表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士は魔法で夢を見る  作者: ラグメラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/18

4-4話

 太陽が頂上に登る頃、礼拝堂の一室にて三人は休憩を取っていた。ソファに倒れ込んでいるノウンと、その横に座っているエトワーがくたびれたような声を出す。


「疲れた、、」


「子供の体力、、、。舐めてたな〜」


 そんな中、一人だけ元気な人間がいる。椅子に座る二人を見下ろしながら腰に手を当て、勝ち誇ったかのような笑みを浮かべる。


「普段から鍛えてないからよ!私はまだまだ行けるわ!」


「流石にお前が鍛えすぎなだけじゃないかな、、、?」


 少ない休憩時間を過ごしていると、扉が開かれそこからカルネアが現れた。


「皆さん、お疲れ様です。お昼にしましょうか」


 彼女が差し出したお皿の上には大きなおにぎりが乗っていた。


「あ、ありがとうございます」


「どうも〜。ほらノウンの分だぜ〜。」


「ありがとう、、、」


 彼は震える腕で座り直す。


「いくらなんでも疲弊しすぎじゃないか〜?」


「やっぱり運動不足なんじゃない!」


「いや、、、なんか体が重くて、、、」


「それは大変ですね。少しお手を拝借します」


 するとカルネアはおもむろに彼に近づき、優しく手を取る。


「おやおや。倦怠感、脱力感、集中力の低下、、、。寝不足ですかね。ちゃんと寝ないとダメですよ」


「んなっ、、、!なんでそれをっ、、、」


 図星をつかれたのか、ビクっ!と全身が揺れるノウン。嘘が暴かれた子供のように手が右往左往している。


「聖女ですから。悩める者の助けとなることこそが使命なのです。ただ耳触りの良いことを言えば良いというわけではないんですよ」


「あんた、、、昨日いつ寝たの!?」


「、、、三時くらい?」


 観念したのか、おとなしく白状する。しかしその目は揃わない。


「遅い!規則正しい生活は騎士の基本よ!」


「そんなこともわかるのか〜」


「どんな魔法使ったらそうなるんだ、、、」


「あら。魔法ではないですよ」


 きょとんとした顔でカルネアは答える。


「、、、そうなの?」


 そんなの知らないよね?と同意を求めるような顔で二人の方を見る。しかしそんなことはなさそうだ。眉を上げて信じられない者を見る目を向けてくる。


「ノウン。奇をてらえばいいってもんじゃないんだぜ〜」


「してないが?」


「知らないふりする子供じゃないんだから、、、」


「だから違うって!」


 全力で否定するノウン。しかしその思いは二人には届かない。じとっとした目つきで彼を見る。しかし、彼女だけは違った。


「まぁまぁ。聖女は数が少ないですから。知らないこともあるでしょう。それに私にはわかります。彼は嘘などついていませんよ」


 カルネアは少し嗜めるように二人を止める。


「シスタ〜?流石にそんなことあるわけ〜、、、」


「いえいえ。彼の目がそう物語っているのです。これでも私は人を見る目には自信があるんですよ」


「シスター、、、」


 彼が感極まったような声を出す。


「さて、どこから話せばいいのでしょうか、、、。ノウンさんは聖女についてどれくらい知っていますか?」


「聖女について、、、。神から力を貰ったすごい人、ってくらい?」


「、、、思ったより知らないみたいですね」


「マジで言ってるのか〜?お前さん義務教育受けてないとか言い出すなよ〜?」


「そんなに?」


 なんでそんなに言われるのかわからない、といった風な表情を浮かべるノウン。軽く唸りながら悩んでいたカルネアだったが、おもむろに手袋を外した。


「これを見てください」


 そう言って差し出された左手には歪な十字架のような痣があった。


「これは聖痕と呼ばれるものです。聖女には生まれつきこの痣があります。私にも物心ついた頃にはもう浮き出ていました」


「へぇ。これが聖女の証ってことか」


「その通りです。そしてこれを持つものは神の加護を受けるのです」


 まじまじと観察するノウン。まるで初めておもちゃを見るかのような好奇心を前面に押し出していた。カルネアは家庭教師のように続ける。


「加護を得た者は二つの祝福を得ます。一つは魔力。常人よりも多く魔力を蓄えることができるようになります。そして、、、」


 そこまで言うと差し出した手をもう一度彼の右手に触れさせる。なんらおかしいことはない。


「なん、、っ!?」


 しかしノウンは自らが発した言葉を遮り、咄嗟に腕を引いた。触れた手から全身に広がっていった謎の悪寒。それに体が防衛反応を示した。


「ど、どうした〜?」


「わからない、、。けど、なんか、、変な感覚だ、、、」


 右手を庇うようにカルネアの方を見返すノウン。当の本人は変わらない笑顔を浮かべていた。


「これが『祈言(いのりごと)』と呼ばれるものです。聖女専用の魔法、と思って頂ければ。ちなみに今のは肉体の倦怠感を取り除く効果があります。先ほどより体が軽くなっているのでは?」


「まぁ、、、言われてみれば確かに」


 自分の状態を確かめるように腕をグルングルンと回すノウン。どうやら本当に効果があったようだ。


「こんなことが出来るのか、、、。魔法使ったら凄いことになりそうだな、、、」


「いえ、それは出来ません」


 そう言って彼女は首を横に振った。


「それは何故?」


「聖女の魔力。これは神から授かった素晴らしき力。そしてそれを支えるものがあるからです」


 すると、ちょうど胸の位置にあるペンダントを撫でた。


「それは信仰。神の為に尽くすという使命。それが聖女の力となります。魔法を使うということは自らの為に魔力を行使するということ。神から与えられた魔力を私利私欲のために使うなどあってはならないのです」


 魔法が使えない。この世界においてそれは大きなハンデとなる。たとえ変わりがあったとしても。しかし、彼女の顔には一切の不満がない。それ程までに聖女という立場に誇りを持っているのだろう。


「シス」バタンッ


 唐突に、先ほどまで喋ることがなかったラトリックが急に扉を開けた。全員が一斉にそちらの方を見る。


「私、先に行ってるね!」


「ラ、ラトリックさん、?休憩時間はまだありますよ?」


「いえ、平気です!なんだか体を動かしたくなっちゃって!」


 答えるや否や、外へ駆け出していくラトリック。静止の言葉をかける時間すらなかった。


「なんだ〜?やる気が溢れちゃったか〜?」


「、、、ラトリックにも祈言(いのりごと)の効果が出たとか?」


「そんな筈は、、、」


 首を傾げるカルネア。どうやら理由は不明だが、ラトリックはそういう気分らしい。


「私たちも行くか〜?」


「やだね。休憩時間に働くのは良くない」


「えぇ。ぜひそうして行って下さい」


 *


 庭へ出ていったラトリック。彼女は近くにあった噴水の縁に腰をかけていた。


(、、、)


 その表情は暗い。いつもの明るい笑顔とは似ても似つかない。一言も喋ることなく、ただ俯いたままだ。

 そのまま少しの時間が過ぎた。


「よしっ!終わり!」


 急にそう叫ぶと自らの頬をペチンと叩き、勢いよく立ち上がる。


「悩んでたってしょうがない!私にはそんなのあってないもんね!」


 まるで誰かに言い聞かせるかのようにそう呟くと孤児院に向かって歩き出す。


「すみません」


 その足は不意に後ろから聞こえた声に呼び止められた。


「はい?」


「ここのシスターさんに用事があってきたのですがどこにいるか知っていますか?」


 後ろを振り返ると、身なりの良さそうな格好に包まれた青年がいた。どうやら教会に用事がある客のようだ。


「シスターならそこの礼拝堂の中にいると思いますよ」


「そうですか!ありがとうございます」


 その青年は軽く会釈をすると、そちらの方へ歩いていった。周りをよく見ると、同じ場所へ向かっていくにと影がぽつぽつと立っている。


(そっか、、、こんなに居るんだ)


 礼拝堂の中へ入っていく人を眺めていく。きっと彼らは神の救いが必要な人達なんだろう。彼女はそう思った。


(あと何分くらいかな)


 時計を取り出し、現在の時間を確認する。あと10分もすれば休憩時間も終わる。そんな中自分がここにいては不自然だ。彼女はこんどこそ孤児院の方へ歩いていった。


 *


 教会の入り口からは見えない場所。孤児院の入り口が見えてきた。


「あれ?」


 そこには見たことがない人が立っていた。おそらく孤児ではないだろう。乱れたシャツによれよれのスーツを着た男が立っていた。何やら下を向き、ぶつぶつと何かを呟いている。


「あの、どうされました?」


 それでも彼女は臆さない。その男に近づき、話しかける。


「あ、、あぅ、、、あ、、、」


「あの!」


 しかし、その男の反応はない。何かをうめき続けている。何をするでもなくただ呆然と。


「どうしよう、、、」


 目の前で手を振ったりしたが、そちらを見ようともしない。


(なんというか、、、気づいていない?私がそもそも認識できていないみたいな?)


 そんな感想を彼女は抱いた。そうして謎の人物の前で悩んでいると、大きな鐘の音が響いた。


「あら。もう一時なのね」


 それは時刻を知らせる鐘の音。変哲のない日常の風景だ。


「あっ、、、あっ、、、」


 その筈だった。


「あっあっあっあっ」


「どうしました!?」


 その鐘の音で謎の男が頭を抱えて苦しみ出した。咄嗟に駆け寄るラトリック。しかし、男はラトリックには変わらず反応していないようだ。


「アーアーアーアアーー」


 そして鐘の音が鳴り止もうとする時


「ア"ア”ア”ア”ア"ア”ア”ア”ア"ア”ア”ア”ア"ア”ア”ア”!!!!!」


 絶叫と共にその肉体が黒く輝いていく。


「な、なにっ!?何が起きてっ!?」


 その輝きはどんどんと拡大していき、目の前を染めていった。思わず目を閉じてしまう。


(くっ、、、!)


 頭部を守るように腕で顔を覆う。そして、男の絶叫が鳴り止み、光が消え、再び瞼を開くことができた時、


「これは、、、」


 フェリス大教会。その広大な敷地に覆い被さるように、謎の幕が張られていた。

4-4話です。ラグメラです。

完成まで長かった、、、。いうて前回もこんなもんかな?

あとX始めました。今後活動報告の代わりはこっちでやろうかなって思ってます。予約投稿の宣伝もそっちの方が楽だし。

進捗とかもポストするのでよかったらフォローしてください。

https://x.com/drbn0VF7vq77627

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ