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騎士は魔法で夢を見る  作者: ラグメラ


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3-3話

「大丈夫か!?ラトリック!」


「う、うん」


 いつもの口調が崩れたエトワーが駆け寄って来る。


「そ、そうか。良かったぜ、、。すまない、。探査(サーチ)から漏れた奴がいたみたいだ、、」


「へ、へーきへーき。私は無事だしね!それで、、、」


 後ろから現れた二人組。

 片方は長い金髪をロールさせ、ドレスのように広がった服を着ている。いかにもお嬢様な甲高い声から高飛車な笑い声が飛んできた。

 もう片方は全身を包んでいたマントを広げ、何かのキャラククターのように自らを誇張している。満足げな笑顔が眩しい。


「そこの貴方!」


「え、?あ、私?」


 ぽかーんとしているラトリックにぴしゃんと閉じた扇が向けられる。


「その通りですわ!この私に助けられるという名誉を得たのだから!礼の一つでも言うのが筋というものではなくて!?」


「あ、ありがとうございます、、?」


「ふふ!そう、それでいいのよ!」


 彼女は満足げに扇を開き直すと、ぱたぱたと仰ぎ始める。


(ありがたいんだけど、、、なんか癪だなぁ、、)


 あまりの出来事に唖然としていると、唐突に頬に何者かの手が添えられた。


「全く。こんなに寄られても気づく素振りもない。とんだ騎士見習いがいたものだ」


「うゎあぁぁぁ!?」


 その感触に体が勝手に反応した。触られた方へ拳が突き上げられる。しかしその拳は空を切り、男の姿は最初の位置に戻っていた。


「野蛮だな。確かにこの僕と触れ合えて照れてしまう気持ちはよくわかるが!」


「黙れこのセクハラ野郎!」


 やれやれと言わんばかりに俯く彼に対し、声を荒げるラトリック。しかし全く気にしていないようだ。再びマントを棚引かせ始める。


「ララルト兄弟じゃないか。そういえば同じ組だったな〜」


 そんな二人を見てエトワーが見かねたように話し出す。


「あらルートさん。ご機嫌いかが?」


「最悪一歩手前だぜ〜」


「それはよかった。そこの庶民を死なせていたら最悪になっていたでしょうから」


「しょ、庶民?」


 明らかに見下したような口調でこちらを眺めて来る。


「ねぇエトワー。この人たちと知り合い?」


「あぁ。金髪の方が姉のナートル=ララルト。黒髪の方が弟のアバト=ララルト。ララルト家の貴族兄弟だぜ〜」


「貴族か。なんか納得感がある見た目というか、、」


 改めて二人を見返す。城外という場からあまりにも浮いているその格好はその者達の身分を端的に示していた。


「ふふふ!そう高貴なる者をじろじろと眺める者ではなくてよ!シュナイダーさん」


「え?私のことを知っているの?」


 まだ私からは名乗っていないはず。にも関わらず自分の名を呼ばれた。


「君は有名なのだ!魔法も使えないのに若馬の厩舎(ノートンクラン)に入学した大馬鹿者だとな!」


 アバト=ララルトから衝撃の事実が伝えられた。


「なんですって!」


 ラトリックは怒りを露わにするが、二人はまるで取り合わない。まるではるか年下の子供がきゃんきゃん騒いでいるかのような。ララルト兄弟の認識はそんなものだった。


「ルートさんも大変ですわね。このような方の介護をしなければならないとは」


「そ、それは、、、」


 介護。その言葉を言い返せない。さっきまでの喧騒が止む。


(悔しいけど、、確かにその通りだ。この訓練が始まってからエトワーに頼りっぱなしだし、、。)


「良いことを思い付きましたわ。ルートさん。私たちと共にくるというのはどうかしら?」


「!」


 ナートルがそんな提案をして来る。その目にはエトワーしか写っていなかった。


「私、ルートさんには一目置いていましてよ。貴方さえよければ、」


「悪いが断らせてもらうぜ〜」


 だがエトワーの回答は一瞬だった。その答えには一瞬の迷いもない。俯きかけていたラトリックの首が持ち上がる。


「なんだと!僕たちララルト家より、そこの庶民を選ぶというのか!?」


「、、、理由を聞いてもよろしくて?」


 声のトーンが一つ落ちた。そんなことは意に返さずエトワーは続ける。


「う〜ん。理由って言っても大した事じゃないんだがな〜」


 そこで言葉を区切る。そのままラトリックの隣へ行くとその耳を軽く引っ張た。


「お前らよりもこいつの方が結果を出せるってだけだぜ〜」


「エトワー、、、」


 エトワーのその答えにララルト兄弟が僅か、本当に僅かだが目つきが鋭くなる。少し見ただけでは変化したところなどわからないだろう。しかし、確かにその場の空気が変わった。


「ふふふ。貴方のその奉仕精神は尊敬に値しますわね。後悔しないことを願っておりますわ」


「我々が救いの手を差しのべたというのに。君はもう少し利口な人間だと思っていたが」


「おいおい。振られたからって逆ギレはやめてくれよ〜」


 軽口を叩くエトワー。ナートルの方からピキッと何かにヒビが入るような音がした。


「そこまでいうからにはシュナイダーさんが私たちよりも上だと証明できると?」


「余裕だぜ〜」


「ちょっと!?」


 あまりに急な宣言に焦りが抑えられないラトリック。しかしエトワーは気にせず続ける。


「今回の課外訓練では帰還した順で成績が決まるだろ〜?つまりお前らよりも早くラートヌスに着けばラトリックの方が優秀ってことだぜ〜」


(そうかなぁ!?)


 必死に目で訴えるラトリック。しかし、エトワーの焦点がその目に合うことはなかった。さらに、バキバキと言う音が向こうから聞こえて来る。


(何の音!?)


 そちらの方を見るとナートル=ララルトの手に握られた扇が見るも無惨な姿になっていた。彼女は笑顔のままだが、その額には青い筋が浮かんでいた。


「ふふふ、いいでしょう、、。貴方がどれほど愚かな選択をしたのかと言うこと、骨身に刻んで差し上げますわ!」


「後悔させてやろう!もし我々が勝利したら、、、覚悟するんだな!」


 二人は手を合わせ魔法陣を構築していく。


水纏(マーメイド)


 魔法によって生み出された水流が二人を飲み込んでいった。それはバランスボールのように球体を形取る。軽く浮くとその水球は近くの渓流へと飛び込んで行き、その流れに合流して行った。


「さすがララルト家。水系の魔法はお手のものだな〜。川を渡っていけばかなりの時短になっちゃうぜ〜」


「ちょちょちょ!どうするのよ!呑気に分析してないで早く行かなきゃ!」


「まぁまぁ。こっちにだって作戦はあるんだぜ〜」


 走り出そうとする彼女の襟首を掴んで静止させるエトワー。


「ぐえっ!」


「普通に追っても追いつけないんだから闇雲に走っても意味ないぜ〜」


「じゃ、、、じゃあどうするの、、!」


 その言葉を待ってましたと手を離す。勢い余って倒れ込むラトリックを見下ろしながらその指を天に掲げる。


「あいつらが水中を進むなら、、、私たちは空だぜ!」

3-3話です。ラグメラです。

もっと早く投稿する予定が気づいたら1週間経ってました。なんでやろなぁ。

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