4-3話
装飾こそないが、綺麗に掃除された門をくぐる三人。彼女らを出迎えたのは丁寧に手入れされた庭と、荘厳な教会だった。レンガと魔法で作られた街から見ると、そこだけ城外の世界を再現しているかのようだった。
「本当にここだけ異質な空間だよなぁ〜。別世界に来たみたいだぜ〜」
「そうね。さて、、、。着いたわよノウン」
そういって後ろを振り返る。そこには空飛ぶ絨毯の上で穏やかに熟睡しているノウンの姿があった。
「よく寝てるな〜」
「起きなさいノウン!ノーウーン!」
ゆさゆさと体を揺らすラトリック。しかし、一向に目覚めるがない。振動を感じてすらいないのだろうか。不満の声ひとつあげずに寝息を立てている。
「、、、えいっ」
「ふぎゃっ」
面倒くさくなったのか、寝具と化した絨毯をひっくり返す。顔面から地面と激突するノウンから小さな悲鳴が聞こえた。そのまま大きな声で呼び起こす。
「おはようノウン!着いたわよ!」
「痛い、、、おはよう」
寝ぼけ眼を擦りながらのそのそと立ち上がる。現状を正しく理解できているのかもわからない。
「体がだるい、、、」
「寝起きだからでしょ。ここまで引っ張ってきてあげたんだからそれくらい我慢しなさい!」
「うん、、、」
大きな欠伸をしながら、地面に魔力で円を描く。格納庫の扉を作った。そこに絨毯を飲み込ませると、代わりに小さなサンドイッチを取り出した。そのままもぐもぐと食べ始める。
「全く、、、早く食べちゃいなさい」
「お母さんか〜お前さんは」
もくもくと食べ進めるノウン。それが無くなる頃、教会の扉が開き中から人が出てきた。こちらを見つけると、朗らかな笑顔を浮かべながら近づいてくる。
「あなたたちが本日の警備にきてくださった方ですね。皆様の貴重な時間を使わせていただくこと、感謝します」
修道服に身を包み、丁寧にお辞儀をする。彼女はカルネア=トインツ。フェリス大教会で生活しているシスターであり、数少ない「聖女」の一人だ。三人はそれに応え、名乗り返す。
「初めまして。ラトリック=シュナイダーです」
そのときだった。彼女の名を聞いた時、カルネアは一瞬、肩を振るわせた。
「、、、?」
その違和感に気づいたラトリックは怪訝な顔をして彼女を見返す。
「あっ、、。申し訳ありません。知り合いに似ていて少し驚いてしまいました、、、」
一瞬顔を逸らす。そして次に目があった時はすでに笑顔に戻っていた。しかし、場の雰囲気というものは変わらない。話しずらい間というものが生まれてしまった。
「それで本日私たちは何を?」
その空気を変えようとエトワーが質問する。
「そ、そうですね。本日皆様にお願いするのは、、、」
エトワーの質問に彼女は自身の指を顎に添え、思い出すように思案する。
「子供たちの見守りをお願いします」
*
巨大な教会の裏に回ると、そこにも大きなスペースがある。ちょうど礼拝堂の後ろの壁に隣接するように作られたようだ。
「はい捕まえた!お前が鬼な!」
「次は私がお母さん役ねー!」
「うわぁぁぁん!返してよー!」
その扉を開けると、たくさんの騒ぎ声が衝撃となって三人を襲った。暴れる音や、大声で叫ぶ音、泣き喚く音。それらを前に思わず一歩仰け反ってしまう。
「皆さーん!お静かに!」
その爆音の大合唱の中でも、彼女の声は澄み渡るように響いていった。その言葉を聞いた子供達は「言うことを聞かなきゃ!」とばかりに声を沈めていく。
「よろしい。こちらは本日皆さんのお世話をして下さる方々です。ちゃんと言うことを聞くんですよ」
「「「「「はーい!」」」」」
一斉に答える子供たち。フェリス大教会に信者たちが祈りを捧げる礼拝堂の他にもうひとつ建物がある。それが孤児院だ。そこには50人ほどの孤児たちが住んでいる。
「私はこれから本日の務めがありますので行かなければなりません。ここはよろしくお願いします」
そう言うと、カルネアは教会の方へ戻っていく。それと同時に子供たちの目線が集まってくる。
「、、、ど〜するよ」
その視線から逃れるように、エトワーが全員を回れ右させる。即席の作戦会議がひそひそと始まった。
「俺にいい案がある。昼寝とかどう?」
「お前さんが寝たいだけだろ!まだ朝だ!」
「私の特訓を一緒にやってみる?いい運動になると思うけど」
「ちなみにどんな事を?」
「倒れるまで魔力と筋トレ」
「ハードすぎる!てかお前さんそんなことしてんの!?絶対やめろよ!?」
そんな会話をしていたからか、その背後から忍び寄ってくる人影に気が付かなかったようだ。
「おにーさん!おねーさん!」
「うわぁ!ど、ど〜した?」
寄ってきた子供達はきらきらとした目つきでこちらを見てくる。
「今日はいっぱい遊んでくれるの!?」
「え?」
「いつもの人たちは忙しいって少ししか遊んでくれないの!」
「こっち来て!おままごとしましょ!」
「俺たちの方が先だぞ!騎士ごっこしようぜ!」
その数はどんどんと多くなっていく。数人だった人の数がどんどん集まってくる。全員がやりたいことを口々に要求してきた。
「、、、そうね!もう考えるのはやめて遊んであげましょう!」
ラトリックはそう言って子供たちの中に合流していった。エトワーとノウンもそれに続く。結局は流れに身を任せるのが一番いいのかもしれない。
4-3話です。ラグメラです。
文化祭があったので1週間があっという間。短いですが一旦投稿します。




