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騎士は魔法で夢を見る  作者: ラグメラ


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3-6話(終)

 覚悟を決め、近くの木々に突っ込む二人。それを見た鳥魔獣(ギシシア)も全力でその後ろへ迫り来る。


「タイミングはあいつが煙に突っ込む瞬間!鳥魔獣(ギシシア)の頭の上を狙う感じで!」


「煙なんてどこに、、、お前まさか!」


「そのまさか!『炎球(フレア)』!」


 ラトリックは近くの木々目掛けてその炎を放った。パチパチと焼ける音と空を飲み込む黒煙が立ち上って行く。


「あぁもう!人使いが荒いぜ!」


 その中へ少しも減速することなく突入して行く。その数瞬後、鳥魔獣(ギシシア)も黒煙目掛けて付いていった。


(前が見えないぜ!一瞬でも気を抜いたら墜落だ!)


 それでも速度を落とすことなく、前へ前へと突き進んでいく。そして、一瞬、背後の黒煙が途切れた。その瞬間に合わせてエトワーは魔法を行使する。


風送(エア)!』


 それは風属性の基本となる魔法。魔法陣から旋風が生み出され、術者の意のままに操られる。差し込んだ光を頼りに、その魔法を放った。

 そのまま行使した数秒後、暗闇を抜け視界を埋め尽くしていた煙が消え去った。


「どうだ!ラトリック!」


 メチャクチャな提案をしてきた者の名前を呼ぶ。しかし、反応がない。


「ラトリック、、?」


 恐る恐る後ろを振り向く。しかし、その先には先ほどまで乗っていたはずの姿がない。そこにはいまだ立ち上る煙だけだ。箒を急停止させる。


「嘘だろ、、?」


 何かをしようとして失敗したのか、あるいは魔獣には効かず墜落してしまったのか。想像もしたくないようなことばかりが頭に浮かんでいく。


「ラトリック!!!!」


 大声で叫ぶエトワー。しかし、返事は返ってこない。


「ちくしょう、、。やっぱり止めるべきだったのか、、!」


 俯くエトワー。後悔と無力感で視界が滲んでいく。だがそうしている暇もない。すぐに鳥魔獣(ギシシア)が姿を現してきた。


「クゥル!クゥル!」


「来たか。、、ん?」


 しかし明らかに様子がおかしい。あちらこちらを飛び回っている。まるで何かを振り落とそうとしているかのように。


「このっ、!大人しく、しろ!」


 その背中で長い赤髪が揺れている。その姿は彼女が先ほどまで載せていた人物と一致した。


「お前さん!?どうやってそんなところに!?」


 暴れる魔獣の背を器用に登り、その頭部へと辿り着く。


「散々手こずらせてくれたわね!覚悟はいい!」


 ラトリックはその手を空にかざす。その目は獲物を逃さぬようしっかりと捉えられていた。

 飛行する魔獣の上空に火球が生み出されて行く。必死に逃れようと暴れるが、その乗客を振り落とすことができない。


「喰らえっ!『炎球(フレア)』」


 打ち下ろされた炎は魔獣の背に直撃する。その威力に押しつぶされ、重力に逆らえ無くなって行った。


「クゥルルルルル!!」


 それでも必死に空中で堪えようとする鳥魔獣(ギシシア)。ここを耐えれば勝利だと確信していた。しかしどんどんと高度が下がって行く。


「行っけぇぇぇぇぇぇ!」


「クゥルルルッルル!!!!!」


 最後に炎球は魔獣を飲み込み地面に落ちて行った。地面に叩きつけられようが構わず燃え続ける業火の前に、それは動かぬ肉塊と化した。


 その光景を見て、ゆっくりと落下して行く彼女は静かに拳を握った。その赤髪が太陽のあかりに照らされ輝いていた。


 *


「ラトリック!無事だったか!」


 足場を失い落ちて行く彼女を捕まえるエトワー。


「なんとかね。危なかったわ」


 箒の背に乗り直すラトリック。力を使い果たしてしまったのかエトワーの背にもたれかかって行く。


「お前さん。一体どうやって魔獣の背中に乗ったんだ?」


「それはねぇ。これを持ってみて」


 そういうとラトリックはエトワーに指向性加速器を手渡す。その違和感はすぐに感じ取られた。あまりにも軽いのだ。まるで中身のない箱のように。


「これは、、『軽量化(サイズダウン)』?」


「そう!『重量化(サイズアップ)』と似たような感じでできないかなって試してみたら、上手くいってね!これなら自分自身を軽くすればエトワーの風で運んで貰って飛び乗れるんじゃないかなと思って!」


 ラトリックは自慢げに話し始めた。疲れも忘れて興奮気味に語って行く。


「視界も使えない中よくやるぜ〜。初めて使う魔法に命をかけすぎじゃないか〜?けど助かったよ」


「どーいたしまして。あ!正門が見えてきた!」


 朝一番に集まった場所が見えてくる。まだ1日は始まったばかりだというのに気分はもう夕方だ。正門のそばにはカルトス学長がいた。だが、なにやら慌ただしくしているようだ。


「失礼します。エトワー=ルート。只今帰還しました。」


「同じくラトリック=シュナイダー!帰還しました!」


「ルート!シュナイダー!無事だったか!」


 学長は二人を見るなり飛んできて安堵の息を漏らした。それが端的に異常事態が発生していることを表している。


「何かあったんですか?」


 エトワーは怪訝な顔をして尋ねる。ある程度察しはついているが。


「あぁ、、。それが本来はラートヌス近辺に生息していない筈の魔獣が大量発生してな。その対応に追われていたのだ」


「他にもいたんですか!?」


「他にも?まさか諸君らも接敵したのか!?」


 学長は慌てたような声を出す。その中には自分たちの身を案じているような気配を感じられた。


「はい。上空で鳥魔獣(ギシシア)と接敵しました。討伐はできましたが回収はしていないのでまだ死体がのこっているかと」


「なんと、、!よくやった!すぐに現場に向かわせる!諸君らはここは私たちに任せて治療行くように!」


「「ハッ!」」


 その言葉を合図に再び学長たちは人混みの中に消えて行く。


「行くか〜ラトリック」


「そうね」


 街の中へ消えて行く二人。しかし、甲高い声と共にその歩みは止められた。


「おーーーほっほっほ!!!!何か異変が起きたと聞きましたがこの程度ですの!?」


「やはり!僕たちの歩みを止めるものは何もない!!」


 振り返るとララルト兄弟が正門を潜り抜けていた。その肉体には傷ひとつなく、息切れすらも起こしていない。


「さて!あの愚か者達を待たねばな!」


 どうやら自分たちの存在には気がついていないようだ。平然を装って接近して行く。


「いったい誰を待ってるんだ〜?」


「ルートさんですわ!全くあの方の、、、」


 そこで彼女の発言が途切れた。その姿を見るや否や驚愕の表情と共に固まってしまった。


「なっ、なぜ貴様らが、、、!」


「ふふん!どうやら私たちの方が早かったみたいね!」


「そ、そんなバカな!あなたみたいなお荷物がいながら、私たちよりも早く辿り着くなんて!」


 そんなことは認められないとばかりに捲し立てる二人。しかし、なんと言おうが現実は変わらない。


「嘘でしょう、、こんなことがあり得るはずが、、、」


 扇で口元を隠しているがふるふると震える体を隠すことはできない。そんなナートルに近づき、方を叩く。その顔の近くでエトワーは言葉を発した。


「言っただろ〜。こいつの方がお前らよりも結果出せるってな〜」


「な、、、な、、、」


 その一言がトドメとなったのか、二人を押しのけ街の方へ走り去っていってしまった。その目には雫が流れていたかもしれない。


「次はこうはいきませんことよ!エトワー=ルート!そして覚悟しておくことね!ラトリック=シュナイダー!その名前忘れませんわーー!!!」


「待ちたまえ!姉さーん!」


 *


 王宮内。一人の騎士が扉を叩く。


「入れ」


「失礼します!」


 ギシリと音をたてながらその扉を開けてゆく。その広い部屋の中には二人の人物がいた。一人は全身を鎧で包んだ銀髪の女性。先ほどまで事務作業でもしていたのか片付けられた書類が積まれている。

 もう一人はピンク色の跳ねた髪が特徴的な目隠しをした少女。隙間などなさそうだが、視界は問題なく通っているらしい。


「報告に参りました!こちらが現在発見された異常種の発生場所になります!」


 書簡が手のひらを離れていき、銀髪の女性が座っている机の上でひとりでに開いて行く。


「確認されているだけで13体、か。それで?()()()()()()()()()()()


()()()()1()1()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 はぁ、とため息をつく。ここ最近謎の進化を遂げた魔獣が本来の生息域から外れた場所に現れ、謎の魔法使いに討伐されている。


「この魔獣達はどうなっていた?」


「肉体の肥大化、一部分の異形化、性格の凶暴化などを除けば通常の個体と変わりません。しかし、、、」


 そこで兵士は一拍置いた。その一拍が、これから伝えることの危険性を物語っている。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 その一言で場の空気に緊張が走る。

 魔術。たった一文字の違い。しかしこの世界で、その一文字の違いは全く異なるものを示している。


「、、、そうか。ご苦労だったな。下がっていいぞ」


「ハッ!」


 その兵士は規則正しい動作で退室して行く。その部屋の中には張り詰めた空気だけが残っていた。


「来てるみたいだね。招かれざる客人が。どうするんだい?問題は山積みだよ」


 ピンク色の髪の少女がそう問いかける。その可愛らしい声の中からは想像できないような知性を感じた。


「そうだな」


 しかし女性は動じない。抑揚の少ない口調で淡々と話して行く。


「まずはこの魔法使いを見つけるところからだな。なぜ異常種を我々より先に見つけることができているのか。それを聞き出さなくてはならない」


 兵士が持ってきた書簡。そこには異常種が見つかった場所が記されている。その中で一点。死体が集中して発見されている場所がある。


「ずいぶん近場に集中しているところがあるじゃないか。おや。ここだけ魔法反応が二つあるんだね」


「そうだ。そしてここは若馬の厩舎(ノートンクラン)の最初の課題で行く場所でもある」


 その情報を聞いた少女は口元に小さな手を添えた。


「なるほど。新入生の誰かが異常種狩りを見た可能性があるってことだね。闇雲に探し始めるよりはマシかな」


 すると少女が魔法陣を起動させ、独り言を唱え始める。どうやら各所に連絡と指示を飛ばしているようだ。


「それで?どうするんだい。私たちに隠れてやってるんだ。なにかやましいことがあるかもしれないよ?」


「それならそれでいいさ。その魔法使いも倒せばいい。なに、負けはしない」


 その鎧の胸に掲げられた紋章(エンブレム)。彼女はそれの前に手を置いた。


王馬の厩舎 (キングスクラン)の名において」

3-6話です。ラグメラです。

3話終わり!実は3話は急に生やしたストーリーだったのでまとめるのが大変でした。行き当たりばったりはよくない。

4話からは一応プロット的なの書いてみたのでちょっとは書きやすくなるかなぁ?

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