5-6話(終)
「お姉ちゃん!こっちこっち!」
「はいはい。今行くよ」
遠い日の記憶。覚えていることは随分と少なくなったしまったけど、いつも必ず後ろから着いてきてくれる事と優しく頭を撫でてくれたことは今でも鮮明に思い出せる。
「全く、いつまでもお転婆なんだから。そんなんじゃ立派な聖女になれないわよ」
「いいの!そういうのはお姉ちゃんがやってくれるから!私は戦ってお姉ちゃんはみんなを守る!ぶんぎょーだよっ!」
「余計な言葉ばっかり覚えるんだから、、、」
お姉ちゃんはため息混じりに髪の毛を撫でてくれてた。
「いい?貴方もいつかは独り立ちするんだから。私に頼りすぎちゃダメよ」
「えー!ずっと一緒にいればいいじゃん!」
その時私は頬を膨らませながらそう言ったんだ。
「ダーメ、いざという時に後悔しても遅いんだから」
*
「、、、久しぶりに聞きました。その名前」
ラトリックは懐かしそうにそう答える。
「やはりそうでしたか。貴方を一目見た時もしやと思ったのですが、、、」
カルネアはそこで言葉を詰まらせた。次の言葉を、とてもとても慎重に選び出そうとしている。
「お前さん、姉がいたのか〜?」
「うん。結構歳は離れてたんだけどね」
「彼女はとても優秀な聖女でした。全ての人の心に寄り添い、救いとなる。聖女としての才能はおそらく私を超えていたでしょう」
「そんなにか!?相当すごい人なんだな〜。今は何をしてるんだ?」
彼女は素直に感嘆の声を上げた。だがその問いが、二人の表情に影を落とす。
「今は、、、もういないの」
「!、、、すまない」
「ううん。大丈夫。気を使わなくても平気だよ」
ラトリックは申し訳なさそうにそう答えた。
「それで、、、シスターさん。本題は?」
「、、、そうですね。無駄に話を濁す必要もないでしょう。単刀直入にいいます。ラトリックさん、聖女としてフェリス大教会に来ていただけませんか?」
カルネアは意を決し、そう告げた。
「聖女、、、」
「はい。あなたの右腕に刻まれているもの。それは間違いなく聖痕です。あなたにも立派な聖女の血が流れているのです。」
ラトリックは包帯の下に眠っている証明に目線を向けた。
「あの空間に囚われた時も、あなたは勇敢に立ち向かって下さいました。資質は十分にあると考えます」
「本当か!?凄いじゃないか!ラトリック!」
あまりの出来事に声のトーンが上がるエトワー。しかし、ふと思いついたかのようにカルネアに疑問を投げつける。
「あ〜、でも若馬の厩舎はどうなるんだ?」
「フィリア大教会に移籍という形になります。聖女と騎士では必要な知識や技術が全く異なりますので」
「そうなのか、、、」
その答えを聞いて、エトワーは少し言葉を詰まらせた。だが、ハッとしたように言葉を続ける。
「ラトリック!私のことは気にしなくていいからな!誰かのために遠慮する必要はないんだぜ!、、、ラトリック?」
その顔は俯いていて長い赤髪が垂れいた。その表情は隠れて、だれにも分からない。そんな彼女を心配するようにエトワーが声をかける。
「おい〜?大丈夫か?」
「、、、うん!」
だが、エトワーの呼びかけに応じて顔をぱっと上げる。その表情は笑顔だ。
「、、、答えを聞いてもいいでしょうか」
カルネアはまっすぐ彼女を見つめ、そう問いただした。そして、その答えはすぐに返ってくる。
「ごめんなさい。私は、聖女にはなれません」
「、、、理由を聞いても?」
「シスターさんは資質があるって言ってくれましたけど、、、私にその役は荷が重すぎます。私に、そんな役は向いていません」
「そんなことは!、、、いえ、無理に引き留めるものではないですね」
カルネアは平静を装いながら引き下がる。
「ですが、気が変わったらいつでもいらっしゃって下さい。歓迎します」
「ありがとうございます」
ラトリックは会釈をする。そして彼女が顔をあげると同時に、再びドアが開いた。
「みんなおかえりー。無事で何よりだね」
そこからは、ノウンが姿を現した。
「あっノウン!お前さんどこいってたんだ!こっちは大変だったんだぞ〜!」
エトワーがびしりと指を刺す。
「消えたのは皆んなの方じゃないか。起きたら誰もいなくてびっくりしたよ」
「そうだけどよ〜!」
そんな二人の会話をよそに、のそのそとラトリックが立ち上がっいく。
「おいおいラトリック、動いて大丈夫なのか!?」
「うん、もう動けるよ。ノウンも来たし帰ろうか」
「本当に大丈夫ですか?ここに泊まっても構いませんよ?」
「いえ、もう十分です。ここで起きたことを報告したりもしないといけないですし。私、結構丈夫なんですよ」
そうして彼女たちは門まで歩いていった。空はすっかり満天の星空で埋め尽くされている。
「改めて、本日はありがとうございました。私たちが助かったのは紛れもなく皆さんのおかげです。貴方方に神のご加護が在らんことを」
カルネアの見送りを背に、三人は帰路について行くのだった。
*
「いいか〜!若馬の厩舎への報告とかは私がやっとくから、お前さんはまっすぐ帰るんだぞ!」
そう言ってエトワーは別れていった。ラトリックとノウンが人気のない道を歩いて行く。
「ねぇ、ノウン。あなたって神様を信じてる?」
「全然。急にどうしたんだい?」
「そうだと思った。聖女のことも知らない奴が神様に興味なんてないよね」
「、、、怒ってる?」
その問いに、答えは返ってこなかった。
「ノウン。私、今日すごく頑張ったの」
「そうだね。ひと目見てわかるよ」
「だからさ、ご褒美が欲しいな。少し付き合ってよ。いつもの訓練場でいいかな」
「言っとくけど、完治するまで特訓には付き合わないよ」
「流石にそんなことしないよ。しばらくは大人しくしてる」
二人は進行方向を変えていった。
「ノウン。実は私、聖女なんだよ」
「そうなんだ」
「、、、驚かないんだね」
「あー。うん、なんか納得したって感じ」
「ふふっ、何それ」
ラトリックは面白そうに声を上げた。まるで何かが抜け落ちて行くかのように。そうこうしているうちに訓練場へと辿り着いた。
「、、、私にはお姉ちゃんがいたんだ」
「うん」
「優しくて、強くて、まさに憧れの姉、って感じでね」
ぽつぽつと、言葉を繋げていく。大きな木を背に並んで座り込んだ。
「でももういないんだ。ネルニールの災害に巻き込まれちゃってさ。たまたまそこに宣教に行ってただけなのにねっ」
その言葉の端が跳ねて行く。啜り泣く音がだんだんと大きくなっていった。
「なんでかなぁっ、あんなに信心深かったのにねっ、なんでお姉ちゃんは死ななきゃいけなかったのかなぁっ!」
溢れて行く。
「もう、あんなの信じられないよっ!シスターは私に資質があるって言ってたけどっ!そんなのいらないっ!そんなのっ!そんなの!」
膝を抱え、大粒の涙がこぼれ落ちる。そんな彼女の頭に、温かいものが触れた。
「よく頑張ったね」
ノウンは優しく、彼女の頭を撫でる。
「ノウン、、、」
涙ながらに、その名を呼ぶ。
「悪いけど、これしか慰め方を知らないからさ。ごめんね」
「う、、、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
ノウンの方へ倒れ込む。その声は抑えることもできず、二人だけの場所に響いていった。
5-6話です。ラグメラです。
5話完結!ほんとは4話の内容の予定がこんなに伸びるとは、、、。いうて1話の文字数減ってるから字数的には変わらないのかな?
今後の更新ですが、就活に本格的に時間使うので完全に不定期になります。更新をやめたりはしない予定、、、ですがあんまりにもやばかったらそも言ってられないかも。もっと早くはじめてたらなぁ(後悔)
面白かったら感想や評価の程よろしくお願いします。




