ダレク:2
シオリが闇に消えると、リネアとヴィタリアは寝たふりをやめた。二人は静かに馬車から降り、ヴィタリアは腕を組み、疲れたように顔を手で撫でた。
「まだ決心がついてないみたいだな…」彼の声には失望の色が滲んでいた。
リネアは鼻を鳴らし、乱れた髪を撫でつけた。
「何を期待していたの? ダレクだもの。たとえ指輪をポケットに入れていたとしても、取り出す前に二度考えるはずよ。」
ヴィタリアはくすくす笑ったが、反論はしなかった。心の奥底では、友がついに勇気を出して欲しいと願っていた。
10分が過ぎた。
夜の静寂は突然、奇妙な音によって破られた。くぐもった低い音、まるで石が虚空に落ちるような音だった。
二人は視線を交わした。
「あれは…遺跡から聞こえてくるの?」 リネアは眉をひそめた。
—「そうだね。」
彼女の耳がぴくぴくと動き、ヴィタリアはすでに彼の剣を掴んでいた。
—「行こう。」
彼らは遺跡へと向かい、一歩ごとに足取りを速めた。
何かがおかしい。
そして二人とも、それを悟っていた。
前方の暗闇は、まるで彼らを待ち受けているかのように、濃くなっていった。
ダレクの叫び声が遺跡に響き渡り、血が凍るように凍りついた。
—「奴だ!」ヴィタリアは剣の柄を強く握りしめ、拳が白くなるほどに突き進んだ。
リネアは彼の後を追った。エルフの耳が鋭くぴくぴく動き、彼の足音を一つ残らず捉えた。
彼らは瓦礫の山を避けながら、荒廃した廊下を駆け抜け、床の深い裂け目を見つけた。
— 「ちくしょう…」
ダレクの声は、まるで電源を切られたかのように、唐突に途切れた。
最後に聞こえたのは、テレポーターを思わせる奇妙なポンという音だった。
静寂。
空虚。
— 「だめだ…」ヴィタリーは深淵の淵に歩み寄り、下を覗き込んだ。
そこにはただ闇があった。
リネヤは彼の手を掴んだ。
— 「彼が…消えるなんてありえない」
しかし、彼女の声には既に疑念が滲んでいた。
二人は視線を交わし、闇の中へと飛び降りた。
着地すると、二人は埃を払い、凍りついた。
二人の目の前に、揺らめく魔法の炎の冷たい光の中、そこには…
二人のキスは、足元から突然の落下によって中断された。石が崩れ、二人は落下した。ダレクは本能的に詩織を掴み、空中で回転し、自らその一撃を受け止めた。
一撃。
周囲に塵が舞い上がった。
詩織は少し呆然とした様子で起き上がり、両手を彼の胸に押し当てた。
「大丈夫?」声は震え、目は素早く彼の顔に視線を走らせ、痛みの兆候を探した。
彼は答えたかった。
しかしその時――足音がした。
速く、はっきりと。
カチッ。
銃声。
詩織の体が跳ね上がり、目を見開いた。
「詩織――!?」
ダレクは不意に寝返りを打ち、体で彼女を庇った。視線は遠くの隅にいた犯人――影と合った。
彼は凍りついた。
黒い手袋をはめた彼の手は震えた。
そして――彼はまるで最初からそこにいなかったかのように、霧の中に消えていった。
ダレクは跪き、シオリを腕に抱いていた。
「大丈夫…大丈夫、わかる?心配しないで、僕たちは…方法を見つけるから…」
声が途切れ、指先でシオリのマントを掴んだ。まるで失われゆく命にしがみつこうとするかのように。
シオリは彼を見つめた。痛みではなく、優しさで。手のひらが彼の頬に触れ、指先が最初の涙を拭った。
「静かに、静かに、ダレクス…心配しないで…大丈夫…」彼女の声は温かかったが、すでに弱々しくなっていた。
「だめ、だめ、だめ…聞いて、選択肢はある。ただ…待って、お願い、僕は…」
彼は言葉を詰まらせ、涙が頬を伝った。
シオリはため息をつき、震える手で彼の唇に触れた。
— 「覚えてる…マナの雫について話したでしょ?…これは…これは私の小さな心…飲み込んでほしいの、ダリュス…」
—「だめ!だめ、無理!まだ時間はあるわ、私たちは…誰かを見つけるわ、私たちは…!」
—「もしあなたがこれをしなければ…私はグールになってしまう…怖いの、ダリュス…私は…したくない…」
彼女の声は途切れ、目には涙が浮かんでいた。
—「私は何があってもあなたを愛するわ!私たちはきっと…できるわ!」
—「もし私がグールになったら…ただの獣になってしまう…あなたを殺す…さもなければ、あなたは私がまた殺されるのを見ることになる…あなたにこんな苦しみはさせたくない…」
彼女は自分の胸に指を突き刺した。
血。
痛み。
彼女の手の中に、脈打つ、魔法のような輝く心臓が現れた。
彼女はそれを彼の手のひらに置いた。
—「シオリ、私…できない…」
しかし、彼女の手は既に彼の手に重なり、彼を口へと導いていた。
—「お願い…」
彼女は彼の唇に掌を押し当てた。
彼は唾を飲み込んだ。
彼は彼女の最後の言葉を聞き取れなかった。
ただ沈黙だけが残った。
そして—
ダレクの地獄のような叫び声が聞こえた。
彼は彼女の体を抱きしめ、叫び、揺さぶった。まるで彼女を起こそうとするかのように。
しかし、彼女の目はもう見えなかった。
そして、彼女の心臓…
今、彼の心の中で鼓動していた。
部屋が爆発的な動きで爆発した。
デセニが先に飛び込んできた。いつもは冷たい目が、その光景に見開かれた。
—「ダレク…?」
そして—彼は理解した。
彼は前に飛び出し、すすり泣くダレクの隣に膝をつき、指を彼の肩に食い込ませた。
「ダレク。ダレク。ダレク。さあ、畜生… 俺たちならできる。心配するな、過去に一度ジャンプすればそれで終わりだ。必要ない…さあ、待ってろ。最後の一歩が残っている。古き世界が待っている。ただ耐えろ…」
彼の声は静かだったが、冷たくはなかった。緊張し、息が詰まり、まるで彼自身が崖っぷちでバランスを取ろうとしているかのようだった。
しかし、ダレクは聞こえなかった。
彼は激しく、非人間的な叫び声をあげ、悲しみに体が震えた。
愛子は顔面蒼白になったが、凍り付かなかった。指先はすでに詩織の脈を測り、視線はデセニへと走っていた。
彼は後ずさりし、ぐるぐると歩き回りながら、小声で呟いた。
――「わかった、わかった、クソッ…どうしよう…わかった、もしダメなら…クソッ…クソッ、やらなきゃ。準備は万端だ、でも…クソッ、死体を運び出さなきゃ…でも彼はなんとか吸収した…ああ、ああ、わかった…でも時間はあるか?クソッ、クソッ、クソッ、どうしよう、クソッ…」
彼は頭を抱え、壁から壁へと走り回り、そして急に立ち止まった。
――「愛子!彼女を連れて行け!ダレクを掴む、お前は死体を動かせ!でも…クソッ、やめて、死体を運び出さなきゃ…クソッ、クソッ、どうしよう…クソッ…クソッ、クソッ…」
そして――上から足音が聞こえた。
速い。近づいてくる。
デセニは凍りついた。
――「わかった、クソッ…アイコ、計画通りだ。3だ。」
一瞬の沈黙。
――「3だ。」
突然の動き。
アイコは電光石火の速さだった。二つの正確な動作。シオリの体を掴み、円の外へ引きずり出した。
デセニはダレクを床に押し倒し、短剣の突き刺しのように素早く囁いた。
――「ごめん、相棒…」
アフレスのギターはダレクの怒りに引き寄せられ、宙に舞い上がり、二人に向かって墜落した。
デセニは古代の言語で叫び、世界が揺れた。
テレポート。
暗闇が迫ってきた。
そして塵が静まると、部屋にはシオリの体だけが残っていた…
静寂。
空虚。
5年後
静かな家。朝。
ヴィタリアは窓辺に立ち、温かいコーヒーカップに指を絡ませていた。かすかな足音が彼の後ろをついてきた。
*頬にキス*
—「何を考えてるの、ダーリン?」
リニャは彼を後ろから抱きしめ、顎を彼の肩に乗せた。
—「ああ、何でもない…何でもない」ヴィタリアの声は穏やかだったが、目には影があった。
小さな女の子が彼の足にしがみついていた。
—「パパ、パパ!今日は散歩に行くの?」
鐘のように澄んだ声。
彼はカップを窓辺に置き、身を乗り出して娘を抱き上げた。
—「もちろん、ダーリン。」
そして、反対側の窓に、*見慣れた人影*がいた。
影。
見知らぬ人。
友達。
ダレク。
でも、*あの人じゃない*
彼の服は――まるで何年も脱いでいないかのような、ぼろぼろのローブ。視線は――空虚で、感情がなく、生気がない。
*影の殺人者*
ヴィタリアは娘をリネアに渡し、静かにドアを開けた。
冷たい空気。
――「シオリの墓はどこ?」
ダレクの声――荒々しく、疲れ切った声。*ずっと前から良いことに期待することをやめてしまった男の声*
ヴィタリアは尋ねなかった。彼は余計なことは何も言わなかった。
――「見せてあげる」
道は*緊張していた*。
静寂。
リネアの腕の中でくるくる回る小さな女の子だけが、時折尋ねた。
――「ママ、これは誰?」
――「大したことじゃないわよ、ハニー」
しかし、リネアの声には――*震え*があった。*
彼らは到着した。
崖。墓石。
ヴィタリアは二歩ほど歩いたところで立ち止まった。
ダレクはゆっくりと近づいた。
そして*膝をついた*。
—「許して…」
囁き。*約束*。*
魂への*約束*。*
自分自身への*約束*。*
ポケットから—ネックレスが出てきた。
それはアフレスのギターに*変化*した。
彼はそれを墓に置いた。
*「受け取れ。これはずっとお前のものだった。」*
それから彼は振り返った。
—「これはお前のものだ。」
日記。全く同じものだ。老魔術師が書いたものだ。
彼は何も説明せずにそれをヴィテリに渡した。
そして去っていった。
*一言も発せずに。*
*別れの挨拶もなしに。*
ヴィタリアは彼が去るのを見送った。
*遅すぎる。*
*何も言うには遅すぎる。*
*何も変えるには遅すぎる。*
時間は彼の知っていたダレクを*奪い去った*。
そして*これ*を残していった。*
*影*。*
*幽霊*。*
*彼女と共に自らを埋めた男*。*
終わり