3-1話
10/20 エトワーの髪の色が間違ってたので修正しました。
朝日が登り始めた朝6時頃。大きな噴水が目立つこの広場にはいつもたくさんの人がいるが、こんな夜明けにはがらんとしている。
そんな静かな広場に一つの人影があった。
「んくっ、、んくっ、、」
ボトルの水位が下がる。蒸気を上げているかのような肉体に冷えた液体が流し込まれていく。
「ぷはぁぁぁ、、、!」
「、、、お前さんは何をしてるんだ〜?ラトリック?」
呼吸を再開した彼女の耳に聞き慣れた友人の声が入ってきた。その方へ意識を向けると、箒を片手に佇んでいるエトワーの姿があった。
「あ、おはようエトワー!何って、見ての通り朝のランニングだけど?」
「朝の、、ランニング?お前さん何時間くらい走ってたんだ〜、、?」
「そんな走ってないわよ。30分くらい?」
「30分、、?嘘だろ、、?」
エトワーは信じられないようなものを見る目でじろじろと視線を上下させる。彼女が着ているランニングウェアにはぐしょぐしょの染みが出来ていた。とてもじゃないが30分やそこらでこうはならないだろう。
「ラトリック、お前さんは汗っかきなんだな〜、、」
「失礼ね!違うわよ!!!!ちょっと負荷をかけているだけ!!!!汗っかきじゃない!!!!」
彼女は声を荒げ、抗議するかのように手を上へ上げる。
「、、、負荷?」
エトワーは怪訝な顔で聞き返す。
「ふふん!これを持ってみて!」
聞かれた彼女は得意げに答え、手首につけていたリストバンドを投げてきた。
「これがどうし、、、たっ!?」
受け止めたその瞬間、手のひらに強烈な重力が加わった。耐える暇もなくリストバンドはその手をするりと滑り落ち、地面にめり込んでいく。
「、、、は?」
一瞬の出来事に、脳の理解が追いつかない。
「最近『重量化』を教えてもらってね!簡易魔法だけど便利なんだ!これでトレーニングも効率的に出来るんだから!」
簡易魔法
読んで字の如く、簡易的な魔法だ。誰にでも使えるということを目的とした魔法で、魔力さえあれば簡単に行使することができる。
(にしたって限度ってもんがあるだろ〜、、。まぁ今まではこれすらやっとの思いで使ってたラトリックだ。成長を褒めてやるべきなんだろうが、、、)
うんうんと唸りながら空を見上げる。その金色の髪が後ろに垂れていき、いつもの猫背と合わせたら綺麗なシンメトリーになりそうだ。
「、、、お前さん今日の事忘れてないか〜?」
「今日?何かあったかしら?」
水分補給を再開するラトリック。
「今日城外訓練だぞ〜。その前に体力も魔力も使っちゃって大丈夫なのか〜?」
「、、、あ」
その言葉を聞いた途端、彼女は石のように固まる。手に持っていたウォーターボトルが地面に吸い込まれていった。
「というかあと一時間くらいで集合時間だぞ〜。私たち今日の一組目だからな〜」
「え、、、」
まさかの固まっていたラトリックが小刻みに震え出す。
「ラ、ラトリック?おーい。おーーい」
その異変に気付いたころには手遅れだった。
「あああああぁぁぁぁぁ!!急いで準備しなきゃ!ちょ、ちょっとまってて!!」
絶叫の後、家に向かって走り出すラトリック。その汗はトレーニングによるものか、冷や汗か、それはもうわからない。
「お〜い。死ぬなよ〜」
*
「はぁ、、なんで一組目なんだよ、、ねむ、、」
「もし魔獣に遭遇したらどうしよう、、、。いい!絶対置いてかないでね!」
朝7時。訓練参加者の不安や不満の声が飛び交っている。睡魔と戦うものや、ペアにしがみつきながら見捨てないように懇願するもの、様々だ。
「皆、来ているか」
そんな喧騒はその一声でぴたりと止んだ。皆が一同に姿勢を正し、自然と敬礼をする。
「「「「「おはようございます!カルトス学長!」」」」
学長と呼ばれた人物が生徒の前に立つ。先ほどまでの弛緩した空気から一変し、皆の背筋がピンと伸びる。
その静かな振る舞いから醸し出される気品に皆が圧倒される。
「ふむ。まだラトリック=シュナイダーとエトワー=ルートの姿が見えないな。もうすぐ時間なのだが」
しばしの沈黙。しかしその静寂はすぐに破られた。
「お、おはようございまーす!!」
街の方からバタバタと騒がしい音が響いてくる。土煙でも上げているかのような速度で走る者と、それに追随するかのように箒で浮かんで付いていく者。件の二人がやってきた。
「はぁ、、はぁ、、ギリギリセーフ、、!」
「危なかったな〜」
ぜぇぜぇと息を切らすラトリックとすとんと箒から降りるエトワー。
「阿呆!騎士たる者!時間には余裕をもって行動せんか!」
「も、申し訳ありません!!」
「以後気をつけます」
安堵の息を漏らした二人をぴしゃりと叱りつける。トボトボと列に紛れていくのを尻目に、彼は軽く咳払いをした。
「全く、、。まぁいい。ちょうど時刻だ。これより城外訓練を開始する」
そう言うと虚空に円を描く。その円をなぞるように白く魔力の跡が残った。
『格納庫』
その円の中に手を入れると、その腕がどんどん飲み込まれていく。そしてその中から戻ってきた時、その手には数個の道具が握られていた。
「訓練の内容はシンプルだ。君たちはこれからペアで半径10kmの地点にランダムでワープさせられる。その地点からこのラートヌスに戻ってくるのだ。手段は問わない」
(ん?)
説明を聞いている最中、ラトリックは手の中に違和感を覚えた。いつの間にか何かを握りしめている。
その手に視線を向けると先ほど格納庫で取り出しされた道具があった。
(い、いつの間に!?)
カルトス学長の手はすでに空になっていた。
「今諸君に渡した物。これは救援信号を送るためのものだ。命に危険が及ぶ場合、ためらわずに押すように。無論これを使った場合、その時点で不合格だ。可能な限り自らの力で対処すること」
彼は空いた手で立派な白い髭を撫でる。こんなことはできて当然だというように。
「何か質問があるものは。
、、、いないようだな。それでは訓練を開始する」
カルトス学長が地面に向かって手のひらを向ける。と、同時に列の中心から地面に美しい魔法陣が描かれた。それはどんどんと広がっていき、次第に全員が収まる程の大きさへとなった。
『転送』
その魔法が唱えられたと同時、皆の姿がぼやけていき、遂には完全に消えていった。
3−1話です。ラグメラです。
小説書くのって難しいですね。色々試しながらやりたいですね。
ちょっと投稿ペース上げていきたいな。




