5-1話
光を放った教会。その周りには異変に気付いた人々で溢れかえっていた。
「さっきの光はなんだ!?」
「人が消えていたわ!?みんな無事なの!?」
「皆さん!離れて下さい!ここは守護馬の厩舎が対応します!おい!今の状況は!」
今にも教会に押し入らんとする人々を止める騎士達。その横で魔法陣片手に建物を凝視する人間がいた。
「大規模な転移魔法のようです!しかし残滓が入り乱れていてまだ中の様子までは、、、!」
魔力を行使した後、そこには残滓が残る。魔法の効果や魔力の質など、それが持つ情報は余りにも多い。だが、それを読み取るには『探査』とは比べ物にならない高度な魔法が必要となる。
「転移魔法か、、、まだ効果は残っているか!」
「解析にはまだ時間がかかります!今は教会内が範囲ということしか、、、!」
当然、解析の難易度は魔法によって変わる。対象の魔法が複雑であればあるほどその時間は多くなる。だが、結果として彼らは突入してなんら問題はなかった。なぜなら、
「さーて。どうしようかな」
誰もいないはずの教会内。そこにはノウン=シャダルが佇んでいたからだ。
(状況を整理しよう。急に変な光がしたかと思えば、教会内の人間が全員消えていた。それ以外に影響はなく、物や装飾に変化はない)
ぐるりと見回すノウン。椅子。壁。ステンドグラス。教壇の前に置かれた像。今日、ここに入ってきた時と何ら変わりない。
(あの感じだと転移魔法かな。動かす方に特化してるから殺傷能力はないと思うけど、その先次第か。まぁ
あんな広範囲の強制転移、あれもこれもは出来ないだろ)
ノウンは淡々と現状を振り返っていく。
(孤児院の方には魔力があるんだよな。ってことは孤児達は残ってるのか。用があるのは教会に居た奴ってことか?第一候補は聖女関連かな)
そう。
(外には騎士達がわんさか居る。正直バレたくないな。学長から偽造用の奴は貰ってるけど使わないに越したことはない。それに色々面倒だ)
まるで解析を完全に終えているかのように
「やーれやれ。間が悪いというか。何でピンポイントで今日なんだ」
彼は面倒くさそうに体を曲げた後、大きく背伸びをした。
「まずは安否確認かな」
*
「小手調べだ、『風弾』!」
エトワーの前に収束した空気が、小さな刃を無数に形作る。
「くらえ!」
その合図と共に敵に目掛けて一斉に放たれる。それに着弾した彼らは吹き飛ぶように蹴散らされていった。
「一気に行くよ!」
その傍でラトリックは炎でその集団を焼き払っていた。みるみる内に敵の集団が減っていく。初めの衝撃とは裏腹にあっさりと全滅させることに成功した。
「なんか、、、拍子抜けね。怯え損した気分だわ」
「、、、」
エトワーはしゃがみ込み、消えかけている男の残骸を観察していた。
「エトワー?どうしたの?」
「いや、こいつらは何なんだろうと思ってな。私の風で切っても血が出ない。そもそも切られたことに対しても反応していない。」
思い出し、確認するかのように一つ一つ事象を唱えていく。それらが壊れた時の感触を記憶と繋げていった。
「、、、人形か?」
「人形?」
「あぁ。確かそういうのを作る魔法があったはずだ。だけどこんな精巧な物は見たことがないな。姿形は人間と同じと言っても過言じゃないぜ」
そう話しながら消えていくそれを見送る。目の前にあった人形は消え去った。
「これからどうしよう?長居はしたくないね」
「そうだな。ただ私たちだけじゃこの空間から出る方法が思いつかない。こんな派手にやってるんだから外の騎士達にも知られてるとは思うんだが、、、」
教会の門があった方に背を向け、シスターと教会の来訪者達の方に戻っていく。
その瞬間、後ろから異音がした。何かがぶつかり合い、組み上がっていくような音。
「なんだ!?」
乳白色のベールに波紋が広がる。その中に人影のような物が生まれたかと思うと、徐々にその姿が露わになっていく。そしてそれは、一つ、二つとどんどんと増えていく。
「まさか、、、!?」
ラトリックの頭によぎる最悪の予感。それの答え合わせをするかのように人影が列を成していった。そして、あの触れられないはずのベールを突き破るかのように、それらが姿を現す。先ほど破壊したものと全く同じ姿形をした人形が。
(まだあるのか!)
それに反応したエトワーが素早く魔法陣を描き、打ち出していく。先ほどと同じように、塵の如く人形は消えていく。
(強くなってるわけじゃない。けどこれがまだまだ続くようなら、、、)
そしてベールの向こう側から、再び同じ物体が姿を現した。その現象を前にエトワーが忌まわしそうに彼らを睨みつける。
「一旦結界の中へ引こう」
「ちょっと!そんなことしたら皆にまで被害が!」
「聖女の結界なんてのは突破する手段を探す方が難しいんだ。そう簡単には破られないはずだぜ」
そういうとガラ空きの教会へ後退していった。
「あぁもう!」
ラトリックもその後ろについていく。人形達の動きは遅く、それを止められることはなかった。
「シスター。少しこっち来てくれないか?」
エトワーが小声でカルネアを手招きする。来訪者からは聞こえない位置に三人が集まった。
「どうしました!?」
「少し聞きたいことがあるんだ。この結界はどれくらい維持できる?」
「維持だけなら、丸三日くらいは余裕で持ちます。ただ、他に祈言を併用するとその分短く放ってしまいますね」
「耐久力は?何人分の攻撃を受けたら壊れるとかはあるのか?あと、ここの内側から攻撃したら結界に阻まれちゃうか?」
「そちらは大丈夫かと。あの程度なら全員が束になっても傷一つつきません。それにこの結界は侵入を拒むのが主な効果です。なので逆に結界から外に出る行為に関しては影響を受けませんし、与えません」
それらの回答を受け、エトワーは目を閉じ深く考え込む。既に人形達が結界に触れようとしていた。その結界で止まってはいるものの、信者達の悲鳴が大きく響いている。その中でエトワーの瞼が開いた。
「耐久戦だな、、、。シスター!全員をここが見えない場所に移動させられるか?」
「それは大丈夫だと思いますが、、、」
「エトワー?どうするつもりなの?」
「いいか?あいつらは魔力で作られてる。それは確かだ。つまり生み出す側にも魔力量っていう限界がある。私たちがあいつらを潰し続けたら必ずどこかで打ち止めがある筈なんだ」
「それが来るまで倒し続けるってこと、、、?でも私たちよりもその生み出したやつの方が魔力が多かったらどうするの?」
「それはわからない。私たちはまだ元凶を見つけることすらできていないからな、、、。だから今はとにかく魔力を可能な限り温存するんだ」
「具体的には?」
「一回の魔法で倒せる数を増やす。あいつらは結界に向かってくるように動いている。だけどそれが壊せないなら自然と人形は一箇所に留まっていくだろ?」
「そうやって出来た塊を一気に叩く、、、ということですね」
「そうだ。ただ、私たちと違って一般人がその恐怖に耐えられるとは思えない。だからここが見えないところに
他の奴らは避難してもらうべきだと思うぜ」
エトワーの作戦。それに二人が頷いた。
「わかりました!信者の皆様は他の部屋へ連れて行きます!すぐに戻るのでお待ちください!」
そういうとカルネアは足早に戻っていく。信者達を言葉巧みに落ち着かせ、移動を開始させた。
「話が早くて助かるぜ!」
「それじゃあ私は早速、、、」
ラトリックが魔法陣を展開する。すでに出来上がっていた人形の壁に向かって巨大な陣が生み出された。
『炎球!』
壁を突破しようともがいていたそれらはその爆風と熱で吹き飛んでいく。その一撃で結界の近くにいた人形は綺麗になくなっていた。
「何度でも来い!全部焼き尽くしてやる!」
何事もなかったかのように再び現れたそれらを、高らかに迎え撃つのだった。
5-1話です。ラグメラです。
戦闘シーン、、、難しい、、、。ちなみに後書きに書くことが思いつかなくなってきたので↓のやつだけ限界きたら載せるでもいいかなって思ってます。
面白かったら感想や評価の程よろしくお願いします。




