことは内緒だ。
— *なぜ?*
— だって、あのバカがすぐに「エルフツナ」だの「俺に惚れてる」だのと言い出して、こんなくだらない話を聞かされるからな。
リネアは鼻で笑ったが、口の端に微笑みが浮かんだ。
— *わかった。でも、もし遅れたら、ここで腐らせるわよ。*
— 間違いない、とヴィタリーはタバコを吸い終え、彼の足元に投げつけた。
— *つまり2時間後…*
— ちくしょう… — 彼はうめいた。 — わかった、なんとかして起きる。もし吸血鬼が明日の朝までにダレクを仕留めなければ。
――「彼の問題よ」――リネアは無関心に言ったが、また耳がぴくっと動いた。
ヴィタリアはニヤリと笑った。
ああ、怒ると可愛いわ。
ヴィタリアとリネアが騒がしいギルドホールに入ると、まず目に飛び込んできたのは、まるで裏返しになったばかりの男のような表情でテーブルに座るダレクだった。髪は乱れ、シャツのボタンは外れ、首には生々しい噛み跡があった。シオリは彼の膝の上に座り、優しく微笑みながら耳元で何かを囁き、時折額に指を突っ込んだ。
しかし、二人が近づくと、吸血鬼はたちまち「変身」した。
――「あら、ヴィタリア!」それに…えっと…リネア?* 彼女は目を大きく見開き、恥ずかしそうに口を手で覆った。 - *ただ…重要なことを話し合っていただけなのに!*
ダレクはゆっくりと彼らの方を向いた。
- ちくしょう… - 彼の声はまるでノームの隊列に轢かれたかのようだった。 - 彼女は…彼女は…
シオリは優しく彼の頭を撫でた。
- *かわいそうに、疲れてるんだね~*
ヴィタリアはくすくす笑い、向かいのベンチにどさりと座った。
- なあ、また「重要な交渉」だって?
- 彼女は… - ダレクはシオリを指差した。 - 3回…3回だ、クソ女…
- *まあ、自分で望んだんだろうな~* - シオリはふざけて袖で顔を覆ったが、その赤い目には勝利の色が浮かんでいた。
リネアは顔をしかめ、苛立ちで耳をぴくぴくさせた。
— *いつもこんなことで忙しいのに、どうやって何かやってるの?*
— できるわよ!— ダレクは急に元気を取り戻したが、すぐに頭を押さえた。— ああ、ちくしょう…
ヴィタリアはこの騒ぎを無視して、テーブルに手を叩きつけた。
— とにかく、よく聞きなさい。部隊に編成されるのよ。
ダレクは眉を上げた。
— 「私たち」って誰? どこ?
— *私の部隊よ。*— リネアは腕を組みながら冷たく言った。— *2時間後に出発するわ。街の北にある遺跡から。*
— 2時間後だって?!— ダレクは飛び上がったが、すぐに腰を押さえた。— あ、あ、あ、ビッチ…
シオリは甘く笑った。
— *じゃあ、準備してよ、ヒーロー~*
— 一体どういう準備だっていうの?! — 彼は目の下のクマを指差した。 — ちゃんと立つことさえできない!
ヴィタリアはため息をついた。
— じゃあ、ハイキングは大変ね。でも、シオリは休めるわよ。
— *ああ、一緒に行ってもいいわよ~* — 吸血鬼は突然そう言って、両手を組んだ。
リネアは眉をひそめた。
— *君はチームに入ってないね。*
— *でも、私は…うーん…サポートはできるわ!* — シオリは天使のような目をした。
— だめ。吸血鬼はだめよ、とエルフはきっぱりと言った。
リネアが出口に向かって一歩踏み出したその時、シオリが彼女の前に現れた。彼女は両手を胸の前で組んで、懇願するような仕草をした。
— *リンたやーやん~* — 彼女の真っ赤な瞳が突然大きく見開かれ、潤んだ。 — *お願いだから、私も連れて行って!すごく役に立つわ!*
エルフは通り過ぎようとしたが、吸血鬼は巧みに彼女の袖を遮った。
— *放っておいて!あなたは部隊にもいないのよ!*
— *でも、私はダレクの心の中にいるのよ~* — シオリはふざけてウィンクし、それからヴィタリアに意味ありげな視線を送った。 — *それとも…もしかしたら、私があなたの残忍な小男に目を向けるのではないかと心配しているの?*
リニャは怒り狂い、耳を頭に押し当てた。
— *何だって?!こんなの馬鹿げてる!*
— *あら、あなたの頬、すごく真っ赤ね~* — 吸血鬼は恥ずかしそうに袖で口を覆った。 — *心配しないで。私は役立たずのチンピラの方がいいわ。君のヴィタリアは…私の好みにはちょっと…地味すぎる。
ダレクの脳裏に、ある考えが浮かんだ。「だから、少なくともハイキング中は彼女から解放されるだろう…」
「ちくしょう…」シオリが彼を放っておかないのは明らかだと気づき、彼は声を絞り出した。
一方、リネアは怒りで顔を赤らめ、鋭く息を吐いた。
— *わかった!地獄に落ちろ!でも、もし一度でも任務に失敗したら、私が銀の短剣で一番近くの木に釘付けにしてやる!*
— *万歳!* — シオリはすぐに満面の笑みを浮かべ、無邪気な少女に戻り、ダレクの背後に立って彼の首に腕を回した。— *聞こえたか、ダーリン?今、私たちは一緒にハイキングに出かけているんだぞ~*
ダレクはゆっくりとテーブルに顔を伏せた。
— ちくしょう…
この光景を見ていたヴィタリアは、くすくすと笑いながらエールを飲み干した。
二時間が経った。
街の門には、キャラバンが勢揃いしていた。鋼鉄の鎧をまとった残忍な傭兵、容易な獲物を狙う狡猾な商人、ひらひらとしたローブをまとった魔術師、そしてもちろん、どこにでもいるギルドの冒険者たち。約40名の、様々な冒険者たちだ。
探検隊のリーダー――革の鎧をまとい、目に印象的な傷のあるがっしりとした男――は大声で宣言した。
――全員に報酬が保証される! 到達した者は報酬を受け取る。逃げ出した者は黄金も名誉も得られない!
群衆は騒ぎ始めたが、異議を唱える者はいなかった。
ヴィタリヤは辺りを見回し、作業着を着た屈強な男たちが二人いるのに気づいた。
――ああ、ヴィタリヤ! ――腕にハンマーのタトゥーを入れたがっしりとした男の一人が、ヴィタリヤの肩を叩いた。――お前が班長か! なぜこの冒険に加わったんだ?
「そう、友達が私を引っ張ってくれたの」ヴィタリアはダレクに頷いた。ダレクはシオリから静かに離れようとしていたが、シオリはすぐに彼の腕を取った。
「ああ、こいつは…」作業員は意味ありげに眉を上げた。「じゃあ、頑張ってね。もし生き残ったら、建設現場に来て。新しいプロジェクトを始めるわ」
「賛成」ヴィタリアはニヤリと笑った。
一方、リネアはエルフの斥候たちのところへ歩いて行った。彼らはヴィタリアをちらりと見て、ささやき合っていた。
「リネア、これが君の…『人』か?」 彼らの一人、背が高く髪を短く切ったエルフが皮肉っぽく笑った。
「違う!」リネアは鋭く顔を背けたが、耳がぴくりと動いた。「彼は…一時的に部隊にいるだけなんだ」
「そうか、そうか」友人たちは笑った。
ヴィタリーとリネアが仲間とおしゃべりしている間、ダレクとシオリはキャラバンの周りをのんびりと散歩していた。
――「あら、ダーリン、みんなあなたを見てるわよ~」――シオリはふざけて彼に体を押し付けた。
――「だって、半分は私を殺そうとしているか、もう売春婦として買っているんだもの」――ダレクはため息をついた。
確かに、彼が浴びせられた視線は様々だった。
――パブの男――彼は横目で見ていた。ダレクが喧嘩を仕掛けて店の半分を(誤って)燃やしてしまったことを思い出していた。
――噴水の女の子たち――彼らはひそひそと話し合っていた。彼が卑猥なバラードを歌い、金貨で「個人サービス」を提供していたことを思い出していた。
――果物商人は怒りに震え、拳を握りしめた。かつてダレクに「バナナは魔法の品物だ」と騙され、商品を全部ワイン1本と交換されたからだ。
- *でも人気者なんだね~* - 詩織は牙をむき出しにして笑った。
- ちくしょう…
隊長が角笛で合図をすると、キャラバンは出発した。
- *さて、あなた、そろそろ出発しますか?* - 詩織はダレクの手を取った。
- 他に選択肢はあるの?
- *いや~*
通りすがりのリニャは、彼らを軽蔑するような視線で見つめた。
- *隊を妨害したら、二人とも足を馬に縛り付けるぞ。*
- うわあ、- ヴィタリーは口笛を吹いた。- 彼女にそんな想像力があるとは思わなかった。
「ちくしょう…」ダレクはこの旅が長引くことを悟り、繰り返した。
この先には遺跡と危険、そして40人の冒険者が待ち受けている。その中には:
- ダレクを殺そうとする者。
- 彼を買収しようとする者。
- そして、ただ「楽しみたい」という詩織。
誰もが生き残れるわけではない。