4-5話(終)
「な、、何が起きて、、、」
辺りを見回すラトリック。先ほどまでぶつぶつとなにかをぼやいていた男の姿はなく、濁った乳白色のベールだけが辺りを包み込んでいた。
おずおずとそれに手を伸ばすが、感触は得られなかった。何かを掴もうと腕を振るが空を切るだけだ。
(すり抜け、、、いやそもそも届いていない?)
地面の芝を蹴り、跡をつける。そこから確かに一歩前へ進む。しかし、本来変わるはずの風景には変化がない。確かに後ろへ見送ったはずの跡はその爪先に再び現れていた。
「どうなっているの、、、?」
混乱。得体の知れない現象に鳥肌が立つ。しかし、彼女の頭の中にそれとは別の予感が走った。
「そうだっ子供達はっ!」
バタンッ!と大きな音を立てて孤児院の扉を開ける。休憩時間に入る前には昼寝の時間だったはずだ。
「、、、いない」
その扉の先に子供達はいなかった。持ち上がった布団。動いている玩具。確かに先ほどまでは存在した。そんな痕跡が残っている。しかし、そこから人間の要素だけを取り除いたかのような歪な部屋がそこにはあった。
「みんなー!居たら返事してー!」
そう呼びかけるも答える声はない。ぐるぐると辺りを見回しても人の気配が感じられない。途方に暮れていると、唐突に頭の中に声が響いた。
「ラトリック!聞こえるか!」
「エトワー!」
彼女からの交信が繋がった。
「今どこにいる!?」
「孤児院にいるわ!でも子供達の姿がないの!」
「なんだって、、、!?わかった!とりあえず合流しよう!礼拝堂の方に来てくれ!」
「わかった!」
孤児院を飛び出し、正面の方に向かって走り出す。作られた閉塞感で息が詰まるような感覚に襲われる。
「気味が悪い、、、!」
それでも無理やり体を動かし、礼拝堂の扉を開ける。その中にはエトワーやカルネアの他に、教会を尋ねてきた来訪者達もいた。
「皆さん!落ち着いてください!私たちには神のご加護があります!今は冷静な対処を!」
慌てふためく彼らを宥めようとカルネアは必死だ。そんな人だかりのそばで、エトワーと再開する。
「無事だったか。外の様子はどうだった?」
「変なのに覆われている事以外はおかしなことはなかったわ」
「そうか、、、。こっちは見ての通りだ。私たちと来訪者がみんな閉じ込められちまった」
エトワーが鋭い目つきを保ったまま考え込む。
「一体何が起きたんだ、、、」
「、、、そういえばエトワー。教会に変な人はいなかった?」
「なんだそりゃ?」
「えーと、よれよれのシャツで、大きな髭が入ってて、俯いて何かをぶつぶつ言ってて、、」
見たままの特徴を羅列していくラトリック。しかし彼女はピンと来ていないようだ。
「そんな奴はいなかったな。私たちは急に変な光に包まれて気がついたらこうなってただけだぜ」
「そっか。それじゃああいつは一体、、、?」
顎に手を添え、うんうんと唸るラトリック。
「お前さんはそいつに何かしたか?」
「いや、、、。話しかけはしたけど無視されてたし、それ以外は何も、、、あっ」
何かを思い出したように声を跳ねさせるラトリック。
「どうした?」
「そういえばあの人、鐘の音が聞こえた時に急に苦しみ出したような、、、」
「鐘の音、、、?時刻を知らせるあの音か?」
「そうだよ」
「そうか、、、。ただそれだけじゃ何ともなぁ、、、」
重要な手掛かりもしれない。しかし、それを使うための土台がなければ何の意味もない。解決手段には繋がらなさそうだ。
「ノウンなら何か、、、。そうだノウンは?」
「そういえば合ってないな。私が先に部屋を出てからまだあの扉は開いていないからまだ中にいると思うぜ」
「こんな時に何をしてるのよ!」
先ほどまで休息を取っていた部屋の方へ駆け寄り、その扉を開ける。
「ノウン!聞きたいことがあるんだけど!」
しかし、その中はもぬけの殻だった。
「えっ!?」
「おいおい。ノウンもいないのか?」
その中を詳しく見てみるが、ノウンの姿はない。
「どうしよう、、、」
頭の中に最悪のイメージが湧き出てくる。もし、このまま閉じ込められたままだったら。
「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」
どうやらそんな事を考えている暇もないようだ。来訪者からの悲鳴が響いた。
「壁が、外、!外に!」
一人の男が奥の壁に体を擦り付けるように怯えている。飛び出した二人が目にしたものはとんでもない光景だった。
本来この礼拝堂は密室となっていて中から外の様子は見えない。しかし、その構造が破られていた。それは何故か。
「礼拝堂の一面が、、、消えてる!?」
そこには大きな扉があった。綺麗な装飾があった。だがそれらが全て消えてしまい、今は長方形の一面が消えてなくなっている。それだけではない。
「おいおい、、、誰だあいつらは、、、」
フェリス大教会の広大な土地を埋めつくすように、謎の男が並んでいた。同じ姿、同じ背丈、同じ格好。そんな存在達が、教会の庭を踏み荒らしながらこちらに向かってゆっくり進んでくる。
「あれは!奴よ!あの光を放ったのは!あんなに居たの、、、?」
その虚な目は確かにこちらを捉えている。呻き声と共に目の前の障害物を破壊しながら歩を進めていく。乱れた隊列を組みながら、乱れた足音と共に裸の教会へ近づいていった。
「まずいな、、。明らかに私たちを狙ってるぞ!」
怯える来訪者達の前に立ち向かう。しかし物量が違う。数えきれないほどの人数に対し、わずか二人。それでも抗うしかない。
「やるしかないな、、、!」
「でも、ここにいる人たちも守らないと、、、!」
絶望的な盤面。そんな中、穏やかな声が響いた。カルネアの歌声のような祈りがこの空間に響いていく。
『神よ 魔を払い 我らを守護せん』
その祈言と共に魔力が形をなす。その瞬間、消えた境界の部分を補うように結界が生まれた。
「エトワーさん!ラトリックさん!皆様の安全は私が守ります!お二人は前の敵に集中してください!」
その知らせに僅かだが二人に笑みが浮かべる。その目は敵を見据えた。
「行くぞ!」
「えぇ!」
自らを奮い立たせると、二人は的に向かって立ち向かっていく。その手に魔法陣を携えながら。
4-5話です。ラグメラです。
話の途中ですが4話はこれで終わりで次から5話にします。ここら辺大分感覚任せですがまぁいいか。でも(終)
付けるのもなんか違和感が、、、




